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負ミュオンで蛭藻(ひるも)金の謎を解く~文理融合プロジェクト

物構研トピックス
2019年2月12日

蛭藻金

江戸時代まで日本では、文字通り「金」がお金として使われていました。時代劇などでおなじみの薄い楕円形の金貨は「小判」としてよく知られていますね。
甲斐国(かいのくに:現在の山梨県)では、浮草の葉のように細長い金貨「蛭藻金」が発見されています。 蛭藻とは細長い葉を持つ浮き草の名前で、別名を「ヒルムシロ」と言います。蛭藻は夏の季語です。

1971(昭和46)年、ぶどう栽培のための穴を掘っていたところ、大量の古銭や金塊が見つかったのだそうです。 そこは甲府盆地の東の端、交通の要衝とされた場所。近くには武田信玄の弟、信友の館がありました。埋蔵金発見と大騒ぎになったことでしょう。 その後、山梨県による発掘が行われ、出土品は山梨県立博物館に収蔵されています。

16世紀の中頃、戦国時代に武田家が支配した甲斐国では独自の貨幣制度が整備され、金貨「甲州金」が鋳造されたと言われています。 発見された蛭藻金は戦国時代のものであることが分かりました。しかし、関連する古文書等の資料が乏しく、その製造方法は詳しく分かっていません。 博物館では、蛍光X線分析や走査型電子顕微鏡による表面の観察と元素分析(EDX)、密度測定などが行われましたが、それらの分析では内部の様子はわかりませんでした。
蛭藻金は内部まで金であることを示すために薄く叩きのばされたとも言われています。蛭藻金の内部を調べてみたいけれど、かと言って割って見るわけにもいきません。

負ミュオンによる非破壊分析

そんなとき、そうです。非破壊で深部の元素分布が分かる文化財などの希少な試料にうってつけの手法、負ミュオン分析があります。 蛭藻金がどうやって作られたのかを探るべく、2018年、 KEK 物構研・J-PARC・国立歴史民俗博物館・山梨県立博物館・国立科学博物館・国際基督教大学・大阪大学から集まった文理融合の共同研究チームが結成されました。

J-PARC MLFでの負ミュオンを使った金貨の分析には実績があります。 国立歴史民俗博物館との共同研究で江戸時代後期の天保小判の分析を行い、小判表面は純度の高い金であり、内部は表面に比べて銀の割合が高いことを明らかにしました。

蛭藻金の負ミュオンによる分析については、現在、鋭意解析が進められています。量子ビームを使って500年も前の人々の技術や知恵を覗き知る、文理融合の謎解きは始まったばかりです。

分析のため蛭藻金を固定しているところ
扱っているのは山梨県立博物館の学芸員 西願 麻以さん
(写真:国立歴史民俗博物館 齋藤努 教授 ご提供)
ミュオンビームラインの分析位置に置かれた蛭藻金
甲州金分析に関わる研究者のみなさん
J-PARC MLF MUSE D2にて 2018年12月撮影

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