2010年5月11日
文部科学省委託事業「ターゲットタンパク研究プログラム※1」において、独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長:理研)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(鈴木厚人機構長:KEK)は、大型放射光施設SPring-8※2と放射光科学研究施設(PF:フォトン・ファクトリー)※3に、タンパク質結晶構造解析※4専用ビームラインとして世界最高精度の高輝度特性及び低エネルギー利用という異なる特徴を実現した2本の放射光ビームラインの開発を行ってきました。
この度、これらのビームラインが完成したことを受け、本年秋からの一般共用に向けた課題募集を開始することとなりましたので、お知らせいたします。
これらは、「高難度タンパク質をターゲットとした放射光X線結晶構造解析技術の開発」において、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)基盤研究部 山本雅貴部長とKEK物質構造科学研究所構造生物学研究センターの若槻壮市教授(センター長)の研究グループにより開発されたものです。
これらのことにより、これまで解析できなかった10 マイクロサイズの結晶構造の解析が可能になり、生命現象や疾病にかかわる重要なタンパク質の構造解析に貢献することが期待されます。さらに、我が国の研究資源を最大限に活用すると共に、ライフサイエンス研究の起爆剤にしたいと考えています。
生物機能の直接の担い手であるタンパク質の立体構造と機能を解明する構造生物学は、基本的な生命現象の解明や医学・薬学等への貢献などに資するライフサイエンス全体の基盤として重要な役割を果たします。文部科学省委託事業「ターゲットタンパク研究プログラム」では、生命現象の理解に重要な高難度解析タンパク質をターゲットとし、その立体構造と機能の解明を目指した研究を進めています。
タンパク質の立体構造を決定する手法に、X 線結晶構造解析法があります。この方法では、タンパク質を規則正しく配置した状態(結晶)にする必要がありますが、その複雑な構造ゆえに結晶化そのものが難しく、また、特に高難度解析タンパク質では構造を精密に決定するための十分な大きさの結晶を得ることが困難です。これらの小さな結晶から精密な構造情報を得るために、10 マイクロサイズ以下のタンパク質微小結晶からの構造解析手法の開発が待ち望まれていました。
そこで、「ターゲットタンパク研究プログラム」では、10マイクロサイズ以下の微小結晶からの構造解析法、および結晶の重原子ラベルを必要としない構造解析法の開発を目標として、理研/SPring-8及び高エネルギー加速器研究機構/PFにおいて、タンパク質微小結晶からの構造解析に最適化した2本の相補的なマイクロビームビームラインの整備を進めてきました。
この度、これらのビームラインが完成したことを受け、一般共用に向けた課題募集を開始することにより、本プログラムの研究成果を広く公開することといたしました。
BL-1A は,10ミクロン程度の微小結晶の構造解析を重原子ラベルなしで行うことを目的としたビームラインです。タンパク質に自然に含まれるイオウやリンなどの軽原子の異常分散効果※5を積極的に利用するため、通常のビームラインでは利用できない、エネルギー 4キロ電子ボルト※6(波長0.3ナノメートル、1ナノメートルは100万分の1 ミリメートル)近傍の高輝度X線ビームが利用できるよう設計されています。これまで重原子ラベルに失敗して構造解析できなかったタンパク質研究に道を拓くと同時に、重原子ラベルの手間を省くことによる構造解析のハイスループット化も期待されます。
今回稼働開始するSPring-8およびKEK/PFの2本の新規ビームラインは、重要な生命機能に関わる膜タンパク質やタンパク質複合体のように、今まで構造解析できなかった高難度ターゲットタンパク質の微小結晶からの構造解析を可能にし、ライフサイエンスの基礎研究や創薬などの産業応用において重要な微小タンパク質解析研究の未踏領域を切り拓くものと期待されています。