物構研談話会

日時: 2013-12-11 16:00 - 17:00
場所: 4号館2階輪講室1・東海1号館324室(TV会議)
会議名: 物構研談話会(13-15)強磁場下の混合原子価Eu化合物におけるX線吸収磁気円二色性スペクトル
連絡先: 小出常晴(5674)
講演者: 小谷 章雄 先生  (PF, SPring-8)
アブストラクト: Eu化合物EuNi2(Si1-xGex)2 (x = 0.79. 0.82 etc.)中のEuは低温・ゼロ磁場で混合原子価状態をとるが、約30Tの磁場の印加により価数が急激に変化する。この現象は磁場誘起価数転移と呼ばれている。ミニチュアパルス磁場を放射光施設に持ち込んで、強磁場下のX線吸収(XAS)とその磁気円二色性(XMCD)を測定する実験技術は、最近わが国で開発されたものであるが、磁場誘起価数転移の研究に最も適した研究手段である。松田ら[1]は、40Tまでの強磁場下でEuNi2(Si0.18Ge0.82)2の硬X線によるEu L3端XASとXMCDを測定したが、XASで観測された価数は磁化の実験データと整合しないことがわかった。その上、磁化をほとんど持たないはずのEu3+の成分が、XMCDにおいて異常に大きな信号をもつことが観測された。これらの問題点を解決するために、われわれは新しい理論計算を実行するとともに、中村らと協力して軟X線によるEu M45端のXASとXMCDの実験をおこなった[2]。
理論計算では、磁場誘起価数転移が1次転移であること、Eu3+成分はVan Vleck常磁性をもつこと、および磁性不純物の効果を取り入れた。計算結果は実験の磁化曲線をよく再現し、また、価数は硬X線実験結果よりかなり小さいはずであることを示した[2,3]。一方、軟X線XASとXMCDの実験スペクトルはこの計算結果によく一致した[2]。また、これらの理論と実験の結果は、VanVleck常磁性の寄与は十分小さく、硬X線のXMCDにおけるEu3+の大きな信号はEu3+の4f電子磁化に起因するものでないことを明瞭に示した。最後に、われわれはこの理論を温度変化によって引き起こされる価数転移の計算に拡張し、既存の実験結果とよく一致する結果を得ることに成功した[3]。

[1] Y. H. Matsuda et al., J. Phys. Soc. Jpn. 77, 054713 (2008); Phys. Rev.
Lett. 103, 046402 (2009).

[2] T. Nakamura et al., J. Phys. Soc. Jpn. 81, 114702 (2012).

[3] A. Kotani and T. Nakamure, J. Phys. Soc. Jpn. 82, 044710 (2013).


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