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  プレス・リリース 〜 02-04 〜 For immediate release: 2002年7月29日  
 
 

Bファクトリー実験(KEKB/Belle)の最新成果(要約)


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2002年7月29日
高エネルギー加速器研究機構
 

標準理論の限界を探る「希少崩壊の観測増える」

  Belle実験チームは昨年3100万個のB中間子反B中間子ペアの崩壊の中から、ごくまれにしか起こらないB中間子の崩壊現象を14個見つけ出し、この崩壊が非常にまれではあるが、確実に存在することを発見した。今回はおよそ2倍のデータを使ってより詳細な解析をした結果、60個を見つけ、崩壊確率を13万回から23万回のあいだに1回と特定できた。この結果は「標準理論」の計算(12〜30万回に1回)とほぼ一致するが、まだ誤差が大きく「標準理論」との整合を評価できるまでには至っていないが、今後この評価が可能となる貴重な観測データである。さらに精度を上げてゆけば、標準理論と整合しない場合に「新粒子」や「新現象」の発見にいたる可能性がでてきた。

KEKB加速器、世界最高記録を更新中

  KEKB加速器は2001年4月以来、B中間子の生産能力にあたるルミノシティと呼ぶ性能で世界最高記録を更新し続け、競争相手のアメリカ・スタンフォード大学のPEP-II加速器の性能に、現在では大きく差をつけて独走している。これまでのルミノシティの総計でも、先にスタートしたPEP-IIに急激に迫っており、この秋にも追い越す勢いである。現在、KEKBのルミノシティは世界の衝突型加速器発展の先頭に位置している。こうしたKEKB加速器が実現した高い性能はKEKで独自に開発された設計の優秀さに根ざすものとして、Belle実験の成果とともに世界から高く評価されている。
Bファクトリー実験(KEKB/Belle)の最新成果
  昨年の春以来、KEKB加速器はB中間子・反B中間子生成能力で競争相手のアメリカ・スタンフォード大学のPEP-II加速器に大きく差をつけ世界最高記録を更新し続け、安定な粒子へ瞬間的に崩壊する多量のB中間子・反B中間子を生成してきた。この崩壊過程の観測は粒子と反粒子の性質の違い「CP対称性の破れ」を導く小林益川理論の精密検証を進め、ごくまれにしか起こらないB中間子の崩壊など「新しい現象」を探索する上で重要だと考えられている。

「新しい現象」:ごくまれにしか起きないB中間子の崩壊について

  Belle実験チームは昨年3100万個のB中間子反B中間子ペアの崩壊の中から、ごくまれにしか起こらないB中間子の崩壊現象を14個見つけ出し、この崩壊が非常にまれではあるが、確実に存在することを発見した。同じ現象を探してPEP-IIでのBaBarチームは最初これが見つからないと報告していたが、今年になってBelle実験の結果と一致する結果を得ている。今回Belleチームはおよそ2倍のデータを使ってより詳細な解析をした結果、60個を見つけ、崩壊確率を13万回から23万回のあいだに1回と特定できた。この結果は「標準理論」の計算(12〜30万回に1回)とほぼ一致するが、まだ誤差が大きく「標準理論」との整合を評価できるまでには至っていないが、今後この評価が可能となる貴重な観測データである。
注目されている崩壊現象はB中間子がレプトンと総称される粒子(電子、ミュー粒子など)と反粒子(陽電子、反ミュー粒子など)のペアを放出しながらK中間子などの軽い粒子に崩壊する現象である。この過程ではB中間子を形成しているb―クォークが、微小時間ならエネルギーの保存則が破れるハイゼンベルグの有名な不確定性原理によって、一瞬だけ35倍も重いトップクォークと16倍も重いW粒子と呼ばれる粒子になるためだといわれる。これは人間が一瞬だけ象と車になるようなもので日常では考えられないが、量子力学が支配する素粒子の世界では起こりうる。瞬間的に許される過程を描くダイヤグラムはペンギンの姿に似ておりペンギンダイヤグラムと呼ばれている。(図1)このような現象の観測は素粒子の世界を記述する「標準理論」が細部にわたって予想通りに働いているかどうかの検証にとって重要なだけではなく、まだ見つかっていない粒子を探す上で重要である。特に注目されているのがトップクォークやW粒子のかわりに超対称性粒子やヒッグス粒子が介在している可能性の有無を調べることだ。今回の発見はBelle実験が今後も未知の素粒子をさぐる重要な役割を持つものとして大きな期待を集めている。

「CP対称性の破れ」について

  もし「CP対称性」が成り立っているなら、同じ状態に崩壊する際に観測可能な全ての物理量がB中間子と反B中間子で同じになるはずである。「小林・益川理論」(1973年発表)によればB中間子と反B中間子の崩壊では、いくつかの過程で大きな「CP対称性の破れ」が生じ、この現象は3つの角度で示される。昨年夏、BelleチームとBaBarチームが、ほぼ同時にこのうちの一つの角度を測定し、大きくゼロからずれていることを発見し「小林・益川理論」の正しさが強く支持された。
さらにBelleチームは今年3月、新たにB中間子と反B中間子がそれぞれ二つのパイ中間子に崩壊する過程を観測し、残る二つの角度についても、それぞれ99%の確率でゼロからずれていることを示唆する結果を発表した。しかし観測事例も少なく、断定がむずかしい面もあった。この現象に関しては現在2倍のデータの解析が進行中で、成果の確認にはまだ時間を要するが、二つの角度の測定は「小林益川理論」の精密検証を進めるうえで不可欠であり、今後のゼロからのズレの確認と、精度の向上を目指す新たな実験の積み上げに、これまで以上の大きな期待が寄せられている。

世界記録を更新中のKEKB加速器

  KEKB加速器は2001年4月以来、B中間子の生産能力にあたるルミノシティと呼ぶ性能で世界最高記録を更新し続けている。図2で示したように競争相手のアメリカ・スタンフォード大学のPEP-II加速器の性能に、現在では大きく差をつけて独走している。これまでのルミノシティの総計でも、先にスタートしたPEP-IIに急激に迫っており、この秋にも追い越す勢いである。(図3)現在、KEKBのルミノシティは世界の衝突型加速器発展の先頭に位置している。こうしたKEKB加速器が実現した高い性能はKEKで独自に開発された設計の優秀さに根ざすものとして、Belle実験の成果とともに世界から高く評価されている。

Belle実験について

  Belle実験は世界の約50の大学と研究機関に属する約300名の研究者によって構成される大きな国際共同実験である。これはBaBar実験も同じである。
Belle実験の場合、KEKでの測定装置の建設に始まり、実験遂行やデータ解析まで全て、各研究機関や大学に役割が分担され、KEKには常に数十人単位の外部研究者や学生が滞在し、ネットワークを駆使して外部からも参加できる体制が取られている。
 
 
図1
(図1)ペンギンダイヤグラム
 
図2
(図2)
 
図3
(図3)
 
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proffice@kek.jp
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