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   image 加速器施設の安全を監視する    2003.5.29
 
〜 放射線集中監視システム 〜
 
つくば市内に長く住んでいる人から「KEKには原子炉があるのですか?」とたずねられて、驚くことがあります。KEKには加速器はありますが、原子炉はありません。加速器は、原子核実験、高エネルギー物理学等の限られた研究分野だけではなく、生物、化学等の基礎分野並びに医学や工業分野へと、広く利用されるようになりました。しかし、加速器の運転中は、放射線が発生します。この様子は、高電圧をかけるとX線が放射されるレントゲン写真の装置に似ています。この他に、加速器のビームや2次的に発生した放射線と空気やビームパイプ等の構造材とが相互作用を起こして生じる微量の放射性同位元素が運転終了後もしばらくの間、存在します。放射線を放出する物質や、放射線を放出する能力のことは放射能と言います。これらの放射線の発生や微量の放射性物質に対して安全な環境を維持しなければ、加速器利用の成果をあげてゆくことはできません。放射線や放射能を監視する(モニタリング)ことは、敷地内に働く人々や一般公衆に対する安全確保や環境保全を達成するためにとても重要なのです。今日はKEKで放射線環境の安全を保つために活躍している放射線集中監視システムについてご紹介しましょう。

システムの名前はNORM

KEKの加速器群は地下のぶ厚いコンクリート製の遮蔽体トンネル内に設置され、加速器が稼働したときに発生する種々の放射線や放射能を閉じこめる役目を果たしています。しかし、加速器の運転状況によっては、発生する放射線の中でも透過力の大きい中性子や光子(光の仲間で ある電磁波で、ガンマ線やエックス線と呼ばれる)が、遮蔽体の外側にごくわずかですが透過してくる場合があります。また、遮蔽体内から排出される空気や水には微量の放射能が含まれる可能性が有ります。KEKでは、NORM(ノーム:注1)と呼ぶ放射線集中監視システムを開発・導入して、これらの放射線や放射能が問題とならない基準以下(注2)であることを常時監視し、安全に万全を期しています。NORMはこれまでに何度も改良され、現在NORM3(ノームスリー)が稼働中です。
注1:Network Of Radiation Monitorsの略
注2:KEKでは、国の法律で定められた値よりも低い基準(法令値の1/2〜1/10)で、管理されています。

NORMの構成

NORM3は、265台の放射線・放射能モニターと9台の監視装置、それらをまとめる1台の中央監視装置で構成(図4)されていて、測定点は機構の敷地全体に及びます。測定されたデータは、監視装置にいったん保存され、中央監視装置に送られ、解析、記録、保存がなされます。

NORMは、24時間休むことのない、連続した安定動作や迅速な保守作業を可能とすることを基本思想に設計と開発がなされました。測定箇所の増加に対応したり、新機能を取り込むための拡張性も考慮されています。

放射線・放射能モニターの役割

敷地内各所に設置された放射線・放射能モニターは、高電圧電源回路、バイアス電源回路、信号増幅器回路、微少電流測定回路、計数回路、時間回路、表示回路及び出力回路等放射線測定に必要な回路を備えていて、表1にあるような検出器を接続すれば、100Vの商用電源さえあればどのような場所でも放射線の測定、放射線線量率表示、警報発生とデータの送信を行うことができます。また、一つの箱に同じ回路を2セット備え、同時に2種類の放射線を測定することができるタイプも開発されています(図1)。これは中性子測定用6.5cm厚ポリエチレン減速材付きHe-3(ヘリウム-3)比例計数管(左)と光子測定用10リットル空気電離箱(右)を検出器として備えています。

これらのモニターは、監視対象や設置される区域(図3)に対応して「色」にちなんだ名称とそのモニターが所属する監視装置の番号で、区別されます。例えば、放射線管理区域(放射線のレベルが有り、出入管理を必要とする区域)と一般区域の境界に置かれるモニターはYEL(イエロー)と呼ばれ、これが第3番目の監視装置に接続された1番目のモニターである場合、YEL0301となります。図2は、屋外に設置されているYELモニターで、収納箱は黄色に塗られています。(図2)

