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第5回POSIPOLワークショップ、KEKで開催

2010年6月9日

2010年5月31日(月)から6月2日(水)の3日間にわたり、KEKで「第5回POSIPOLワークショップ」が開催されました。この会議は、2006 年より毎年開催されている国際ワークショップで、日本での開催は今回が2回目。次世代の電子・陽電子直線衝突型加速器である国際リニアコライダー(ILC) 計画 およびコンパクト・リニアコライダー(CLIC) 計画を念頭に、偏極陽電子源についての検討を行うことを目的に開催されているものです。

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会議の出席者


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開会にあたり歓迎の挨拶をする西川素核研所長

本ワークショップには、欧州、アジア、米国の各国から44名(うち4名はビデオ会議システムで参加)の研究者が参加しました。偏極陽電子の生成には、コンプトン散乱方式とアンジュレーター方式の2つの方式が検討されています。本ワークショップでは、それぞれの方式について複数の発表と活発な質疑応答が行なわれ、両者の比較検討等が行われました。コンベンショナル方式と呼ばれる従来行われてきた金属のターゲット材に電子ビームを当てて陽電子(無偏極)を生成する方法についても再検討が行われ、ターゲット材として、結晶金属と普通の金属を組合せる、ハイブリッド方式ターゲットや、液体金属を使う方法、最適な電子ビームエネルギーやターゲットの厚さ等についても、活発な議論がなされました。さらに、直線衝突型加速器(リニアコライダー)以外の衝突型加速器の陽電子源や、ガンマ線、X線生成技術の他分野への応用等、広範な議論が行われました。

ILC-CLIC 共同陽電子作業部会のCLIC側世話人であるLouis Rinolfi氏(欧州合同原子核研究機関:CERN)は「今後、陽電子源の開発で最も重要になるのは、実際にビームを使った試験をくり返し行い、データを蓄積することです」と語ります。KEKでは、ILCの実現に向け、様々な陽電子源開発が行なわれています。偏極陽電子源の開発の為に、先端加速器試験施設(ATF)の電子蓄積リングを用いて、コンプトン散乱方式の陽電子源の実験が2件進行中です。このうちの1件は、KEKと国内の大学との共同研究、もう1件は、フランス線形加速器研究所(LAL)を中心とした実験グループとKEK及び国内の大学との共同研究として行なわれています。コンベンショナル方式の無偏極電子源の開発は、KEKB加速器の蓄積リングを使った、液体金属ターゲットの窓材のテスト、KEK直線加速器を使ったハイブリッド方式ターゲットのテスト等がKEKと国内の大学との共同研究として行なわれています。またロシアのブドカー原子核物理学研究所(BINP)とKEKの共同研究として、液体金属ターゲットシステムのビーム試験がATFの直線加速器で行なわれる予定です。

※偏極陽電子源:
陽電子とは、電子の反粒子。通常は存在しないため、実験を行うためには、人工的に生成する必要があります。陽電子を生成する装置を「陽電子源」と呼びます。「偏極」とは、粒子のスピンの向きを一定方向に揃えることを呼ぶ。陽電子を偏極させることで、ビーム衝突時に起こる素粒子反応を効率的に識別することができる。