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伊藤晋一准教授ら、西川賞を受賞

2011年1月31日

物質構造科学研究所の伊藤晋一(いとう・しんいち)准教授ら6名が、平成22年度の高エネルギー加速器科学研究奨励会西川賞を受賞しました。この賞は、高エネルギー加速器ならびに加速器利用に関る実験装置の研究において、独創性に優れ、かつ論文発表され国際的にも評価の高い業績をあげた研究者・技術者に贈られるものです。今回受賞対象となった研究課題は「中性子ビームライン向けのT0チョッパー、フェルミチョッパーの開発」です。


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受賞者の皆さん、機械工学センター前にて

左から舟橋義聖シニアフェロー、下ヶ橋秀典技師、大久保隆治技師、上野健治教授、伊藤晋一准教授、横尾哲也助教


物質・生命科学実験施設(MLF)では、パルス陽子ビームから発生させたパルス中性子ビームを利用して物質科学・生命科学の研究を行っています。発生したパルス中性子ビームを実験に利用するには、中性子ビームのエネルギースペクトルを整形する必要があり、そのためにT0チョッパーとフェルミチョッパーが開発されました。

T0チョッパーはその名の通り、パルス中性子発生時(Timeゼロ)に生じるノイズとなるエネルギーの高い中性子を遮断する装置です。この中性子を遮断するには発生源の加速器の周期と同期させ、100Hzで精度良く回転させる必要があります。120kgもある金属の塊を100Hzという高速で精度良く安定回転させるということは、通常では考えられない仕様です。「100Hzの回転により生じる遠心力は自身を破壊させるほどの力になります。ですから材料や形状の選定には苦労しました。」そう語ってくださいました。また100Hzの高速回転は熱変形や潤滑油の温度上昇による粘度の変化を引き起こし、回転の精度を低下させてしまいます。これを自動制御するシステムも今回開発されたもので、KEK技術賞とのダブル受賞となります。

T0チョッパーを通り抜けた中性子ビームはフェルミチョッパーによって更に一定のエネルギーのみが抽出されます(単色化)。フェルミチョッパーはスリットを600Hzという超高速で回転させることにより、特定のエネルギーを持った中性子だけが通り抜けられる仕組みになっています。モーターを駆動する外部電源の工夫により回転制御時のノイズを抑え、高精度制御を実現しました。


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T0チョッパー導入時の強度比較

T0チョッパー導入時の中性子ビーム強度を青線で示す。未導入時の黒線と比べるとノイズが遮断され、ピークの際にある情報が明瞭になっている。

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フェルミチョッパーで単色化された中性子

ピークの半値幅がエネルギー分解能ΔEを表わす。青い点が実測値、実線が設計値であり、設計どおりの分解能が得られた。


これらチョッパーの実現により、中性子散乱実験の解析が容易に、かつ高精度に行えるようになりました。T0チョッパーはBL04、BL12、BL16、BL21に、フェルミチョッパーはBL12、BL21に設置されBL16とBL21はすでに供用が開始されています。来年度からはBL12も供用開始予定になっており、サイエンスの結果を皆さまにお届けできるのも、そう遠くなさそうです。

授賞式は3月24日に行われる予定です。