放射光セミナー

日時: 2007-02-06 14:00 - 15:00
場所: 放射光研究棟2階会議室
会議名: 放射光セミナー「ω-t 空間における軟X線放射光の制御と短パルス発生に関する開発研究」
講演者: 宮原 恒あき氏  (首都大学東京 大学院理工学研究科)
講演言語: 日本語
URL: http://pfwww.kek.jp/pf-seminar/
アブストラクト: 放射光を、ビームライン光学系で直進させたり、収束・発散させると、ビーム進行方向と垂直な位置−運動量空間における分布が変化する。これを利用して、放射光ビームのサイズや角度発散を制御出来るが、線型な範囲内では、これらの変換は2行2列の行列で表されることはよく知られている。以上と類似した変換をω-t 空間において実現したいというのが本研究の基本的な動機である。もちろん、この制御はビームの変換であって「切り取り」ではない。我々が探索したいのは、原理的に強度を犠牲にしない変換である。もし、これが実現できれば、単色性を犠牲にしてパルス長を短縮することができるから、通常の放射光ばかりでなく、ERLやFELなどの特殊な放射光についてもパルス長を制御することが可能となる。    ところが、ω-t 空間では電磁波は真空中を直進しても何事も変化しない。時間 t に依存して ωを変調するには、時間依存のドップラー効果を利用する必要があるが、これをやるには光速の1%のオーダーで運動する反射体が必要であり、軟X線領域では難しい。一方、ω に依存してt を変調するには大きな分散が必要であるが、残念ながら大きな分散性の物質は軟X線領域では存在しない。したがって、ω-t空間においてビームの振る舞いを制御するには特別な工夫(2重回折格子)が必要であり、その可能性を探り、将来新しい光源への適用可能性を探るのが本研究の主要な目的である。  本研究では、第1段階としてアンジュレータにテーパーを付加し、自然放出光をアップ・チャープすることから始める。このとき、アンジュレータにテーパーを付加しても、蓄積リング全体に影響を与えないことを確認するための種々の作業と予備テストを行う。また軟X線領域では透過型の分散性素子は使えないので、2重回折格子を用いて、ω に依存して光路差(したがってt)を変調することを考える。これにアップ・チャープされたパルス波束を入射するとパルスが圧縮されるが、このとき回折格子の効率を別にすれば損失はない。すなわちω-t空間における変換のみにより短パルスを実現したことになる。アップ・チャープされたパルス波束は単色性が劣化しているが、原理的にはそのフーリエ限界までパルス圧縮が可能となる。  短パルス化の確認は数年前までに我々が行っていた2光子相関法を用いる。2光子相関率はビーム強度の2乗に比例するが、この強度で割り算して規格化したとすると、パルス長に比例する。従って、パルス圧縮の前後で、強度の2乗で規格化した2光子相関率を測定すれば、自然放出光のパルス長は既知であるから、パルス圧縮率を知ることができる。我々は当面エミッタンス等を考慮して、20−30%までのパルス圧縮を目指すが、最終的にはフーリエ限界に近い10%程度までの圧縮を達成することを試みる。アンジュレータの高次光のほうが圧縮率が大きいので、光学系はアンジュレータの3次光に最適化して実験を行う。

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