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放射光で見えた、オートファジーの分子的メカニズム

物構研トピックス
2016年10月 5日

今年もノーベル賞ウィークがやってきました。初日の医学生理学賞は「オートファジーのメカニズム解明」の業績により、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が受賞され、3年連続の日本人のノーベル賞受賞という嬉しいニュースとなりました。

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フォトンファクトリーでは、北海道大学の故・稲垣冬彦教授、微生物化学研究所の野田展生主席研究員らが、大隅先生との共同研究により、オートファジーのしくみに分子構造から迫る研究をしています。オートファジーでは、細胞内にオートファゴソームと呼ばれる脂質二重膜ができ、それに包み込まれたものが分解されます。2008年に、PF-AR のNW12Aを用いた構造解析により、細胞が不必要だと判断したものを選択的に包み込む際の、積荷を選別するしくみが世界で初めて明らかにされました(1)。最近では、パーキンソン病などの原因となるタンパク質凝集体を選択的に包み込むメカニズムをPF-AR のNW12AとSPring-8での構造解析から解明しています(2)。また、飢餓でオートファジーが誘導される際に、オートファジー始動複合体が形成されるしくみを見出し(3)、この複合体がひも状のタンパク質を編むようにつなぎ合わせて構築されるしくみを明らかにしています(4)。

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図:共同研究グループが放射光で構造決定に成功したオートファジー関連タンパク質の立体構造(画像提供:微生物化学研究所 野田展生)

野田主席研究員は「大隅先生とはかれこれ15年近く共同研究をさせていただいております。放射光を用いたX線結晶構造解析がかなり大隅先生の研究のお役に立てているのではと思います」と語っています。共同研究グループの、フォトンファクトリーを利用した論文は2007年からの10年間で、16報にものぼっています。

多くの種類のタンパク質が関わるオートファジーには、まだまだ解明されていないしくみが沢山あり、今後も放射光がそのしくみを明らかにしていくことが期待されています。


◆ 関連記事

◆ 関連論文

  • (1) Structural basis of target recognition by Atg8/LC3 during selective autophagy.(選択的オートファジーにおけるAtg8/LC3による標的認識機構の構造基盤)
    Nobuo N. Noda, Hiroyuki Kumata, Hitoshi Nakatogawa, Kenji Satoo, Wakana Adachi, Junko Ishii, Yuko Fujioka, Yoshinori Ohsumi and Fuyuhiko Inagaki, Genes to Cells, 13 (2008).
    doi: 10.1111/j.1365-2443.2008.01238.x
  • (2) Structural Basis for Receptor-Mediated Selective Autophagy of Aminopeptidase I Aggregates(アミノペプチダーゼI凝集体の受容体を介した選択的オートファジーの構造基盤)
    Akinori Yamasaki, Yasunori Watanabe, Wakana Adachi2 Kuninori Suzuki, Kazuaki Matoba, Hiromi Kirisako, Hiroyuki Kumeta, Hitoshi Nakatogawa, Yoshinori Ohsumi, Fuyuhiko Inagaki and Nobuo N. Noda, Cell Reports, 16 (2016)
    doi: 10.1016/j.celrep.2016.05.066
  • (3) Structural basis of starvation-induced assembly of the autophagy initiation complex.(飢餓で誘導されるオートファジー始動複合体形成の構造基盤)
    Yuko Fujioka, Sho W. Suzuki, Hayashi Yamamoto, Chika Kondo-Kakuta, Yayoi Kimura, Hisashi Hirano, Rinji Akada, Fuyuhiko Inagaki, Yoshinori Ohsumi and Nobuo N. Noda, Nature Structural and Molecular Biology, 21 (2014).
    doi: 10.1016/j.devcel.2016.06.015
  • (4) The intrinsically disordered protein Atg13 mediates supramolecular assembly of autophagy initiation complexes.(構造を持たないタンパク質Atg13がオートファジー始動装置の超分子複合体を形成)
    Hayashi Yamamoto, Yuko Fujioka, Sho W. Suzuki, Daisuke Noshiro, Hironori Suzuki, Chika Kondo-Kakuta, Yayoi Kimura, Hisashi Hirano, Toshio Ando, Nobuo N. Noda and Yoshinori Ohsumi, Developmental Cell, 13 (2016).
    doi: 10.1016/j.devcel.2016.06.015