アブストラクト: |
層状ペロブスカイト構造をもつルテニウム酸化物超伝導体Sr2RuO4 は,その超伝導対称性がスピン三重項であることが決定的となった [1].
しかしながら,その対形成機構についてはまだ良くわかっていない.
Sr2RuO4 は量子振動測定から,3 枚のフェルミ面で構成されていることが明らかになっており,そのフェルミ面のネスティングに起因する反強磁性ゆらぎ, および弱い強磁性ゆらぎが最近の中性子非弾性散乱実験によって確認されている [2].
本研究では,f 電子系や銅酸化物高温超伝導体で議論されているように,Sr2RuO4 における磁気ゆらぎと超伝導との関わりについて調べるため,元素置換に着目した研究について報告する.
より具体的には,
(1) Sr(2+) をLa(3+) に置換し,電子ドープをおこなうことにより,リジッドバンド描像にしたがってフェルミ面は変化する.それにともない,主要バンドに起因する強磁性ゆらぎが増強される [3].
(2) Ru(4+) をTi(4+) に置換することにより,(1) でのLa(3+) 置換とは対照的に,副次的なバンドに起因する反強磁性ゆらぎを増強させ [4],さらには磁気秩序誘起まで確認できる [5].
今回の話をとおして,適切な元素を選ぶことにより,複数ある磁気ゆらぎを選択的に増強させることができるということをお伝えしたい.
なお,時間が許されれば,他のルテニウム酸化物Ca3Ru2O7 について,浮遊帯域法によって育成された結晶によって明らかにされた遍歴状態 [6]が,Sr2RuO4 と同様,構成するフェルミ面から理解できるということを,量子振動測定,低温ホール効果,および比熱の結果にもとづいて報告したい.
[1] A.P. Mackenzie and Y. Maeno, Rev. Mod. Phys. 75 (2003) 657 .
[2] M. Braden, et al., Phys. Rev. B 66 (2002) 064522.
[3] N. Kikugawa et al., Phys. Rev. B 70 (2004) 134520.
[4] N. Kikugawa and Y. Maeno, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 117001.
[5] M. Minakata and Y. Maeno, Phys. Rev. B 63 (2001) 180504(R).
[6] Y. Yoshida et al., Phys. Rev. B 69 (2004) 220411(R). |