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last update:10/02/18  

   image 南極の雪原にて    2010.2.18
 
        〜 BESS-Polar II 測定器回収記 〜
 
 
  2年前、約1ヶ月の観測を終えた宇宙線中の反物質を観測するBESS-Polar II 測定器が、パラシュートで減速しながら南極の雪原に静かに着地しました。その時に回収された観測データには47億の宇宙線事象が記録され、その中に8,000事象を上回る低エネルギー宇宙線反陽子が検出されました。しかし測定器本体は雪原に置き去りにされたままでした。あれから2年の歳月を経て測定器は果たしてどうなっているのでしょうか? 南極での回収作業とはいったいどのようなものなのでしょうか? 今回は素粒子原子核研究所の吉村浩司准教授と槇田康博准教授が、BESS-Polar II 測定器南極の雪原からの回収ミッションをレポートします。

BESS-Polar II 実験

BESS-Polar II 実験は、超伝導コイルを用いた観測装置を気球により高空を飛翔させ、宇宙から降り注ぐ宇宙線反粒子を観測する日米共同プロジェクトです。2年前の2007年12月23日に南極マクマード基地(アメリカ)近郊のウィリアムフィールドと呼ばれる雪原より打ち上げられました(図1)。2004年にも同所で打ち上げており、今回で2回目のフライトとなります。

観測装置は、加速器実験で培われた超伝導技術・粒子検出器技術をもとにして開発されたもので、全重量はトラック程度(約2トン)あります。東京ドームと同じくらいの巨大な気球を用いて、上空約36kmを飛翔させて、科学観測を行いました。南極点の周りに発生する周回気流にのって、約18日かけて南極点の周りを1周し、さらに2/3周回して南極大陸を縦断する山脈に近づいたところで、気球を切り離して29日間におよぶ長時間フライトを終えました(図2)。

その後、観測装置の回収を試みましたが、南極の短い夏はすでに終わりに近づき、十分な回収作業日数を確保できなかったため、観測データを保存しているハードディスクユニットのみを1往復の飛行機アクセスで回収し、その他の測定器本体は置き去りにせざるを得ませんでした。測定器は、この後2回-60〜-70℃まで気温が下がる南極の厳冬を経験することになります。

回収ミッション

2年の時を経て、今回なぜ回収を行うことになったのでしょうか? まず第一に、観測装置は多くの人手と時間とお金をかけて建設された大変貴重なものだからです。測定器を回収することにより、さらに改良を施して新たな実験に利用することが可能になります。また、実験中に起こった様々な問題や事象に対して調査をすることも可能です。この点は、気球実験は衛星やその他の宇宙実験に対して優れているところです。さらに、自然環境を保護するという意味でも、人工物を南極の雪原に残さないことが重要となります。

回収といっても、何もない雪原に転がっている巨大な装置を輸送するのは容易なことではありません。第1回の飛翔実験ではTwin Otterという小型の飛行機しか使えなかったため、文字通り断腸の思いで測定器をのこぎりで切って細かく分割することにより、飛行機に積み込んで回収を行いました(以前の記事参照)。今回は、より大型のBasler(DC-3改)という飛行機を利用することで、分割を最小限にして、観測装置を容易に復元して再利用可能にすることを目標に、入念な準備をして回収にのぞみました。

いざ南極の雪原へ

今回の遠征に参加したのは、日米のBESS-Polar II 実験の研究者4名とキャンプマネージャー2名です。回収作業の舞台となる南極の雪原は12月から1月にかけて夏を迎え、平均気温は-5℃くらいとそれほど寒くはありませんが、ひとたび天候が悪化すると、唯一の交通手段である飛行機は離着陸ができなくなり、完全に孤立してしまいます。長いときには2、3週間飛行機が飛べないこともしばしばあります。雪上で自分たちの力で生き延びることが必須となります。キャンプマネージャーの2人は、南極サバイバルのエキスパートであり(一人は女性チームで初めて徒歩で南極点に到達した経歴があります)、必要な資材の調達、雪上キャンプの経験のない研究者の実地指導、輸送の手配、滑走路の整備、その他、測定器の解体以外の生活全般のとりまとめを行い、研究者達が南極生活を恐れることなく、回収作業に集中することを可能にしました。

回収ミッションは、12月19日にニュージーランドのクライストチャーチからC-17輸送機で約6時間で到着するマクマード基地から始まりました。そこで、雪上のサバイバルに必要な訓練を受けながら、キャンプ装備、回収のためのギアの準備を行います。マクマード基地は、2年前にBESS-Polar II 実験の際にベースとなった基地で、現地の人々には”Town(町)”と呼ばれているだけあって、夏期には約1000人が滞在し、食堂、売店、フィットネスジム、バー、教会、床屋、クライミングウォール、等、町に必要な機能が揃っており、健康で快適な文化的生活を送ることができます。

マクマード基地での準備終了後、12月31日に機材とともにLC-130輸送機に乗り込み、約1600km離れたWAIS Divideキャンプに移動しました。さらに天候不良で2日待った後1月3日にBasler飛行機で約700km離れた、BESS回収地点まで移動しました。回収地点は雪の平原が360度広がり、生き物は6名の人間しかいないという世界で、そこにテントを張って約2週間の生活が始まりました(図3)。外部とのコミュニケーションは、イリジウム電話と短波無線機しかない、インターネットもE-mailもTwitterも存在しない情報の砂漠とも言える場所でした。

