J-PARC
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       プレス・リリース 〜 09-14 〜 For immediate release:2009年11月24日
   
 
T2K実験前置ニュートリノ検出器でニュートリノの初観測に成功
   
高エネルギー加速器研究機構 
T2K実験国際コラボレーション 
J-PARCセンター 
 
  茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARC※1のニュートリノ実験施設において、平成21年11月22日20時25分、T2K実験※2の前置ニュートリノ検出器※3がJ-PARCで生成したニュートリノの初検出に成功した(図1参照)。この観測により、T2K実験がいよいよ本格的に始動した。
 
T2K実験は、J-PARCニュートリノ実験施設で生成する世界最高強度のニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある検出器スーパーカミオカンデ※4で検出し、ニュートリノが別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を世界最高感度で測定することにより、ニュートリノの質量や世代間の関係など未知の性質の解明を目指す実験である。このために、J-PARCニュートリノ実験施設は、K2K実験※5のおよそ100倍もの強度を持つニュートリノビームが生成できる世界最先端の施設として建設された。T2K実験では、生成したニュートリノビームを高精度で測定する必要があり、J-PARC内に高性能な前置ニュートリノ検出器が設置されている。前置ニュートリノ検出器は、国際協力の下、国内外の多くの大学と研究機関の研究者と大学院生が協力して製作した最新鋭の実験装置である。
 
 T2K実験は平成16(2004)年度から建設が開始され、平成21(2009)年3月にJ-PARCニュートリノ実験施設が完成、同年4月にニュートリノビームの初生成に成功、そして今回ニュートリノの初検出に成功した。T2K実験では、まだ見つかっていない新しいタイプのニュートリノ振動の発見を目指しており、世界の他のニュートリノ実験※6と熾烈な国際競争を行っている。今回のニュートリノの初検出成功により、他の実験よりT2K実験が一歩抜きんでたと言える。
 
ニュートリノ検出器は、ニュートリノがごくまれに物質と反応した際に生じる粒子をとらえることで、ニュートリノを検出する実験装置である。T2K実験では、J-PARC内に2種類の前置ニュートリノ検出器を設置している。今回ニュートリノを検出したのは、"INGRID(イングリッド)"と呼ばれるニュートリノ検出器である(写真1図2参照)。約8トンのモジュールが、縦横14台並べられた総重量100トン強の大型検出器で、ニュートリノビームの強度とその方向を高精度で測定するためのものである。
 
実験グループは今後、ビーム強度を上げ、INGRIDに加え全ての前置検出器およびスーパーカミオカンデを用いてニュートリノビームを精密に測定することで、新しいタイプのニュートリノ振動を発見することを目指す。

 
 
  【関連サイト】 J-PARC webページ
日本原子力研究開発機構
  【本件に関する問い合わせ先】  
  T2K実験について
 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所
   教授 小林  隆
    TEL:029-864-5414
報道担当
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
  J-PARCプロジェクトについて
 J-PARCセンター 広報セクション
  セクションリーダー 鈴木 國弘
    TEL:029-284-3587
 独立行政法人日本原子力研究開発機構
  広報部報道課長 西川 信一
    TEL:03-3592-2342
 

[用語解説]
 
※1 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
平成13年より、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と原子力研究機構が共同で茨城県東海村に建設した陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用を行う。
 
※2 T2K実験(T2K長基線ニュートリノ振動実験)
J-PARCで作り出したニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」で検出する長基線ニュートリノ振動実験。J-PARCがある茨城県東海村から神岡町(Tokai to Kamioka)の頭文字を取って「T2K実験」と名付けられた。年間約1,600個のニュートリノを検出し、ニュートリノ振動現象の測定によってニュートリノが持つ未知の性質を解明し、物質をつかさどる究極の法則の手がかりを得ることを目標としている。世界をリードする感度をもつT2K実験は内外の多くの研究者を惹きつけ、日、米、英、イタリア、加、韓、スイス、スペイン、独、仏、ポーランド、ロシアの12ヶ国から500人を越える研究者が参加する国際共同実験となっている。日本からは大阪市立大学、京都大学、KEK、神戸大学、東京大学、東大宇宙線研究所、広島大学、宮城教育大学の総勢約80名の研究者と学生が実験の中心メンバーとして参加している。
 
※3 T2K実験のニュートリノ検出器
T2K実験のニュートリノ検出器には、J-PARC内に設置されたニュートリノ検出器と、神岡に設置されたスーパーカミオカンデがある。J-PARC内に設置された検出器を、スーパーカミオカンデと区別するために、前置ニュートリノ検出器と呼ぶ。
 
※4 スーパーカミオカンデ
岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡の地下1,000mに建設された、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設のニュートリノ検出装置である。円筒型タンク(直径39.3m高さ41.4m)内は、約50,000トンの純水で満たされ、水中でニュートリノによって散乱された荷電粒子が発するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出する。
 
※5 K2K実験
KEKの陽子加速器で生成したニュートリノビームをスーパーカミオカンデに打ち込む世界初の長基線ニュートリノ振動実験で、1999年から2004年まで行われた。K2KはKEK to Kamiokaの略称。スーパーカミオカンデで観測された約100個のニュートリノ反応事象を解析することによって、ニュートリノ振動現象を加速器実験において初めて検証した。
 
※6 世界の他のニュートリノ振動実験
世界では、加速器を使ったニュートリノ振動実験として米国フェルミ研究所のMINOS実験とヨーロッパCERN研究所のOPERA実験が現在進行している。また、T2K実験のライバルとして、米国フェルミ研究所のNOvA実験が準備中である。他にも、原子炉で生成されるニュートリノを使った、フランスのDouble-Chooz実験、中国のDaya-Bay実験が新しいタイプのニュートリノ振動探索に向けて準備中である。
 
 

 
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図1 :T2K実験ニュートリノ検出器"INGRID(イングリッド)"で初めて検出されたニュートリノ反応事象。全14台あるINGRIDモジュール中の1モジュールで観測されたニュートリノ事象である。図中の緑の部分が測定チャンネルで、赤色の部分がニュートリノの反応で生成された粒子が検出されたチャンネルである。図中の赤丸の大きさは、観測されたエネルギーに対応している。
 

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写真1 : T2K実験ニュートリノ検出器"INGRID(イングリッド)"の写真。写真中の黒い立方体が1モジュールに対応している。
 
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図2 : T2K実験ニュートリノ検出器"INGRID(イングリッド)"の模式図。全14台のモジュールが縦7台、横7台に並べられている。今回は縦に並んだ中の最下位のモジュールで初ニュートリノが観測された。
 
 
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