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   image タンパク質の構造を高速に決定    2004.2.19
 
〜 2つめの高性能ビームラインが完成〜
 
KEKの放射光研究施設を使って行われているタンパク質などの生体物質の立体構造を調べる研究についてはこれまでにもお伝えしてきました。今日は、国際的に競争が激しい生命科学研究や創薬研究の分野で注目を浴びているタンパク質結晶X線構造解析のための実験施設に、世界でもトップクラスの性能を備えた新しい仲間BL-5についてご紹介しましょう。

KEKと「タンパク3000」プロジェクト

タンパク3000プロジェクト」とは、以前お伝えしたように2002年から5年間で3000種類以上のタンパク質の基本構造と機能を調べるプロジェクトで、遺伝情報を生かした薬(ゲノム創薬)を生み出すことなどを目指しています。

KEKではこのうち、タンパク質の構造を調べるために欠かせない放射光光源の実験設備を兵庫県にあるSPring-8とともに提供します。また、KEKの物質構造科学研究所の若槻壮市教授を中心とする構造生物学研究センターでは、他の参加研究機関と分担しながら、タンパク質の「細胞内輸送と翻訳後修飾」と呼ばれる機能について研究しています。

KEKの放射光研究施設では2003年2月に「AR-NW12」というタンパク質結晶X線構造解析用のビームラインが完成しました。ビームラインというのは加速器から放射光を取り出すための実験設備のことで、研究対象によってさまざまな特性を持ったビームラインがこれまでにも建設され、使われています。

AR-NW12は、これまでの装置に比べると測定にかかる時間が非常に速くなり、また、より高精度の実験が行えるようになりました。このため公開以来数多くの研究者に使われ、たくさんのタンパク質の構造が明らかになっています。タンパク質構造研究は急速に発展してきており、このようなビームラインの需要がますます高くなってきています。この成果を活かした、より高性能で使いやすいビームラインBL-5の増設が2002年秋から進められてきました。

実験の環境を決めるX線強度、検出器の面積、結晶回転軸の精度

BL-5はKEK放射光研究施設のフォトンファクトリーと呼ばれる電子貯蔵リングの第5セクションにあるビームラインです。多極ウィグラーという挿入光源により、通常の放射光よりも強いX線を取り出すことができます。

タンパク質の構造を決めるには、タンパク質の結晶にX線をあてて回折して出たきた弱いX線を測定するのですが、このとき、より大きな面積の検出器を使うことができれば分解能の高い回折データが得られるので、結晶構造をより精密に決めることが可能になります。また、ウイルスやタンパク質超複合体などの大きな分子の構造を研究する場合にも大面積の検出器は有利です。このため、BL-5にはX線構造解析としては日本で最大の面積を持つCCD検出器が使われています。

この検出器の面積は315mm角で、画素数は6144ピクセル×6144ピクセルという世界でも最大級のものですが、最大画素数を利用する場合でもデータの読み出しにかかる時間はたったの1秒です。

NW12でも使われた高精度な結晶回転軸は、改良の結果、さらに精度があがり、BL-5では芯ブレが1ミクロン以下に抑えられています(NW12では2.2ミクロン以下)。この結果、より小さな結晶にも対応できるようになりました。

さらに使いやすいビームラインを目指して

BL-5は2002年秋から建設が始められ、昨年の9月から放射光X線を使った装置の性能評価が行われました。12月には、初めてのタンパク質の構造解析が多波長異常分散法を用いて行われました。これらのテスト実験の結果から、BL-5はNW12と同じぐらいの速さで測定が行えることがわかりました。今年の4月からは共同利用実験に公開する予定になっています。また、BL-5を使用できる時間のうち30%は、「タンパク3000プロジェクト」に使われることになっています。

AR-NW12とBL-5の完成によって、タンパク質結晶のX線構造解析は従来とは比較にならないほど簡単かつ高速にできるようになりました。一つの種類の試料を解析するのに以前は数時間かかっていたものが、現在は20分ほどで実験データを取得することができます。装置の扱いもコンピュータプログラムの開発のおかげで誰でも簡単にできます。大量の試料をさらに効率良く解析するための試料交換用ロボットの開発も進んでおり、4月からは1日あたり100種類の試料の解析をロボット(図5)が自動で行うことができる環境で共同利用実験の利用者に公開される予定です。

タンパク質結晶の試料を保持するためのカートリッジも米国や韓国、台湾などにある放射光施設との間で共通に使うことができる標準化の動きが進められており、国際的な競争が激化する生命科学研究や創薬研究の分野で、これまでは放射光施設を利用しなかった研究者が気軽に研究できるようになるためのシステム作りが着々と進められています。

新設されたこれらのビームラインから「世界初」の素晴らしい研究成果が大量生産されるようになる日も遠くないことでしょう。放射光研究の今後の進展にご期待ください。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

  →放射光研究施設のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
  →構造生物学研究センターのwebページ
  http://pfweis.kek.jp/index_ja.html

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  ・04.02.18プレス発表記事
    タンパク質X線構造解析ビームライン(BL-5)の完成について

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[図1]
BL-5に設置された大面積CCD検出器。
拡大図(38KB)
 
 
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[図2]
結晶回転軸性能試験の様子。回転軸のブレは1ミクロン以下に抑えられていることがわかった。
拡大図(33KB)
 
 
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[図3]
BL-5で得られたタンパク質の電子密度と構造。右上はタンパク質の結晶の写真。
拡大図(93KB)
 
 
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[図4]
タンパク質結晶回転軸装置の説明をする若槻壮市(わかつきそういち)教授。
拡大図(36KB)
 
 
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[図5]
米国スタンフォード放射光研究施設で使用されているタンパク質結晶資料を交換するロボット。BL-5でも同型のロボットが使用される。
拡大図(54KB)
 
 
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[図6]
KEK放射光研究施設に新しく完成したBL-5。
拡大図(24KB)
 
 
 
 
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proffice@kek.jp
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