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last update:05/03/01  
  プレス・リリース 〜 05-02 〜 For immediate release:2005年3月1日
 
 
Belle実験が新粒子を次々と発見
− 量子色力学に新展開 −

 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子・陽電子衝突型加速器(KEKB)を用いて実験を行っている国際共同研究グループBelle(ベル)は、X(3940)、Y(3940)、Σc(2800)(シグマ・シー)(名称はいずれも仮称)と呼ばれる3種類の新粒子を発見したと発表した。これまでに見つかったηc(2S)(エータ・シー・ツー・エス)、DsJ(ディー・エス・ジェー)、X(3872)などに続くものである。
 
KEKで1999年から稼働中のKEKB加速器では、電子と陽電子の衝突によりB中間子と反B中間子の対を大量に発生させ、その粒子崩壊過程を詳しく調べることによって物質と反物質の僅かな性質の違いを究明するBelle実験が行われており成果をあげている。今回の発見は、この実験が新粒子の探索にも有効であることを実証するものである。
 
陽子や中間子は、それぞれ3つ、あるいは2つのクォークからなる複合粒子である。これらはいずれもクォークが強い力によって結合した状態で、昨年のノーベル物理学賞の対象となった「量子色力学」と呼ばれるクォーク間の強い相互作用を記述する理論体系で説明出来ると考えられている。KEKB加速器で次々と見つかるチャーム新粒子の中にはこの理論で予測されているものもあるが、振る舞いが不可解で説明困難なものもある。
 
「量子色力学」は、チャームクォークを含む複合粒子が複数存在することを予言している。それぞれの粒子は特徴的な性質を持ち、その質量も理論で予測することができる。ηc(2S)、DsJ(2317)、DsJ(2460)、D*(2308)(ディー・スター)などはその一例である。しかし、2003年にBelleグループが発見したX(3872)はこれらのチャーム中間子とは異なり、D中間子と反D*中間子が分子のように結合した、まったく新しいタイプの粒子であるとの見方が強まっている。
 
今回の3種類の新粒子は、実験開始から昨年夏までに収集した2億7400万個の崩壊データを詳しく解析した結果、見つかったものである。X(3940)は電子と陽電子が衝突する反応から直接作り出された粒子で、148例が観測された。D*中間子とD中間子の対に崩壊する。この崩壊様式からチャームクォークと反チャームクォークからなる中間子の一種であると考えられる。Y(3940)は、B中間子の崩壊の中から見つかったX(3940)と同じ重さを持つ粒子であるが、ω(オメガ)中間子とJ/ψ(ジェイ・プサイ)中間子に崩壊することから、X(3940)とは別の粒子と考えられる。理論的にはこのような崩壊をする中間子は考えにくく、チャームクォーク・反チャームクォークと、さらにグルーオンからなる新しいタイプのハイブリッド粒子である可能性が示唆されている。これまでに58例を観測した。現在、詳しい解析を行っており、近い将来、その実態が明らかになることが期待されている。また、Σc(2800)は、チャームクォークを含むクォーク3つからなるバリオンで、電荷が0、+1、+2の3種類が合計6590例観測された。
 
Belle実験共同代表の山内正則教授(KEK)は、「X(3872)や今回見つかったY(3940)などの新しいタイプの粒子にはさらに多くの種類があると考えられる。これらを探し出し、性質を詳しく調べることで、多クォーク粒子の物理学という新しい分野が開かれようとしている。物質・反物質の非対称性を明らかにするために建設されたKEKB加速器は順調に性能を高めており、その本来の意義に加えてこの新しい分野においても重要な役割を果たしている。」と語っている。
 
Belleグループは世界の56の大学と研究機関に属する約400名の研究者によって構成される国際共同研究グループである。
 
 
 【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所 教授
   山 内 正 則(Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  東京大学大学院理学系研究科 教授
   相 原 博 昭(Belle実験共同代表)
    TEL:03-5841-4125
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室 主管
   森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

3940MeVに新しいチャーモニウムが二種類
 
B中間子の大部分はチャームクォークを含んだ中間子へと崩壊するために、KEKB加速器はチャーム中間子の研究を行う絶好の場所でもある。下の左図はBがKωJ/ψに崩壊する際のωとJ/ψの質量分布で、3940MeV付近にこれまで知られていなかった共鳴が見つかった。この質量のチャーモニウム(チャームクォークと反チャームクォークの対)は理論上D中間子対に崩壊すると考えられるため、ωJ/ψに壊れるこの共鳴の成り立ちは良くわからない。理論的にはクォーク・反クォーク・グルーオンという組成の共鳴の可能性が考えられ、実験から得られたこの粒子の性質を説明している。
 
一方、電子・陽電子衝突によってチャームクォーク対が2個できる現象が非常に多いことがBelleによって指摘されているが、下の右図はe+e-→J/ψXという反応におけるXの質量分布である。ここにもやはり3940MeV付近に新しい共鳴が見られるが、この共鳴は主にD*Dに崩壊することがわかっているので、左の図に示した共鳴とは異なるものであると考えられる。この質量領域に新しいハドロン分光学の突破口が潜んでいると期待できる。
 
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Σc(2800)三重項の発見
 
この研究ではB中間子の崩壊ではなく電子・陽電子衝突によって直接作り出されるΣcの励起状態をΛcπという崩壊モードで探索したものである。結果は下の図に示す通り、πのすべての電荷について新しいチャームドバリオン(チャームクォークを含んだバリオン)が発見された。このことからこれらはアイソスピン1を持つ新しいチャームドバリオンの3重項(同じ質量と量子数を持つ粒子が3つのちがった電荷を持った状態で現れること)としてΣc(2800)と呼んでいる。崩壊幅はいずれも60MeV程度である。理論的にはこの近辺にさらに多くの励起状態があると考えられ、今後その全容を明らかにしたいと考えている。
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図:今回発見されたΣc(2800)の3重項。左から電荷0、+1、+2のものを再構成した様子。横軸はΛcπの質量からΛcの質量を引いたもの。
 
 

発見された粒子の質量と理論的予想の比較
 
下の4枚の図は縦軸に質量、横軸に粒子の量子数(右下では粒子の名前)をとったもので、図中黒丸はすでに発見されている粒子を、白丸はBelle実験で発見された粒子を表す。横棒で示されているのは理論的模型によって予言されているその粒子の質量である。4枚の図はそれぞれ、D中間子(チャームクォークとuあるいはdクォークの組み合わせ、左上)、Ds中間子(チャームクォークとsクォークの組み合わせ、右上)、チャーモニウム(チャームクォーク・反チャームクォークの組み合わせ、右下)およびチャームクォークを含んだバリオン(右下)である。チャーモニウムの3872MeV付近には予言されている状態がいくつかあるが、X(3872)はその崩壊様式などの性質からいずれでもないことが確認された。
 
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拡大図(51KB)
 
 

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