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KEK

豊島 章雄氏、KEK技術賞を受賞

物構研トピックス
2015年1月20日

放射光科学第一研究系専門技師 豊島 章雄氏がKEK技術賞を受賞し、1月14日に表彰式が行われました。この賞は、機構内の技術者を対象とし、技術の独創性、研究への貢献度、技術伝承への努力等を審査し授与されるものです。今回の技術賞講演は、KEK技術職員シンポジウムのプログラムの一部として行われ、機構内外からおよそ150名が聴講しました。

鈴木厚人KEK機構長(前列中央)と受賞者
受賞者:左から、橋本 義徳 氏、豊島 章雄 氏、千代 浩司 氏


受賞対象となったのは、「高輝度真空紫外軟X線ビームラインの建設・調整法と光学素子の in situ 炭素汚染除去法の開発」です。フォトンファクトリーでは、X線領域と真空紫外・軟X線領域を利用する、2種類のエネルギー領域の放射光ビームラインがあります。豊島氏は、このうち真空紫外・軟X線ビームライン(BL)の建設に携わり、BL-13や、BL-2などこれまでに8本のビームラインを建設してきました。

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図1 光学素子(ミラー)の炭素汚染(中央の黒い筋)

その中で創造的な取り組みとして評価されたのが、光学素子の in situ 炭素汚染除去法の開発です。放射光のビームラインでは、任意の光を取り出し、試料に効率よく集めるため、回折格子やミラーなどの光学素子が使われています。ところが、ビームパイプや真空槽内に炭化水素の分子が残っていると、光電子により分解された炭素がミラーなどの表面に付着し、反射率の低下を引き起こします(図1)。特に真空紫外・軟X線ビームラインは、炭素を含む有機材料や生体分子の研究に利用されており、光が試料に届く前に、光学素子の炭素汚染によって強く吸収されてしまうことは、世界中の放射光施設で問題となっていました。炭素汚染の除去には、超高真空中にある装置を一度分解、取り外してオゾンで洗浄するなどして、再び組み立て、真空にする必要があり、数週間単位の作業を要します。そのため、十分な作業時間が取れずに、光の強度が落ちたまま実験をすることを余儀なくされることもありました。

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図2 in situ 炭素汚染除去を実施する前(黒)と実施後(赤)のビーム強度。炭素のK殻吸収端(284eV)付近で著しく落ちていた光の強度が回復している

そこで、真空を保持したまま、炭素を除去する方法を開発、実用化しました。ビームラインに微量の酸素を導入しながら、分光していない強い光(白色放射光)を照射すると、酸素が反応性の高い活性酸素になり、ミラー表面の炭素と反応して一酸化炭素、二酸化炭素などの気体分子となるため、真空ポンプで容易に排出できます。しかし、この実用化には、汚れの元となる真空中の残留炭化水素を検出限界以下まで下げること、蓄積リングへの酸素の流入を防ぎながら、微量の酸素を光学素子に導入するなどの高度な真空技術が必要でした。緻密に計画を進めた結果、世界で初めて、真空を保ったまま、複数の光学素子を取り外さずにクリーニングする手法の実用化に成功しました(図2)。



この技術により、実験期間中でもほぼ完全に炭素汚染を除去でき、光の強度を保つことができるようになりました。この画期的な方法は、すでに国内外の放射光施設からの問い合わせがあり、導入した放射光施設でも炭素汚染が軽減されています。また本技術は、同様の問題を抱える大強度レーザーや真空紫外光によるリソグラフィ等の分野への貢献も期待されます。


平成25年度KEK技術賞 受賞者

  • 千代 浩司 氏(素粒子原子核研究所専門技師)
    「DAQ-Middleware の高度化と素粒子原子核・物質生命科学分野への普及活動」
  • 豊島 章雄 氏(物質構造科学研究所放射光科学第一研究系専門技師)
    「高輝度真空紫外軟 X 線ビームラインの建設・調整法と光学素子の in situ 炭素汚染除去法の開発」
  • 橋本 義徳 氏(加速器研究施設加速器第一研究系技師)
    「大強度陽子ビームの高ダイナミックレンジのハロー診断のための OTR / Fluorescence スクリーンを用いた2次元ビームプロファイルモニター」

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