アブストラクト: |
最近の超短X線パルス発生実験技術の進歩により、パルス幅はアト秒領域に達して
いる。すでに、時間分解X線回折や時間分解EXAFSの実験がなされ、可視光レーザー・
パルスにより誘起された分子構造・結晶構造の時間変化が観測されている。更なるX
線の短パルス化、コヒーレンスの向上、強度の向上により、超高速X線非線形分光の
分野が切り開かれようとしている。可視光レーザー・パルスと比較して、X線パルス
が原理的にはそのパルス幅を3桁も短くできるのに加えて、X線エネルギーを特定原
子に共鳴することで選択的に原子を励起できるサイト選択性を利用すれば、1分子内
での電子(または励起子)の原子間移動の様相を実時間スナップ・ショットとして観
測することができる。可視光領域における超高速分光法により、コヒーレント振動波
束が観測されているが、X線を用いることにより、アト秒オーダーで運動するコヒー
レントな電子波束を直接観測することができる。さらに、X線パルスを使ったquantum
controlにより、分子内での電子波束の制御も夢ではない。
これまでX線領域における非線形分光の定式化がなされていなかったが、我々は
最近非線形応答関数による一般的定式化を行ったので、それを紹介した後、具体的な
計算例として、ニトロ・アニリン分子のX線ポンプ・プローブ分光、1次元分子の時
間分解共鳴X線発光スペクトル、コヒーレントX線ラマン散乱分光を紹介し、この新し
い分光法が分子内電子(励起)移動を調べるための有力なプローブとなることを明ら
かにする。
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