アブストラクト: |
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は生体にとって有害なスーパーオキシドラジカルを消去する酵素で、酸化ストレスから生体を守る重要な役割を果たしている。ヒトでは3種類のSODアイソザイム(Cu/Zn-SOD、Mn-SOD、EC-SOD)が存在するが、そのうちのCu/Zn-SOD遺伝子の変異が家族性の筋萎縮性側索硬化症(FALS)を引き起こすことが明らかになっている。FALS変異Cu/Zn-SODは構造が不安定で凝集化を起こしやすいことが示唆されているが、その発症メカニズムはほとんど解明されていない。また酸化された野性型Cu/Zn-SODも凝集化を起こしやすいことが報告されている。ヒトCu/Zn-SODにはシステイン残基が4つあり、Cys57とCys146は S-S結合をしており、Cys6とCys111がフリーのシステインである。Cys111はタンパク質分子の外側にあるGreek key loop内に存在し、ホモダイマーが向かい合った位置するため、Cys111のSH基は特に反応性が高いと予想される。このCys111のSH基にSS交換反応で2−メルカプトエタノール(2-ME)を導入(この2-ME-SODは宇部興産より提供された)し、安定性および酸化への影響を検討した。
まずCys111にのみ2-MEが結合していることをMALD-TOF-MASS解析で確認した。さらに20 mM以上の2-MEとインキュベートすることで、Cys111の2-MEがはずれて元のSH型になることを確認した。この元に戻した野性型SODと2-ME-SODを種々の温度下で円二色性(CD)解析を行い、構造の安定性を調べた。 70℃までは両者とも安定で差は認められなかったが、75℃以上になると差が出始め、野性型SODの方が2-ME-SODよりも不安定であることがわかった。次に種々の濃度の過酸化水素を両SODに加え20 分間インキュベート、希釈した後、SDS-PAGEを行った。過酸化水素の濃度が1 mM以上になると、野性型SODにのみ上にシフトしたバンドが出現した。また野性型SODでは空気酸化によっても上のバンドが現れた。このバンドはCys111がCys-SOOHまたはCys-SOOOHに酸化されたCu/Zn-SODであること、2-ME-SODではCys111が酸化されないことを証明した。
以上の結果は、2-ME化したSODは野生型のSODよりも熱に安定で酸化されにくいことを示している。 なぜCys111のSH基をマスクするとCu/Zn-SODの安定性が増大するのかを構造学的に解明したいと考えている。 |