ミュオン科学研究系活動報告2017(9~12月)

2017年 1月

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. 超低速ミュオンビームライン(U-Line)の進捗

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 図1:ミュオニウムW 生成標的 [拡大図(520KB)

 U-Line では、2016年の2月に超低速ミュオンの生成に成功した後、同年5月には、毎秒36イベントの超低速ミュオンを観測している。
 その後、ビームラインの性能向上を目指し、ミュオニウム生成標的(タングステン箔)の高純度化、共鳴イオン化用レーザーの安定化、レーザーのスペクトルの改善、静電レンズ用電源の性能向上などを行い、2017年2月には、超低速ミュオンの生成効率を前年の2倍にまで引き上げることに成功した。

 

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   図2:超伝導ソレノイド [拡大図(672KB)

 今年度は、ビームの輸送効率を高めるためにビームラインに追加したソレノイドを励磁し、ビームチューニングを続けた。これには、ソレノイド磁場中で静電セパレータを動作させる必要があり困難を伴ったが、そのエージングや立ち上げのプロセスを最適化することで、なんとかソレノイドとセパレータの両立できる方法を見出し、7月には、輸送効率を1.5倍にまで改善した。

 

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 図3:追加の磁気遮蔽 [拡大図(909KB)

 夏季シャットダウン中には、超伝導ソレノイドからの漏れ磁場を低減するための磁気遮蔽の設計・設置を進めている。これにより、超低速ミュオンの偏極率を維持し、さらにビームの輸送効率の向上や、スポットサイズを絞ることが可能となる予定であり、11月からのビームタイムでの超低速ミ ュオンを用いたμSR実験の実施へ向け、着々と準備が進行している。

 

2. ミュオンS ライン共同利用実験

 夏期シャットダウン後のMLF では10/24 よりD ライン、S ラインにおいて共同利用実験が順調に始まっている。S ラインでは夏期シャットダウン中に準備をすすめていた新たな試料環境を用いた実験が行われた。豊田中研・杉山グループは科研費基盤B により整備した高温測定オプションをS ライン既設のクライオスタットに組み合わせて、低温から高温までの広い温度領域で電極材料中のイオンの運動を観察する実験を行った。本実験ではスウェーデン王立工科大の研究者ら4 名も参加した。

 

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   図4: 写真左[拡大図(930KB)] /写真右[拡大図(1100KB)

 

3. ミュオンH ライン屋外受電ヤード工事

 現在建設中のミュオンH ラインは高統計を要する基礎物理実験や透過型ミュオン顕微鏡などの実験が計画されている大強度ミュオンビームラインである。すでに大口径キャプチャソレノイドなどのフロントエンド部の磁石および実験エリアまでの遮蔽体の設置は完了しているが、ビームラインに必要とされる電力は約5MW に達し、MLF 既存の受電設備では賄えない。そこで現在、MLF 外部に新たな受電ヤードの建設を進めている。
 2017 年度夏季のビーム停止期間中には今後の電源ライン引き込み工事の準備として、MLF外壁に1m×2m のハッチを新設した(図6)。気密は健全に保たれている。10 月からは屋外受電ヤードの基礎工事を進めている。

 

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   図5:H ライン屋外受電ヤードの位置 [拡大図(975KB)

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  図6:MLF 外壁に新設したハッチ [拡大図(811KB)

 

 

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