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月例研究報告 2月

1. 共同利用状況など

【 国際評価 】

 Neutron Advisory Committee (NAC)が、Rutherford Appleton LaboratoryのRobert McGreevy氏を委員長として、2/20-2/21にJ-PARC研究棟において開催された。中性子源の開発状況や今後の方針、中性子ビームラインの整備状況、成果創出のための取り組み状況などについて、委員会による評価報告書の作成が行われている。

 

2. 研究グループの活動状況

(1) 量子物性グループ

【 BL12高分解能チョッパー分光器HRC 】

 HRCにおけるフェルミチョッパーの改造

 フェルミチョッパーは、遮蔽板とスペーサーを交互に積層したスリットパッケージを回転させ、スリットが中性子ビームの方向に向いたタイミングに中性子を透過させて、中性子ビームを単色化させるデバイスである。円柱状の回転体の胴体にスリットパッケージを挿入し、これを中性子の発生に同期させて回転させる。HRCではこれを用いて実験してきたが、いくつかの点で設計性能に対する低下が見られ、その原因について検討を重ねて来た。遮蔽板とスペーサーの厚さの和が円柱状回転体のスリットパッケージを挿入する部分の幅に等しくなるように積層し、これを挿入したものをこれまで使ってきたが、高速回転(f=100~600Hz)させると、発生応力によりスリットが変形し、これが性能低下のひとつの原因であることがわかってきた。今回、油圧プレスを使ってスリットパッケージを圧縮し、できるだけ多くの枚数の遮蔽板とスペーサーを回転体に挿入する改造を行った。その結果、目視では高速回転後のスリットの変形は確認されず、標準試料(バナジウム)を用いた測定では、弾性散乱のエネルギー幅(エネルギー分解能)は狭くなり、ピーク強度は増大した。たとえば、中性子ブリルアン散乱実験で用いられる入射中性子エネルギーEi=100meV、フェルミチョッパー回転周波数f=600Hzの条件では、エネルギー分解能E/Eiは1.9%から1.8%に向上し、ピーク強度は17%増、積分強度は12%増となった(図1(a))。昨年、小角検出器の二重化により中性子強度が1.4倍に増大したことを報告したが、今回の効果も合わせれば、中性子ブリルアン散乱実験において、ピーク強度は1.6倍、積分強度は1.5倍に増大した。さらなる強度増をめざして、現在コリメーターの改造を行っている。今回の改造ではもうひとつの効果があり、図1(b)に示すように、今までE=90meV付近に見られていたピークが消失した。フェルミチョッパーでは透過強度を増大させるためにスリットに曲率をもたせてあり、半回転した状態では透過することはないようになっている。しかし、これまで、スリットの変形により、半回転した状態でも透過して90meV付近にピークを作っていたが、今回の改造により変形が抑えられ、半回転した状態では透過しないようにすることができた。これにより、測定範囲を拡大することができた。

 

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図1. Ei=100meV 、f=600Hzの条件で、(a)L2=5.2m(L2:試料-検出器間距離)、及び、(b)L2=4mで測定したバナジウム標準試料のスペクトル。赤はこれまで用いられてきたフェルミチョッパー、青は今回改造したフェルミチョッパーを用いた測定データ。

 

【 BL23偏極中性子散乱装置POLANO 】

 装置整備・開発等

 POLANOではビーム受け入れに向けた整備を継続して行っている。その中で現在、計算環境のソフトウェア及びハードウェアの調整を鋭意推進している。1月の計算環境整備では、MLF実験ホールとMLF増設建屋を結ぶネットワークケーブルを敷設し、また、実験時に用いるユーザー操作端末をMLF増設建屋に設置した(図参照)。POLANOでは、ユーザーがこの端末を用いてMLF増設建屋からリモートでDAQ、周辺機器の制御、監視ができる必要がある。それは一般区域であるMLF増設建屋からMLF実験ホール内の装置近傍への頻繁なアクセスが容易ではないためである。チョッパーや真空槽等の周辺機器、DAQエレクトロニクス、計算機がEthernetで接続され、リモートでコントロール及び監視される設計となっている。今後は、各機器のネットワーク接続作業やソフトウェアの整備など、DAQや周辺機器の動作試験に向けた準備を進める予定である。

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図2. MLF増設建屋に設置した実験用ユーザー操作端末。

 

(2) ソフトマターグループ

【 BL16ソフト界面解析装置SOFIA 】

 成果リスト

  1. T. Hayashi, K. Segawa, K. Sadakane, K. Fukao, and N. L. Yamada,
    Interfacial interaction and glassy dynamics in stacked thin films of poly(methyl methacrylate)”,
    J. Chem. Phys., accepted
    .
  2. 山本勝宏, 伊藤恵利, 森友香, 宮崎司, 山田悟史,
    “中性子反射率法によるポリジメチルシロキサン-co-ポリジメチルアクリルアミド含水ゲル表面の含水性評価”,
    高分子論文集, 74 (2017) 36-40.