アブストラクト: |
固体の光電子分光においては通常用いられるエネルギー保存則に見られるように、
従来はX線回折やメスバウワー効果等のような無反跳現象、すなわち励起された光電子
と周囲との間で運動量のやりとりはあってもエネルギーのやりとりは無視できると考え
られてきた。しかし最近高田らによりグラファイトのC 1s内殻光電子スペクトルにおい
て反跳効果に起因すると思われるエネルギーシフト及びブロードニングが観測 され(cond-
mat/0609241)、固体光電子過程においても気体の場合と同様反跳効果が無視できない
ことが示唆された。
我々はいくつかの化合物固体に対して硬X線及び軟X線光電子分光を行い、反跳効果に
ついて調べた。Yb7/8Lu1/8B12については、励起光エネルギーを変えることでB 1s
ピークが大きくシフト(約300 meV)する一方でYb 4dピークはシフトせず、固体光電子
反跳効果を裏付ける結果を得た。他の物質においても同様な現象が観測された一方で、
ある酸化物ではバルクO 1sピークでさえも反跳効果の影響が無視できる事も確認した。
本講演では我々が得た実験データを元に価電子帯光電子分光における反跳効果の可能性
や光電子過程についても議論する。 |