2010年10月28日
北海道大学
高エネルギー加速器研究機構
・レーザー超高圧電子顕微鏡の開発に成功
・レーザー照射によって自己組織化※1配列するナノドットの発見
・レーザー照射しながら超高圧電子顕微鏡内でのリアルタイムその場観察に成功
画像提供:北海道大学
画像提供:北海道大学
北海道大学、日立製作所、高エネルギー加速器研究機構(KEK)による研究グループは、レーザー照射によるシリコン表面のナノドット自己組織化配列の現象を発見、およびその様子を世界で初めてレーザー超高圧電子顕微鏡によってリアルタイムで観察することに成功しました。
研究グループは、波長、位相が揃った高強度の短(時間)パルスレーザー光をシリコンの表面に照射すると、表面にナノメートルサイズのドット(ナノドット)が自己組織化によって一様に形成される現象を発見しました。その様子を観察するため、短パルスレーザー光を入射できる超高圧電子顕微鏡(レーザー超高圧電子顕微鏡)を北海道大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター・超高圧電子顕微鏡研究室(渡辺精一教授 室長)の研究チームが開発、観察に成功しました。
レーザーを照射するだけでナノドットの配列をコントロールできること、またその様子を観測したことはナノデバイス開発の可能性を拓く大きな成果です。
本研究成果は、米国物理学会誌JOURNAL OF APPLIED PHYSICSに2010年11月15日(現地時間)に掲載されます。
本研究は、科学研究費補助金(基盤研究S19106017:高エネルギー加速器研究機構(KEK) 川合將義 名誉教授代表)、「北海道大学と(株)日立製作所における連携プログラム」による共同研究として実施致しました。
強いレーザー光によって材料表面にリップス(LIPSS)と呼ばれるレーザー波長間隔で周期構造(レーザー誘起周期表面構造)ができることは50年近く前から知られていましたが、光の波長よりも短くパターン配列する現象が世界各国で見つかっており、その原因が長い間謎となっていました。
そこでその原因を調べていた北大・日立・KEKの研究チームは、半導体シリコン表面上に10-100ナノメートル(nm:100万分の1mm)サイズの表面ドット列がパルスレーザー照射を行うにつれ、一斉にレーザー波長よりも短く周期的に配列形成されることを世界で初めて見出しました(図2参照)。さらに、その形成過程を北海道大学で開発したレーザー超高圧電子顕微鏡(図1)を用いてレーザー照射しながら観察確認することに成功し、自己組織化※1と呼ばれるレーザー照射下での安定構造をとるために起こる現象であることをつきとめました。ナノレベルでの自己組織化(ボトムアップ的アプローチ※2)は制御が非常に難しいとされていますが、これらのドットパターン様はレーザー照射条件(レーザーによるトップダウン的アプローチ※3)によって制御することが可能であること、材料によらずおこる普遍的な現象であることも見出しており、ナノテクノロジー※4・機能性デバイス材料開発への新たな道が拓けました。
ネオジウム・ヤグ(Nd:YAG)ナノ秒レーザー(ナノ秒は10億分の1秒:短時間パルス化レーザー光)を130万ボルト超高圧電子顕微鏡に敷設し、試料(Si(100))の上から直接照射する(ビーム径6mm)とレーザーの偏光方向(図2の水平方向)に対して垂直に表面ドットが一定の間隔に整列化できることが分かりました。
[図2は試料表面にレーザー光を大気中で500パルスの垂直入射した様子で、水平方向にレーザー波長間隔の530nmでそれに垂直(表面上)に130nm(波長の約4分の1)の間隔でドット列が形成されています。]
開発したレーザー超高圧電子顕微鏡によりレーザー照射のその場実験を行い、表面ドットの自己組織化列形成のビデオ観察に世界で初めて成功しました。また、照射の条件を変えて様々なドットパターンの形成が可能であることも確認し、既に2件の共同特許出願を行っています。
本研究で開発した簡便・安価な製造方法を用いて、材料表面のナノレベルの凹凸配列をコントロールすることが可能となり高機能性の材料デバイスが作製できる可能性が拓けました。将来的には、低消費電力性を有する未来のLSI要素素子、量子ドットの面密度の向上などによる量子ドット太陽電池の簡易作製法、生体材料量子ドットによる生体システムへの応用(癌などの蛍光化体製造技術)など、様々なグリーン・ナノテクノロジーとしての用途が期待されます。