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   image 静かな観察者    2004.2.12
 
〜 中性子で探る極微の世界 〜
 
物質の構造を調べるときにX線を使って調べることは昔から広く行われてきましたが、中性子を使って調べることもできます。中性子は電気を帯びていない粒子なので、物質の奥深くまで進んでいって、物質中の原子核によって散乱されたりします。

加速器を使って発生させた中性子を使ってさまざまな物質の構造を調べているKEKの中性子科学研究施設をご紹介しましょう。

中性子とは

物質を構成する最小の単位である原子は、原子核とそのまわりを運動する電子から成り立っています。原子核はさらに陽子と中性子で構成されます。

たとえば炭素原子の原子核には6個の陽子と6個の中性子があり、その周りを6個の電子が回っています。

ジョリオ・キュリー夫妻は放射線の一種であるアルファ線をベリリウムという金属にあてると透過力の強い別の放射線が発生し、水素を含んだ物質に吸収されるという現象を発見しました。1932年にチャドウィックは、この放射線が電気的には中性で、陽子とほぼ同じ重さの粒子であるとすればよく説明できることを示しました。中性子の発見です。

中性子はウランの核分裂などでも発生しますが、加速した陽子をターゲットとなる物質の原子核に衝突させ(図1)、そこからでてくる中性子を集めることでも利用することができます。KEKの中性子科学研究施設では、中性子源のターゲットにタングステンという金属を用いています(図2)。図3はKEKの中性子散乱施設(KENS)です。中性子源から放射状にさまざまな種類の実験装置が設置されています。

加速器を使った中性子発生装置の特徴は、パルス状に出る陽子ビームと同じタイミングでパルス状の中性子が発生することです。このため、パルス中性子源と呼ばれます。

一方、原子炉で連続的に発生する中性子を用いる研究施設は連続中性子源と呼ばれます。日本原子力研究所(原研)には研究用原子炉(JRR-3M)のウランの核分裂によって得られる中性子を用いる実験設備があります。

中性子の「波」で回折

中性子はその名の通り、電気を帯びていないので、電子や原子核に近づいても反発したり接近したりすることがありません。このため、物質の中を静かに通過して原子核で散乱されたり、原子核に吸収されて不安定核を作ったりします。

この性質は、物質の細かな構造を調べるときにはうってつけです。

中性子は一個一個、数えることのできる粒子ですが、原子核で散乱される時には波のように振る舞います。この様子は量子力学を用いて計算することができます。

海岸に波が打ち寄せてくるとき、沖合にボートが止まっていると、ボートの脇には波の静かな場所があります。波はボートの端と端で散乱されます。波と波の間隔(波長)がボートの大きさとほぼ同じときには散乱される波がお互いに強めあったり弱めあったりして、海岸には変わった形の波が到着します。この現象を「回折」といいます(図4)。

沖合からやってくる波の波長がわかっているとき、海岸に到着した波の形を注意深く観察すれば、ボートを見なくてもボートの大きさを測定することができます。この原理を用いて中性子で物質の構造を調べることを「中性子回折」といいます。

中性子回折の特徴

中性子散乱実験では固体物理や化学、生物、材料開発などの広い分野で、重要な研究手段となっています。

物質の結晶構造を調べる場合は、X線回折と同様に利用することができますが、X線では水素、リチウム、炭素、酸素などの軽い元素があまりよく観測できないのにくらべ、中性子を使えば原子番号とは関係なく、軽い元素も含めた原子核の散乱の様子を見ることができます(図5)。このことは、生物の体に多く含まれる水素の配列や運動の様子を調べたりするときには特に重要です。

また、同じ元素でも原子番号が異なる同位体で中性子が散乱される度合いが異なるため、中性子を用いた実験は同位体の分析にも適しています。

粉末試料の解析に優れた回折装置SIRIUS

中性子解析の回折装置の例として、粉末試料用の中性子回折装置SIRIUS(図6)をご紹介しましょう。この装置はラザフォード・アップルトン研究所(英国)にある高分解能粉末中性子回折装置(HRPD)に次ぐ、世界第2位の分解能をもつ装置で、結晶構造を精度よく解析することに威力を発揮しています。

最近の携帯電話などに用いられるリチウム電池では電極材料(正極)としてLiMn2O4という物質が使われます。この物質の結晶構造がSIRIUSを使って解明されました。図7の左側でX線を使った回折像ではよく見えなかった酸素原子の存在が、右側の中性子を使った回折像ではくっきりと見えています。

中性子回折では他にも物質の磁気構造を調べたりすることができます。

KEKは現在、原研と共同で大強度陽子加速器施設J-PARC(図8)を建設中です。この施設が完成すると、現在の1000倍のパルス中性子強度が得られます。さらにいろいろな分野で中性子回折実験が成果をあげることにご期待ください。
 
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEK中性子科学研究施設のwebページ
http://neutron-www.kek.jp/
→日本原子力研究所のwebページ
http://www.jaeri.go.jp/
→東大物性研中性子科学研究施設のwebページ
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/labs/
neutron/index-j.shtml

→大強度陽子加速器計画(J-PARC)のwebページ
http://jkj.tokai.jaeri.go.jp/index_j.html
→日本中性子科学会のwebページ
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsns/

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[図1]
陽子を原子核にあてて中性子を発生させる時のおもなプロセス
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[図2]
加速器中性子源の概念図
拡大図(33KB)
 
 
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[図3]
KEKの中性子散乱施設(KENS)の平面図。中性子源から放射状にさまざまな装置が設置されている
拡大図(30KB)
 
 
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[図4]
回折された波の様子から、もとの物体の大きさなどがわかる
拡大図上(44KB)
拡大図下(45KB)
 
 
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[図5]
球の大きさが大きいほど中性子が敏感であることを示している。同じ水素(H)でも、軽水素(1H)と重水素(2H)では大きく散乱断面積が異なる。
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[図6]
中性子回折装置SIRIUS
拡大図(36KB)
 
 
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[図7]
LiMn2O4の結晶構造解析の結果
拡大図(62KB)
 
 
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[図8]
J-PARCの完成イメージ図
拡大図(70KB)
 
 
 
 
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