アブストラクト: |
中性子は電荷を持たないハドロンであり、物質研究にとって大変有
用なプローブである。しかし、シンクロトロン放射光等の光子源に比べて
桁違いに強度が低い。この難点を克服する直接的な解決方法は大強度中性
子源の建設であるが、依然として絶対強度では光子に遠く及ばず、更なる
大強度中性子源は今のところ見込めない。一方で中性子の利用効率を向上
させるというもう一つの可能性が存在する。我々は、中性子利用効率の向
上を達成するための基礎的研究全般を「中性子光学」と位置づけて研究を
展開してきた。中性子は電気的に中性であるが故に、ビーム光学的技術の
多様性も少なく系統的な研究が難しい分野であったが、1990年代後半には
磁気相互作用及び物質界面での屈折現象を積極的に利用する屈折光学系が
現実のものとなり、新たな可能性が生まれた。これを端緒として、2000年
から全国規模での中性子光学及びその応用研究が開始され、屈折集光系を
用いた中性子散乱が稼働する段階に入った。これまでの研究の成果の全貌
を概観し、更なる可能性を紹介するとともに、その応用について議論した
い。 |