IMSS

KEK

タイヤのゴムの充填剤フィラーを探る(1)~クルマの下の力持ち「タイヤ」を知ろう~

2017年11月24日
>>タイヤのゴムの充填剤フィラーを探る(2)
 ゴム/フィラー界面のナノ構造

20世紀初頭まで自動車のタイヤは白かったことをご存じだろうか?白いタイヤのクラシックカーを見たことがある方もいるかもしれないが、ほとんどの人が思い浮かべるタイヤの色はおそらく黒であろう。では、普段目にするタイヤがなぜ黒いのか?その理由は充填剤(フィラー)にある。

◆タイヤは何でできている?

tire組成f.jpg

現在、自動車用のタイヤでは、天然ゴムと数種類の合成ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴムなど)が使い分けられている。そのうち、最も生産量が多く汎用性の高い合成ゴム がスチレン・ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber:SBR)である。合成ゴムの主原料であるブタジエンと、プラスチックの原料の一種であるスチレンを混合し重合すると、一つの紐状の高分子の中にスチレン部とブタジエン部が混在する新しい高分子ができる。現在、工業的には、ガス状のブタジエンとスチレンを加熱せずに触媒などと混ぜ合わせる製造法が主流で、こうしてできるSBRは乳白色である。

ゴムは柔らかい紐状の高分子*でできており、そのままではとても自動車のような重いものを支えることはできない。強度を保つため、タイヤにはゴムに色々な混ぜ物が加えられている。その混ぜ物の一つがフィラーなのである。

この他にもタイヤには、形状を保持するための補強材として、合成繊維でできたタイヤコードなどが使われている。

*スチレン:プラスチックの原料の一種。常温で液体。スチレンだけが結合(重合)すると、ポリスチレン(PS)となり、CDケースのような透明なプラスチックも、スチレンボードなどの発泡スチロール、不透明なプラスチック容器も作れる。PSは常温でガラス状態。
*ブタジエン:合成ゴムの主原料。常温で気体。ブタジエンだけが重合するとブタジエンゴム(BR)になる。BRは常温でゴム状態。
*高分子:多数の小さな分子(モノマー)が重合したもの。ポリマー。

◆タイヤが黒くなったわけ

フィラーの先駆けは、カーボンブラックである。1904年にイギリスの S.C. Mote が、ゴムに練り込むと、ゴムが強くなり長持ちするようになることを発見した。 カーボンブラックとはいわゆる「煤(すす)」のことで、油やガスを燃やしてできる直径数~数百nm程度の粒子だ。 大気中に漂う浮遊粒子の平均サイズはこれよりも大きいと言われているから、塵も積もればとでも言おうか、小さな小さな粒子たちがタイヤを黒くしていたのである。 「黒いタイヤ」は耐摩耗性とグリップ性に優れており、1910年頃アメリカにあったグッドリッチ社が開発し売りだすと、自動車のタイヤは瞬く間に黒くなっていったと言われている。

◆古くて新しいカーボンブラック

カーボンブラック分散2.gif
「カーボンストラクチャー」イメージ図

カーボンブラックは、新聞などの印刷用の黒色顔料として、また電子機器の導電性を高める材料としても使われている。
黒い粒と言っても、実際には一粒一粒がばらばらの状態でいるわけではなく、図のようなブドウの房状の塊(カーボンストラクチャー)を最小単位として存在する。 カーボンブラックが練り込まれたゴムは、ゴムの高分子の中にカーボンストラクチャーが散らばっている状態になる。

タイヤ用ゴムの性質を変えるのに、カーボンストラクチャーの形を制御する技術が用いられることがある。 例えば、一つの塊の中の分岐を変えることで、タイヤのグリップ性能や強度を変化させている。

◆バウンドラバー

boundrubbers_or2.gif
「バウンドラバー」 イメージ図

ゴムはトルエンやベンゼンなどの有機溶媒によく溶ける。ところが、ゴムにカーボンブラックを加えて練り混ぜると、これらの溶媒に長時間浸けてもゴムの一部が溶けなくなる。 カーボンブラックの周りに付いた一部の高分子だけが溶けずに残るのだ。このゴムの不溶成分はバウンドラバーと呼ばれ、ゴムの力学物性と密接に関係すると言われている。 1971年に Kaufman らは、NMRを用いた研究からカーボンとゴムの界面には異なった3つの領域があることを示した。
1. 動けるゴム
2. カーボンの外殻の少しは動けるゴム(ゴムの10~20%)
3. 内殻の強く結合したほとんど動けないバウンドラバー(ゴムの2~3%)
バウンドラバーを電子顕微鏡で観察すると、カーボンブラックの周りに厚さ10 nm弱の高分子の吸着層が形成されていることが明らかになった。 このことは、フィラーの役割を理解する上での鍵になると考えられる。

◆もう一つのフィラー、シリカ粒子

現在、タイヤのゴムにはフィラーとしてカーボンブラックに加えシリカ(SiO2)粒子が配合されている。シリカ粒子には低燃費性とグリップ性を向上させる効果があるからだ。 しかし、低燃費性が上がると、カーボンブラックの特性である耐摩耗性が下がると言われている。

ゴムは誰もが使っている身近なソフトマター材料の一つだが、タイヤ用のゴムには混ぜ物が多いという複雑さから、経験則に基づいて改良が進められてきた。 科学的な分析が始まったのはごく最近のことで、量子ビームを使った分子レベルでの解析により数十年前では考えられなかったような知見が得られている。
2015年、J-PARC MLFなどでの詳細な分析に基づいて、優れた低燃費性・グリップ性・耐摩耗性を兼ね備えたタイヤが開発され一般に発売されている。

関連情報:2015.11.12 プレスリリース SPring-8・J-PARC・スーパーコンピュータ「京」を連携活用させたタイヤ用新材料開発技術「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を確立