物構研談話会

日時: 2013-02-12 16:00 - 17:00
場所: 4号館2階輪講室1 東海1号館324室
会議名: 物構研談話会(12-36)PDF解析を用いた結晶性物質の局所構造解析
連絡先: 中尾裕則4868
講演者: 樹神克明氏  (日本原子力研究開発機構)
アブストラクト: 原子対相関関数(atomic pair distribution function)とは大雑把に言えば、ある原子からどれだけの距離にいくつ原子が存在するかを示すものである。これは実空間の関数なので、これを用いることにより結晶周期性をもたない原子の配列を調べることが可能になる(PDF解析)。これをバルクの結晶性物質に適用すると、結晶性物質中に存在 し得る周期性を持たない構造歪み(局所構造歪み)を観測することができる。我々は機能性物質や強相関電子系について、それら物質中に存在する局所 構造歪みとその物質の機能や物性との関係を調べている。講演ではそのような研究例を、混合価数をもつスピネル酸化物LiMn2O4について最近得られた結果を中心に紹介したい。

 LiMn2O4は約260Kで立方晶から斜方晶への構造相転移を示す。高温の立方晶ではすべてのMnサイトは結晶学的に等価でその価数は+3.5価であるが、低温斜方晶では複数の非等価な+3価と+4価のサイトが存在する。このことからこの構造相転移はMn3d電子の電荷秩序に 伴うものとみることができるが、電気抵抗の温度依存性をみると構造相転移の上下でともに非金属的である。我々は高温立方晶に
おける非金属的な電気 伝導の起源を知る目的で、J-PARCに設置されている高強度全散乱装置NOVAを用いて7LiMn2O4の粉末中性子回折実験を行い、そのデータをPDFに変換して局所構造解析を行った。その結果室温で得られたPDFは高温立方晶ではあまり良く再現できず、低温斜方晶で良く再現できることがわかった。この結果は室温の立方晶において斜方晶と同様な局所構造歪みが存在し、+3価と+4価の非等価なMnサイトが存在することを示している。すなわち立方晶においてはMn3d電子がいわばガラス的に短距離秩序を持って凍結しており、そのために非金属的な電気伝導が実現している可能性が示唆される。

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