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last update:05/11/17  

   image コンピュータを高性能に    2005.11.17
 
        〜 半導体素子の界面反応を探る 〜
 
 
  コンピュータの性能は年々、飛躍的に向上しています。一昨年買った高性能のパソコンが、今では標準よりも低い性能になってしまったなんてことがありませんか? これはコンピュータの命とも言えるCPU(中央処理装置:Central Processing Unit)の計算速度やメモリ(記憶装置)の記憶容量が大幅に増加しているからなのです。

CPUやメモリの性能はどうすれば向上させることができるのでしょうか? CPUやメモリはナノメートル(nm)の大きさの極微細な素子が大量に寄り集まっています。一つ一つの素子のサイズがどんどん小さくすることができれば、同じ面積に含まれる素子の数を増やすことができるので、CPUやメモリの性能は向上します。

今日は、放射光を使って半導体素子の高性能化の研究に取り組まれている東京大学の尾嶋正治(おしま・まさはる)教授に研究成果についてご紹介していただきましょう。

MOSFET素子の縮小化

半導体に用いられる素子は、MOSFET(モスフェット:金属−酸化膜−半導体電界効果トランジスタ:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と呼ばれるものが一般的に用いられています(図1)。ゲートと呼ばれる酸化膜の両側にある程度の電圧をかけると、ソースとドレインの間に電流が流れるという性質を利用して、部屋の電気を点けたり消したりするようなスイッチング制御を行うことができます。

MOSFET素子でもゲート部分の縮小化は重要な課題です。ゲート部分には絶縁体(ゲート酸化膜)が用いられますが、これまでは酸化ケイ素(SiO2)が主流でした。ですが、MOSFET素子のサイズをさらに縮小化するときに、ゲート酸化膜の絶縁性が失われリーク(漏れ)電流の増加が起きてしまいます。そこで、誘電率の大きい絶縁体の酸化ハフニウム(HfO2)を用いることが提案されています。また、ゲートに電圧をかけるためには上部電極が必要です。現在、電極材料としては多結晶シリコンが用いられています。

ですが、素子作製段階の加熱処理により、ゲート部分の多結晶シリコン電極/ゲート酸化膜およびゲート酸化膜/シリコン基板界面で反応が起こってしまい、目的の性能が得られないという問題があります。この界面反応とは一体どのようなものなのでしょうか?

放射光光電子分光とは

東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻尾嶋研究室ではこの界面反応を調べるために放射光光電子分光という手法を用いました。光電子分光とは、物質にX線を当てたときに飛び出る電子(光電子)の運動エネルギーを調べて、その光電子がどの元素のどの軌道から発生したかを観測する方法です(図2)。このために新しく開発した装置を図3に示します。この測定により、物質を構成する元素の種類や量、化学結合状態を知ることができます。化学結合状態とは、金属単体の場合は金属結合、酸化物ではイオン結合または共有結合というように化学結合様式の状態を示しています。つまり、同じ元素であっても、例えば、金属と酸化物とは区別できるということです。また、試料に当てるX線として強度が大きい放射光を用いることで極微量成分の検出が可能となります。この極微量成分が素子の性能に大きく影響するので放射光を用いることはとても有効です。

放射光光電子分光による界面反応の解析

実験はKEKフォトンファクトリーで、多結晶シリコン/HfO2/SiO2/シリコンゲート構造試料を、加熱をしてから放射光光電子分光測定を行いました。その結果、図4に示すHf 4f 内殻準位の光電子スペクトルを詳しく解析した結果、多結晶シリコン(poly-Si)/HfO2界面で反応が起こり、ハフニウムとシリコンの合金が生成することが分かりました。これが生成するとリーク電流増大の原因になってしまいます。その構造を模式的に図5に示します。それではなぜ多結晶シリコン/HfO2界面から反応が始まったのでしょうか?

私たちは多結晶シリコン/HfO2界面におけるHfO2から多結晶シリコンへの酸素原子の拡散がこの原因になっていると考えています。この酸素原子の拡散により、多結晶シリコン/HfO2界面において酸素が一部欠損したHfO2が生じ、多結晶シリコンからは不完全なシリコン酸化物が生じるため界面反応が起こりやすくなります。その一方で、HfO2とシリコン基板との間にはSiO2の界面層が存在しているために、こちらは多結晶シリコン/HfO2界面ほど酸素原子の拡散が起きにくいので界面反応も起きにくくなることが考えられます。

現在では上部電極に新しい金属材料を用いた様々な研究が行われています。今後、MOSFETのゲート部分の界面反応が制御されればコンピュータの性能は飛躍的に進歩することでしょう。なお、これらの研究は半導体理工学研究センター(STARC)との共同研究で行っており、放射光が現代のナノテク最前線で産学連携の強力な道具として大きく役立っていることを示しています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→尾嶋研究室のwebページ
  http://www.chem.t.u-tokyo.ac.jp/appchem/labs/oshima/
→放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html

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[図1]
金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の構造。
拡大図(14KB)
 
 
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[図2]
光電子分光の原理。X線を試料に当てることで発生した光電子を検出します。強度が大きい放射光を用いることで極微量物質の検出が可能となります。
拡大図(16KB)
 
 
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[図3]
実験に用いられたKEKフォトンファクトリーのビームライン2Cと高分解能光電子分光装置。
拡大図(84KB)
 
 
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[図4]
poly-Si/HfO2/シリコン試料とpoly-Si無しの参照試料のHf4f光電子スペクトル。摂氏700度の加熱によりシリサイド(シリコンと金属の合金)の微小なピークが現れた。このピークは検出角度を60度にすると増加することから、上部界面で生成したことを意味している。
拡大図(57KB)
 
 
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[図5]
加熱前後のゲート構造試料構造。加熱を行うことでpoly-Si/HfO2界面でシリサイド化が起き始めます。
拡大図(18KB)
 
 
 
 
 

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