J-PARC
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       プレス・リリース 〜 10-02 〜 For immediate release:2010年02月25日
   
 
スーパーカミオカンデでJ-PARC加速器からのニュートリノの初検出に成功
   
T2K実験国際コラボレーション 
高エネルギー加速器研究機構 
東京大学宇宙線研究所 
J-PARCセンター 
 
T2K実験※1Tokai to Kamioka)グループは、平成22年2月24日午前6時00分、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)※2のニュートリノ実験施設において人工的に発生させたニュートリノ※3を、約295km離れた岐阜県飛騨市神岡町の検出器スーパーカミオカンデ※4において検出することに成功した。
 
熾烈な国際競争を行っているニュートリノ実験において、T2K実験でのスーパーカミオカンデやJ-PARCの高い性能が確認されたことで、今後の実験・研究がさらに進展し、これまで未発見の現象を世界に先駆けて観測することが期待される。
 
T2K実験は、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)のニュートリノ実験施設で生成した世界最高強度のニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にある検出器スーパーカミオカンデで検出し、未発見のミュー型から電子型へのニュートリノ振動などを世界最高感度で測定することにより、ニュートリノの質量や世代間の関係など、まだ知られていないニュートリノの様々な性質の解明を目指す世界最先端の実験プロジェクトである。T2K実験の最大の目標は、まだ見つかっていない新しいタイプのニュートリノ振動の発見であり、世界の他のニュートリノ実験※5と熾烈な国際競争を行っている。
 
T2K実験は、平成21(2009)年4月にはニュートリノビームの初生成に成功し、ビーム調整を開始、11月には前置検出器においてニュートリノの初検出に成功した。2009年中にビーム調整はほぼ終了し、2010年に入ってからニュートリノビームを本格的に神岡に送り始め、スーパーカミオカンデにおいて24日のJ-PARCニュートリノ初検出に至った。
 
今回のスーパーカミオカンデにおける事象の初検出は、ニュートリノの未だ明らかになっていない性質の解明につながる大きな第一歩といえる。
 
今後は、加速器からのビームをさらに増強しつつ、スーパーカミオカンデにおいてニュートリノ反応の観測を続け、世界最高感度での新しいタイプのニュートリノ振動の探索などの研究を進める。
 
なお、J-PARCは独立行政法人日本原子力研究開発機構と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構が共同で建設した複合型の研究施設で、ニュートリノ実験施設、ハドロン実験施設、物質・生命科学実験施設から成る。
 
 
  【本件に関する問い合わせ先】  
  (T2K実験について)
 高エネルギー加速器研究機構
 素粒子原子核研究所
  教授 小林  隆
    TEL:029-864-5414
(報道担当)
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
  (スーパーカミオカンデについて)
 東京大学宇宙線研究所
 神岡宇宙素粒子研究施設
  施設長 鈴木 洋一郎
    TEL:0578-85-9601
(報道担当)
 東京大学宇宙線研究所
 神岡宇宙素粒子研究施設
  武長 祐美子
    TEL:0578-85-9689
  (J-PARCプロジェクトについて)
 J-PARCセンター 広報セクション
  セクションリーダー 鈴木 國弘
    TEL:029-284-3587
 日本原子力研究開発機構
  広報部報道課長 西川 信一
    TEL:03-3592-2346
 

 
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図1 J-PARC全景(航空写真)とT2K実験の概要
J-PARCでは、陽子をリニアックで加速後、3GeVシンクロトロンを経てメインリングに送り込む。陽子をキッカーとよばれる電磁石により内向きに蹴りだし神岡の方向に向けた後、ターゲットに衝突させニュートリノビームに変換、スーパーカミオカンデに向けて発射する。ニュートリノビームはJ-PARC内の前置検出器を用いても観測されているので、スーパーカミオカンデの観測結果と比較することで、ニュートリノが飛行中に別の種類に変わる「ニュートリノ振動」の研究が可能となる。
 

 
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図2 J-PARCニュートリノ実験施設
 

 
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図3 スーパーカミオカンデ検出器

 
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図4 スーパーカミオカンデ検出器で今回観測されたニュートリノ反応事象
複数ある四角は光センサーを表し、色は光を検出した時間を表す。ニュートリノと水との反応により生成された電荷をもった粒子が発したチェレンコフ光がリング状に観測されていることが分かる。
 

 【用語解説】
 
※1 T2K実験(T2K長基線ニュートリノ振動実験)
  J-PARCで作り出したニュートリノビームを、295km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」で検出する長基線ニュートリノ振動実験。J-PARCがある茨城県東海村から神岡町(Tokai to Kamioka)の頭文字を取って「T2K実験」と名付けられた。年間約1,600個のニュートリノを検出し、ニュートリノ振動現象の測定によってニュートリノが持つ未知の性質を解明し、物質をつかさどる究極の法則の手がかりを得ることを目標としている。世界をリードする感度をもつT2K実験は内外の多くの研究者を惹きつけ、日、米、英、イタリア、加、韓、スイス、スペイン、独、仏、ポーランド、ロシアの12ヶ国から500人を越える研究者が参加する国際共同実験となっている。日本からは大阪市立大学、京都大学、KEK、神戸大学、東京大学、東大宇宙線研究所、広島大学、宮城教育大学の総勢約80名の研究者と学生が実験の中心メンバーとして参加している。
 
※2 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
  平成13年より、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設した陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用を行う。
 
※3 ニュートリノ
  物質を構成する最小の単位である素粒子の一つであり、クォークや電子の100万分の1以下の重さしかもたず、電気的に中性という性質を持つ。ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の三種類があり、飛行中にミュー型からタウ型、電子型からタウ型へと変化する振動現象がこれまでに見つかっている。
 
※4 スーパーカミオカンデ
  岐阜県飛騨市の神岡鉱山跡の地下1,000mに建設された、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の検出器で、T2K実験に加え、宇宙から到来するニュートリノの観測や、いまだに未発見である陽子が崩壊する現象をとらえる実験を行っている。5万トンの超純水が入る水槽(直径39.3m高さ41.4m)の内壁に、微弱なチェレンコフ光を捉える光検出器である光電子増倍管約11,200本が並べられている。
 
※5 世界の他のニュートリノ振動実験
  世界では、加速器を使ったニュートリノ振動実験として米国フェルミ研究所のMINOS実験とヨーロッパCERN研究所のOPERA実験が現在進行している。また、T2K実験のライバルとして、米国フェルミ研究所のNOvA実験が準備中である。他にも、原子炉で生成されるニュートリノを使った、フランスのDouble-Chooz実験、中国のDaya-Bay実験が新しいタイプのニュートリノ振動探索に向けて準備中である。
 
 
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