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   image 運び屋タンパク質の耳   2002.06.20
 
〜 立体構造を決定 〜
 
不思議な見出しに驚いた方も多いでしょう。タンパク質の耳と言っても、耳の形に見える部分があるという意味です。細胞内の運び屋タンパク質については前にお話しました。今日お話しするタンパク質も細胞内で、生命活動に必要な物質(これには勿論、タンパク質も含まれています)の輸送に活躍するタンパク質の一つです。このタンパク質は電子顕微鏡写真のイメージからミッキーマウスになぞられた模式図でその構造が描かれます。タンパク質の耳とは模式図の耳に当たる部分を表現したものです。研究者はこの部分をear(耳)ドメインと呼んでいます。


運び屋タンパク質の2大ファミリー

前にお話した積荷の現場を捉えた運び屋タンパク質はGGAと呼ぶ一族のタンパク質でした。耳をもつたんぱく質はGGAファミリーに対してAP複合体ファミリーと呼ばれています。この一族はいずれも耳にあたるドメインを持っていますが大別すると4家系からなっていると考えられています。(図2)その中の一つ、人の細胞内輸送に携わるAP1複合体ガンマと呼ばれているタンパク質の耳に対応したドメインの立体構造が、前回に引き続き、KEKの若槻壮市教授を中心とする構造生物学グループにより世界で初めて決定されました。この研究論文は、科学雑誌「Nature Structural Biology(7月号)」で発表されます。


色々な耳を持つAP複合体一家

私たちの耳を考えると音を聞く機能に有効な独特の構造をしています。タンパク質の耳のドメインも、その機能に合わせた独特の立体構造をしているはずです。AP複合体ファミリーの中で、AP2複合体についは神経細胞などに多く見つかり研究も進んでいました。一般にタンパク質のドメインはそれを構成するアミノ酸がらせん状に巻くアルファ・ヘリックスと呼ばれる構造や、折り返しが続く平面状のベータ・シートと呼ばれる構造、繰り返し構造のないランダムコイルなどの短いパーツが線状につながりそれが折りたたまれて立体構造になっています。その様子を見やすく描いた図3をご覧ください。今回、決定されたAP1複合体γの耳ドメインがAP2複合体アルファやベータと呼ばれている種類の耳のドメインとは大きく違っていることが分かります。平面状のテープが絡まったように見えるベータ・シート構造だけからなる特徴や、AP2複合体アルファの耳にある外部タンパク質と結合するポケット状の構造がない事など、この運び屋タンパク質が輸送機能を果たす際のメカニズムを調べてゆく上で重要な成果が得られています。


GGAファミリーの機能理解も進む

AP複合体ファミリーと細胞内で同じ輸送経路で働いているGGAファミリーにも、今回発見されたドメインとそれを構成しているアミノ酸配列の並びによく似たドメインが存在しています。これによってGGAファミリータンパク質の構造を考える上で今回の研究結果は大変参考になります。この結果から前回お話したGGAタンパク質の構造が決定されたVHSと呼ばれるドメイン(図4)についで、二つ目のドメイン構造がほぼ分かったと考えられています。


タンパク質の立体構造研究の重要性

細胞内の物質輸送は細胞の生命活動を支える重要機能です。細胞内輸送に関係したタンパク質に異変が起き、誤った場所にタンパク質が輸送されることから起こる病気も多数知られています。例えば、神経細胞では情報伝達物質の細胞内輸送が活発に行われていますが、細胞内輸送の異常により神経麻痺が起こることもあります。細胞内輸送に関係したタンパク質の機能と構造を理解する研究は基礎生物学、医学の両面でとても重要な課題です。KEKの物質構造科学研究の中でタンパク質の立体構造決定に大きな期待が集まっています。

→関連記事:
     1) 細胞内の運び屋タンパク質
     2) X線でタンパク質を探る

 
 
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[図1]
この図は、細胞内のタンパク質輸送経路を模式的に表しています。エンドソームとトランスゴルジネットワークを中心に、細胞内小器官の間で多数の輸送経路が交錯しています。
[拡大図(30KB)]
 
 
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[図2]
この図は、AP複合体の4家系(AP-1〜AP-4)を模式的に示したものです。AP複合体は全て4つの異なるサブユニットから構成されています。今回の研究で、AP-1のγ(ガンマ)サブユニットの飛び出している耳の部分(earドメイン)の構造が明らかになりました。
[拡大図(15KB)]
 
 
[図3]
左は、AP-2のα(アルファ)サブユニットのearドメイン(図2のAP-2の左側の耳;赤色)の構造で、中央は、AP-2のβ2(ベータ2)サブユニットのearドメイン(図2のAP-2の右側の耳;ピンク色)の構造で、右は、今回の研究で明らかになったAP-1のγ(ガンマ)サブユニットのearドメイン(図2のAP-1の左側の耳;青色)の構造です。これら3つを比べると、全体の外形は大きく異なりますが、黄色で示した部分の構造が良く似ています。
[拡大図(35KB)]
 
 
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[図4]
この図は、GGA1タンパク質と他の輸送に関わるタンパク質との相互作用を表しています。GGA1タンパク質は、上の囲みの中の図のように3つのドメインから成っています。今回明らかになったのは、GGA1と細胞内で同じ輸送経路で働いているAP-1複合体のγ(ガンマ)サブユニットのearドメインです。GGAファミリーにも、これとアミノ酸配列の並びがよく似たドメインが存在しており、立体構造も類似していると考えられます(ピンク色のGAEの部分)。
[拡大図(29KB)]
 
 
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