測定器との再会、そして発掘作業

2年ぶりに再会するBESS-Polar II 測定器は、外装が一部はがれていたものの、雪に完全に埋もれることなく2年前とほとんど変わらない姿をしていました(図4a-b)。南極内陸の年間降雪量は非常に少なく(雨量換算で5mm程度)、地球上で最も乾燥した地域といわれているサハラ砂漠と同程度だということも納得できます。しかし、風により飛ばされた細かい雪が間隙をぬって入り込み、長い年月の間に、隙間という隙間を見事なまでに埋め尽くしていました(図5)。

測定器の周りの雪は、12月の上旬にBasler飛行機のための滑走路整備のために派遣されたチームの厚意によって、かなり掘り出されていましたが、さらにツルハシ、スコップ、手を使って測定器を傷つけないようにまるで、遺跡を発掘するように掘り出していきました。2日かかりで太陽電池パネルを取り除いた後、エレクトロニクス、測定器を順次取り外していきました。現場は、フォークリフト等の重機械はなく、雪を踏み固めた土台とロープをうまく使って測定器を回転をさせながら、測定器を取り外していき、入り込んだ雪を掃除するという作業を丹念に行いました(図6)。最後に、残ったマグネットの下にそりをつけて窪みから引き上げて、最終的に、Basler 飛行機に収まるサイズまで分解しました(図7)。積み込み準備を終えたBESSの機材が並ぶ前に、12日ぶりにBasler飛行機が到着し(図8)、最重量級のマグネット(300kg)を皮切りに(図9)、他の測定器も順次飛行機に積み込まれて、Byrdキャンプに輸送され、そこでLC-130に載せ替えて、マクマード基地に送られ、コンテナに積み込まれて貨物船によりアメリカに海上輸送されているところです。

滑走路の整備を含めると、約2ヶ月におよぶ作業でしたが、天候にも恵まれ成功裏に終えることができました。現地に乗り込んだクルーの努力もさることながら、滑走路を整備し測定器を掘り出してくれた先遣部隊、マクマード基地、WAIS Divide、Byrdでサポートしてくれたスタッフ、準備段階から支えてくれたKEKのスタッフ、その他、数多くの人々にお世話になりました、この場を借りて感謝したいと思います。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→BESSグループのwebページ
  http://bess.kek.jp/~masaya/bess/index-j.htm

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[図1]
2007年12月23日、ウイリアムフィールドでのBESS-Polar II の打ち上げ直前の様子。2トン以上ある測定器が、気球打ち上げ用に開発された特殊なクレーン車につり下げられている。下にスカート状につり下げられているのは、450 Wの電力を供給する太陽電池システム。気球と測定器の間にオレンジ色に見えるのはパラシュートで、気球を切り離した後、自動的に開くようになっている。
拡大図(28KB)
 
 
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[図2]
BESS-Polar II の飛翔経路と、今回の回収ミッションの足跡(青色の矢印)。途中、WAIS Divide キャンプ, Byrd キャンプ(いずれも50名程度が常駐する基地)で飛行機を乗り継いだ。南極では離陸地点と着陸地点のどちらかの天候が悪いと飛行機を飛ばすことができないため、待ち時間をあわせると移動だけで往復10日間も要した。
拡大図(87KB)
 
 
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[図3]
今回の回収ミッションで滞在したキャンプエリア。右からキッチン&食堂&通信用、トイレ&貯蔵用、6はりの個人用テントが立ち並ぶ。キッチン用テントはメンバーの憩いの場として用いられた。外気は平均-5℃程度だが、太陽が照っているときには、テントの中は10℃以上にもなり暑いと感じるほど。BESSの回収場所はここから1kmくらい離れたところにある。
拡大図(11KB)
 
 
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[図4]
(a) 着氷直後 (b) 2年後の測定器の様子。表面を覆っていたシートの一部が風に飛ばされてなくなくなっている以外はほとんど変化はなかった。年間を通じて写真の左から右に一方向に風が吹いているため、測定器の風下にあたる右側に雪がたまっているのがわかる。その後方には雪の吹きだまりが、土手のように100 m近く伸びていた。
拡大図 上(67KB)
拡大図 下(34KB)
 
 
 
 
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[図5]
保護アルミ板を外したエレクトロニクスの様子。ほとんど隙間のないところから雪が吹き込んで、まるで押し込んだかのように入り込んでいるのがわかる。
拡大図(58KB)
 
 
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[図6]
BESS-Polar II 測定器の発掘現場。掘り出した雪が周りに積みあげられ、直径10mくらいのクレータのようになっている。下の測定器を取り外すために、手動のレバーウインチとロープを用いて人力で回転させ、最後に下にそりを取り付けて、クレーターから引き上げた。
  拡大図(58KB)
[ 動 画 QuickTime(1MB)
Flash(1.7MB)
アニメgif(2.8MB)
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[図7]
観測装置の分解を終えて満面の笑みを浮かべる6人の回収クルー。出身、年齢、性別もまちまちのメンバーがそれぞれの個性をいかし、チームワークを発揮してミッションを成功に導いた。
拡大図(29KB)
 
 
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[図8]
12日ぶりに現れたBasler飛行機への積み込みを待つ測定器たち。右から、超伝導マグネット、中央飛跡検出器システム、エアロジェルチェレンコフカウンタ、上下の飛行時間測定用ホドスコープ。
拡大図(37KB)
 
 
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[図9]
最重量級の超伝導マグネットの積み込み風景。このあと測定器が搬入され、2日にわたって計3便のBaslerフライトにより雪上に何も残すことなく、雪原を後にした。
拡大図(58KB)
 
 
 
 
 

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