2010年9月1日
サマーチャレンジ、その言葉がまさにぴったりの6日間でした。8月26日、将来を担う32名の大学生たちと、それ以上のスタッフによる過酷で濃密なプログラムが充実感いっぱいの笑顔とともに終了しました。
この日、5日間の演習の成果を発表する学生たちは皆自信に満ち溢れた姿をしていました。32名の学生たちは8つのグループに分かれ、KEKの研究者が普段使用している施設を利用して、実験や分析機器の組み立てなどの演習を行いました。それぞれのグループを率いるのは研究所や大学の枠を超えて集まった機構内外の研究者たちです。サマーチャレンジは第一線で活躍する研究者と一緒に生活しながら研究の一端を担う、大学生を対象としたサマースクールで第4回目になり、物質・生命コースは今年から新設されました。
学生たちの毎日は、基礎講座や分野ごとの講座から始まります。物質科学からは尾嶋正治教授(東京大学)、有馬孝尚教授(東北大学)、船守展正准教授(東京大学)、朝倉清高教授(北海道大学)、生命科学からは松村明教授(筑波大学)、三木邦夫教授(京都大学)、沼子千弥准教授(徳島大学)、西野吉則教授(北海道大学)による講義が行われました。燃料電池の触媒や、中性子を利用したガン治療など、どれも最先端の研究をふんだんに盛り込んだ内容でした。
午後からは、各グループに分かれて演習を行います。物質・生命コースでは「物質の構造を調べてみよう 」「超高圧力が切り開く極限の世界」「タンパク質の形を見てみよう」「放射光を測る」「質量分析器を組み立ててみよう」「作って調べる光触媒」「X線イメージングって何だろう?」「宇宙線を使ったミュオンスピン回転」の8つのテーマに分かれました。
演習は時に夜中までかかる、とてもハードなものでした。X線イメージングのグループではCTスキャンと同じ原理で画像つくることに取り組み、画像合成に成功しました。成果発表での学生たちは、とても自信に満ち溢れ、誇らしげでした。そして何よりも楽しそうに発表しているのが印象的でした。担当の小野寛太准教授(物質構造科学研究所)は「学生たちの熱意とパワーに引っ張られ、ハードスケジュールを乗り切れました。普段とは違う目線からの意見に私たちもいい勉強になりました」と振り返りました。
他のグループも皆が力を合わせなければ解決できない課題ばかりでした。その理由を物質・生命コース担当の伊藤健二教授(物構研)は「共同で1つの研究を進めることを体験し、協力することの大切さを学んでほしい」と語りました。その意図はきっと学生たちに十分伝わったと思います。
修了証授与後、サプライズがありました。KEKサマーチャレンジの校長先生を務めた春山富義教授(素粒子原子核研究所副所長)から手渡されたのは頑張ったみんなへのプレゼントです。開けて見ると…。
初日にご講演いただいた益川敏英博士の著書です。しかも! 直筆のサイン入り!! これには、学生たちは皆大喜びしていました。
このプレゼントには、春山先生からの願いが込められています。実は、著書はグループで1冊。その理由を「皆で順番に読みまわして欲しい。この仲間は互いに刺激になり、高めあう良い仲間。本の存在が、終了後も皆をリンクするものとして働くように、皆で1冊なんです」と語っています。
「自ら考えたことを人の前で発表し、議論することはサイエンスの基礎です」修了式でそう語りかけた若槻壮市教授(物構研副所長)。自身の大学生の頃を振り返り、「この経験を持ち帰って、将来の設計図に大学院、研究員という選択肢をぜひ考えてもらいたい」と締めくくりました。
濃密な6日間。きっと学生たちには一生忘れられないものになったことでしょう。この日、修了した学生たちが数年後、研究者となって実験や研究をするためにまたKEKへ戻ってくる日がきっと訪れる。そう思わせてくれる立派な学生たちでした。
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