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物構研の北村未歩氏、PFユーザーの丹治裕美氏、ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞を受賞

物構研トピックス
2016年7月13日

KEK物質構造科学研究所の博士研究員の北村未歩氏、フォトンファクトリー(PF)ユーザーである東京大学大学院蛋白構造生物学教室の丹治裕美氏が、2016年度第11回ロレアル-ユネスコ女性科学者の日本奨励賞を受賞しました。この賞は日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的に、日本ロレアルと日本ユネスコ国内委員会の協力により創設されたもので、物質科学または生命科学の博士後期課程に在籍または、同課程に進学予定の女性科学者から選ばれます。今年は物質科学分野から2名、生命科学分野から1名の計3名が受賞し、そのうち2名がPFでの成果による受賞でした。授賞式は、7月8日、フランス大使公邸にて行われました。

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授賞式の様子。左から、北村未歩氏、スプツニ子!氏、田中玲奈氏、丹治裕美氏。(写真:日本ロレアル提供)
  • 物質科学分野
    北村 未歩(KEK物質構造科学研究所)
    タイトル:異なる酸化物の界面で発現する特異な強磁性の起源を放射光を用いて解明する
  • 生命科学分野
    丹治 裕美(東京大学大学院薬学系研究科 蛋白構造生物学教室)
    タイトル:自然免疫で働くセンサータンパク質がウィルス感染を感知する仕組みの解明
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界面磁石を発現する酸化物の構造と電子状態

北村氏は、東京大学大学院工学研究科に在学中にはKEKの特別共同利用研究員として、今年度からは博士研究員として、PFで放射光を用いた酸化物の界面の性質を調べる研究をしています。大学院在学中には、PFの大学院生奨励課題(T型課題)にも採択されています。界面では元素の組み合わせによって磁性を発現するという、特異的な現象が起こります(界面磁石)。この仕組みを解明するために、PFでは酸化物を一層ずつ積層しながら、その場で放射光測定をできる装置をMUSASHI(BL-2)に設置しています。北村氏はこの装置の立上げから関わり、酸化物界面を精密測定を行ってきました。その結果、界面の異種酸化物間で起こる電子のやり取りが起きていること、またBL-16Aを使って界面磁石が発現することを解明しました。そして界面でやり取りされる電子が物質によって空間的に閉じ込められたり、広がったりすることが重要であることを解明しました。これらの成果は、界面での電子のやり取りを制御する新規な界面磁石の設計に大きな指針を与えます。

一本鎖RNAによるTLR8の活性化機構のモデル図
一本鎖RNAの分解産物であるウリジンは第一結合部位に、一本鎖RNAやその分解産物であるオリゴヌクレオチドは第二結合部位にそれぞれ結合し、協調的にTLR8を活性化する

丹治氏は、細菌やウイルスなどの病原体に対する防御機構である自然免疫の仕組みを研究しています。その中でToll様受容体 (TLR)は、病原体を感知して自然免疫を発動する機能を役割を担い、特に、TLR8およびTLR7はウイルス由来の一本鎖RNAを認識する受容体で、炎症、抗ウイルス応答を引き起こすと考えられています。丹治氏は、このTLR8をPFのAR-NE3、BL-5AおよびSPring-8を利用してX線構造解析により詳細な立体構造を得ました。その結果、TLR8が薬剤やRNAを検知する詳細な仕組みと、TLR8が自然免疫応答を引き起こす仕組みを解明しました。TLR8は全身性エリテマトーデス(全身の臓器に原因不明の炎症が起こる)などの自己免疫疾患にも関わっていることが報告されていることから、この研究成果は抗ウィルス薬や自己免疫疾患治療薬などの創薬への応用に大きく貢献すると考えられます。


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