放射光セミナー

日時: 2006-12-01 16:00 - 17:00
場所: PF研究棟2階会議室
会議名: 放射光セミナー「光電子反跳効果の理論:見落とされていた素過程」
講演者: 萱沼洋輔氏  (大阪府立大学工学研究科)
講演言語: 日本語
URL: http://pfwww.kek.jp/pf-seminar/
アブストラクト: 高田らによる軟X線から硬X線領域にわたるグラファイト1s内殻光電子スペクトルの精密測定により、励起エネルギーに依存した系統的なスペクトルシフトと幅の増大が観測された。8keV励起では、ピークシフト(束縛エネルギーで高エネルギーシフト)は 0.3eV以上にも及ぶ。これは光電子の反跳効果、すなわち放出電子が母体原子をキックすることでその運動エネルギーの一部を失う効果によるものである。内殻光電子放出では、そのスペクトル形状はメスバウアー効果の理論との類推により解析でき、光電子のエネルギー、原子量および結晶のデバイエネルギーの3つの物理量で完全に記述できる。また、われわれの理論では、初期波動関数が「小さい」ことはどこにも要請されていないので、ブロッホ電子に対しても観測される可能性がある。  反跳効果は運動量保存から直接に導かれる普遍的現象であり、炭素以外でも比較的軽い元素では必ず存在する。これが気付かれて来なかったのはむしろ驚きである。この立場から言えば、紫外、軟X線領域でのこれまでの光電子分光では、実は無反跳線を観測していたのだ、ということになる。反跳効果の発見で、X線光電子分光はパラダイムの転換を迎える可能性がある。

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