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KEKキャラバン、京都から岩手まで8件実施

2011年7月14日

KEKでは学校や社会施設などで行われる授業のサポートとして、地方自治体、NPO等の団体が企画する講習会や勉強会などに講師を派遣するプログラム「KEKキャラバン」を実施しています。6月は、8件のキャラバンを実施しました。

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講演中の加速器研究施設の諏訪田剛准教授

6月10日(金)、神奈川県立柏陽高等学校の「科学と文化~サイエンスワークショップ」でKEKキャラバンによる出前授業を行いました。
「加速器は夢の顕微鏡」というタイトルで、1年生約52名を対象として1時間の授業を2回行いました。授業では、素粒子のようなミクロな世界から宇宙という巨大な世界まで様々の大きさの異なる世界があることを紹介し、それらを拡大して目で見る道具として光学顕微鏡、電子顕微鏡から話を始めました。これらの顕微鏡では見ることのできないさらに小さな素粒子の世界を見ることができる夢の顕微鏡として、加速器を紹介しました。

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講演中の加速器研究施設の菊谷英司准教授

6月11日(土)には2件の派遣を行いました。京都市立堀川高等学校では、1年生を中心に約280名が参加し「先端加速器を用いた素粒子研究の現場から」というタイトルで講演を行いました。堀川高校でのキャラバンの実施は、昨年12月の派遣に続き2回目となります。
講演では、加速器の原理や歴史に関する入門的解説や、具体的に実験に携わる研究者の立場からKEKB加速器で行われた実験の解説を行いました。また、現在欧州合同原子核研究機関(CERN)で稼働中の大型ハドロンコライダー(LHC)や、KEKで建設中のSuprerKEKB加速器、将来構想の国際リニアコライダー(ILC)についても解説しました。
講演終了後には、生徒との座談会も行われ、アンケートでは「素粒子物理学実験が国際協力で行われていることに興味をもちました」、「文理選択の参考にしたいです」といった、将来の進路について考えるきっかけとなったという感想が多数寄せられました。

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KEKからは、素粒子原子核研究所の野尻美保子教授、一宮亮研究員、放射線科学センターの岩瀬広助教が参加した

もう一件の派遣は、3331アーツ千代田(東京都千代田区)で行われた「611ガイガーカウンターミーティング」です。身近な放射線量を知りたいと考えている人を対象として開かれたイベントで、約250名が参加しました。
ミーティングでは、ガイガーカウンターの仕組みの解説や、ガイガーカウンターの校正(調整)の実演が行われました。ミーティングの様子は、Ustream(ユーストリーム)とニコニコ動画で放映され、ニコニコ動画では、約4万人が視聴者しました。

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講義中の共通基盤研究施設 計算科学センターの岩井剛助教

6月16日(木)には、富山高等専門学校射水キャンパスに講師を派遣しました。主に制御情報システム工学を専攻する2年生13名を対象に、広域分散処理技術のひとつである、グリッド・コンピューティングの講義と基礎実習を行いました。 講義では、グリッド・コンピューティングの概念とその役割について説明した後、高エネルギー物理学実験分野における利用例を示し、分散コンピューティングの現状と将来の可能性について解説しました。また、2011年3月に富山高専に導入されたNAREGIグリッドシステムの一部である、SGE (Sun Grid Engine)と呼ばれる計算負荷分散装置を使って実習を行いました。「グリッドがどういうものかイメージがつかめました」、「便利な技術で自分も利用できたらいいなと思いました」といった感想が寄せられ、グリッド・コンピューティングについての理解が深まったようです。

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講演中の放射線科学センターの伴秀一教授

6月19日(日)は、東日本大震災で被災された方への救援物資を集めるための情報交換の場である「ママリングス」主催のチャリティー講演会「東日本大震災 被災の影響から考える私たちの子育て」(東京都江東区カメリアプラザで実施)に講師を派遣し「福島原子力発電所事故の影響―つくばでの測定から分かること」というタイトルの講演を行いました。子育て中のお母さんら45名が集まりました。
講演では、福島原子力発電所で発生した事故による影響や、KEKで行っている放射線測定の結果から分かること、また、放射線の効果・影響の基礎についての説明を行いました。講演後のアンケートでは、「『シーベルト』、『ベクレル』など単位の使い方がよくわかりました」、「実生活において何を重要視すべきなのか、自分で考えて決める良いきっかけとなりました」といった感想が寄せられました。

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講演中のILCコミュニケーター・高橋理佳氏

6月26日(日)は、岩手県奥州市にある、奥州宇宙遊学館でKEKキャラバンによる出前授業を行いました。「ILCって何?文系による文系のためのリニアコライダー講座」と題する講演には、約60名が集まりました。 岩手県の北上山地は、次世代加速器構想である「国際リニアコライダー」の建設候補地のひとつとなっており、市民への分かりやすい説明が必要との要望に応えるために、専門用語をできるだけ使わない講演を行いました。参加者からは「とにかく分かり易くてよかったです。身近なものに例えてもらうと実感が沸きます」、「早くILCがどんな宇宙をつくれるのか知りたいです」といった感想が寄せられました。

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講義中の社会連携部の大須賀鬨雄特別准教授

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生徒から送られてきた手紙の一部

6月27日(月)には、茨城県つくば市にある、つくばインターナショナルスクールのグレード1~3クラス(小学1~3年生相当)とグレード4~8クラス(小学4~中学2年生相当)の生徒を対象に「原子力でどうやって発電をするのか?」というタイトルで講義を行いました。
放射線は目に見えないため、必要以上に恐怖感を感じる人が多いことから、放射線を正しく理解できるよう、放射線の影響や人間にとって良い面があることも解説しました。また、レントゲンを例にとって、身体を放射線が通り抜けることや、紫外線もX線も放射線の一種であること、日焼けがどのように起き、それが過度になるとがんになることもあり得ることを説明しました。放射性物質についても解説し、霧箱を使って放射線の飛跡の観察も行いました。参加した子供たちからは、放射線やレントゲン写真を描いた可愛いイラストや「少しのウランからたくさんのエネルギーが得られることは知りませんでした。また教えて下さい」といった手紙が後日送付されました。

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講演中の素粒子原子核研究所の藤本順平研究機関講師

6月30日(木)は、町田市倫理法人会主催の「経営者モーニングセミナー」(神奈川県相模原市ホテルラポール千寿閣)で出前授業を行いました。地元の会社経営者を中心とする35名を対象に「現代社会と放射線」と題する講演を行い、放射線についての基礎的な講義を行った後、霧箱実験を実演しました。「目で見る放射線にはびっくりしました」、「具体的なお話を聞くことを通じて安心を得ました」といった感想が寄せられました。