ミュオン科学研究系活動報告2013-2014(12~1月)

2014年02月07日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:MLF実験棟へのレーザーシステム搬入の様子。(Uラインレーザールーム内)。 [拡大図(479KB)

 2月半ばに予定される運転再開に向けて、MLF実験棟でも工事・作業が大詰めを迎えている。Uラインでは、一部不具合があったビームライン機器の改修が完了した。超伝導湾曲ソレノイドについても、冷却開始直後に長期間の運転停止中に起きた真空劣化に起因すると思われるトラブルが見つかったものの解決し、定常運転に向けて冷却が始まった。下流側の超低速ミュオンビーム発生装置の整備も順調に進んでいる。予定が遅れていたミュオニウム共鳴イオン化用大強度レーザーシステムについては、理研での調整がようやく終わり、1月29日にMLF実験棟のレーザールームに搬入された(図1)。現在、理研のメンバーと協力して機器の再構成作業が始まっており、2月初頭に施設安全検査を受ける予定である。

 

 

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図2:第1実験ホールに設置されたSライン用コンクリート遮蔽体。右手奥2階に見えるはユザーキャビン。 [拡大図(98KB)

2. Sライン

 第1実験ホールでは、この二ヶ月の間に電源ヤード、ユーザーキャビンの設置、およびSライン第1分岐までの遮蔽体の設置工事がほぼ完成した(図2)。また、電源ヤードのM2ライン東側壁面と中性子ビームライン側の高架床面とをつなぐ階段も設置され、地上に降りることなく往来が可能になっている。さらに、現在S1実験エリアを構成するための衝立て壁、入退出制御ドア、実験用電源板、冷却水等の工事が始まっている。
 一方、ビームライン機器については主要な機器の入開札が終了し、落札業者との契約に向けた打ち合せが進んでいる。なお、これらの機器の設置作業については、ハドロン事故の影響等で予定が遅れたこともあり、最終的に平成26年度夏のシャットダウンに延期することとした。

 

3. Dライン

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図3:Kalliope検出器が取り付けられたD1エリア分光器。外部とはイーサネットケーブルのみで接続され、従来の多数の信号線は一掃された。 [拡大図(49KB)

 D1エリアでは、JAEAの資金で導入された分光器用電磁石へのKalliope検出器(1280チャネル)の実装作業が完了し、オフラインでの動作試験も順調に進んでいる(図3)。2月のビームタイム開始と同時に行われるコミッショニングに向けて、現在さまざまなテスト実験のメニューが組まれつつあり、そのための付加的なデータ収集コンピュータープログラミングなどが行われている。また、これと平行してD2エリアではキッカーを動作させてのX線測定テストなども予定されており、計算機センターの鈴木聡氏の協力の下、こちらについても新たなデータ収集系の構築が進んでいる。
 震災復旧予算で措置されたD1エリア用希釈冷凍機も予定通り12月中に第1実験ホールに納入され、年末・年始を挟んでの冷却試験の結果、仕様通り最低到達温度が50 mK以下になることが確認された。
 同じく、震災予算によるDΩ1分光器の更新措置の一環として分光器用電磁石(超伝導磁石、最高磁場5テスラ)に取り付ける陽電子検出器系については、概念設計と大まかなシミュレーションが一段落し、入札仕様が固まった。1月末付けで官報への公告も行われており、現在応札を待っている状態である。

 

4. ミュオン回転標的

 予定していた回転標的導入を延期し、固定標的を継続使用することとなったため、ビームライン内で使用中の固定標的の外観を観察装置にて確認し、破損していないことを確認した。さらに、従来の最も過酷な条件での評価から実態に即した条件での寿命評価を実施し、現在の強度であれば3年ほど継続使用可能であることを確認した。同時に、運転時に固定標的の健全性を確認するためのインターロック系の増設を実施した。実際のビーム運転に備え、異常発生時の運転マニュアルを整備した。回転標的に関してはレビュー委員会での勧告を元に、軸受の固体潤滑材の電子線照射試験をレビュー委員でもある石川氏と実施している。固定標的、回転標的を一時保管する保管用真空容器の搬入、設置作業が終了した。

 

 

◤ 大学共同利用

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図4:MUSEビームタイムの推移。棒グラフが利用者からの要求日数、折れ線が実際に供給されたビームタイム。(ハドロン事故による落ち込みが深刻な影響を与えている。) [拡大図(213KB)

・2014A期一般課題

 D1/D2実験装置の2014A期課題については、1月21日に開催されたMLFミュオン課題審査部会・分科会で審査が行われた。2014A期のビームタイムについては85日を想定し、これから装置グループ利用、施設長留保の時間を差し引いた65日が一般課題の利用に供されることが確認された。このビームタイムについて、P型課題として申請された1課題を含む32課題(合計の要求ビームタイム日数150日)に対してどのように割り当てるかが議論された。その結果、できるだけ多くの課題に実験の機会を与えるという方針の下、評点に配慮した傾斜配分になるようマシンタイムを再調整することが合意され、優先順位に従い上位26課題を採択(65日分)、残り5課題を補欠採択とすることなった。また、P型課題については別枠として1日のビームタイムを付与することとした。なお、参考までに、MUSE稼働以来過去6年間のマシンタイムの需給状況を図4に示す。
 上記の審査結果については、2月3日に開催されたMLF施設利用委員会の席上で小池洋二部会長から報告、了承された。

 

・2014期S型課題

 昨年10月〜11月に行われた公募に対して申請があった物構研ミュオン共同利用S型課題のうち、第二段審査を希望する課題4件について12月26日に開催されたMLFミュオン装置部会・実験技術評価分科会でヒアリングによる審査が行われた。その結果、2件について二次採択を勧告、残り2件については二次採択保留を勧告するという評価結果が得られた。
 上記評価結果は1月27日に開催された物構研ミュオンPACにおいて旭耕一郎分科会長からの報告を基に書面による審査が行われ、分科会の評価結果に基づいて2件を二次採択、残り2件にを二次採択保留と結論した。また、2月3日に開催されたMLF施設利用委員会の席上でMLFミュオン装置部会からの報告事項として旭耕一郎部会長から報告、了承された。
 なお、新規課題として申請された2件については、いずれもDラインを想定したものであることから、従来のS型課題として審査を行うかどうかについて議論が行われ、現状では既存装置の長期利用計画を必要とする課題の設定がないことから、当座は現行のS型課題の枠組みで受け入れることとし、審査のためのヒアリングをおこなった結果、2件ともに一次採択との結論が得られた。

 

・S2型課題の導入について

 前項の状況に加え、物構研で計画されている「マルチプローブ課題」に対応するために、「既存装置の長期利用計画を必要とする課題(プロジェクト型)」の導入が議論され、大筋で了承された。これを承けて、施設側では具体的な課題の定義・募集要項等を近日中に策定し、改めてミュオンPACに諮ることとした。

 

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