区域別に見守る監視装置

現在9台の監視装置が各加速器施設・区域単位に配置されています。これらは、区域内のモニターからのデータを10秒毎に受信して、一時的に保存しつつ、中央監視装置にも送信する役目を持っています。さらに、放射線レベルがあらかじめ設定された値を超えた時に警報を発する機能を持っていて、加速器のオペレータは自分の担当区域の放射線レベルを確認しながら加速器の運転を安全に行うことができます。また、基準を超える放射線レベルを検知した場合は、加速器を自動停止させるための信号を発生する、という、重要な機能も持っています。

放射線環境をまとめる中央監視装置

中央監視装置は放射線管理棟に置かれていて、最新の計算機システムと高速ネットワークで構成されています。ここでは、経由した全てのモニターからのデータを集約・保存する一方で、リアルタイム(実時間)にデータを解析、放射線レベルを時系列で表示する機能があります。また、過去2年間の全モニターのデータを10秒を最小時間単位として呼び出し表示することが可能で、光磁気ディスクにはNORM稼働以来のデータがこれも10秒を最小単位として保存されています。このように、中央監視装置では現在過去を問わず全てのモニターのデータが参照できるほかに、加速器自動停止信号、モニターの故障や警報の発生などの情報が集約され、表示されます。

おわりに

NORMに集約されるデータは上で述べた放射線に関わるものばかりではありません。例えば、環境に存在する放射能や宇宙放射線等の自然放射線は気象現象と深い相関があることが分かっています。この相関についてはまたの機会に詳しくお伝えしましょう。

これらの相関を調査するために、NORMでは8つの気象パラメータ(温度、地温、湿度、気圧、風向、風速、日射量、降雨量)を測定し、放射線モニターのデータと同様に解析・記録・保存しています。加速器運転の情報はリアルタイムでNORMに送られ、これもモニターのデータと同様に保存されます。また、モニターの位置はGPS装置を用いてディジタル測定され、電子地図に表示されます。このように、多様化されたデータを取り扱うことで、放射線レベルの詳細な解析が可能となっています。

NORMは1980年に第1世代が導入されて以来改良を重ね、KEKのプロジェクトの進展に伴って発展し、現在では世界的にみてもユニークな大規模モニタリングシステムとなりました。より完全なシステムを目指した研究開発はもちろん、万全な保守体制が取れるよう努力が続けられています。

※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射線科学センター
http://rcwww.kek.jp/
→FAQ(よくある質問)の放射線について
http://www.kek.jp/ja/faq/answer.html#A22
→暮らしの中の放射線
http://rcwww.kek.jp/kurasi/index.html

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   放射線のふるまいを探る〜計算プログラムEGS4〜

 
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[図1]
同時に2種類の放射線を測定可能な2チャンネル型放射線・放射能モニター
拡大図(15KB)
 
 
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[図2]
放射線管理区域と一般区域の境界に設置された放射線・放射能モニター(YEL)
拡大図(51KB)
 
 
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[図3]
KEKにおけるNORM3による監視区域
拡大図(51KB)
 
 
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[図4]
NORM3の構成
拡大図(53KB)
 
 
検出器測定対象
空気等価電離箱光子線
(X/γ)
ガイガーミューラー
(GM)計数管
光子線(γ)
NaI(Tl)シンチレータ
+光電子増陪管(PMT)
放射能濃度
プラスチックシンチレータ
+光電子増陪管(PMT)
光子線(γ)
BF3 比例計数管
(減速材付き)
中性子線
He-3 比例計数管
(減速材付き)
中性子線
[表1]
放射線・放射能モニターに使用される放射線検出器と測定対象
 
 
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proffice@kek.jp
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