理論セミナー

日時: 2006-09-12 13:30 - 14:30
場所: 4号館3階345室
会議名: Generalized form factors, generalized parton distributions, and the spin contents of the nucleon
連絡先: 津田
講演者: 若松 正志  (大阪大学)
講演言語: 日本語
アブストラクト: 核子の一般化形状因子とは、一般化パートン分布の Mellin モーメントとして定義される物理量で、最低次(1次)のモーメントとして、よく知られた核子の電磁形状因子を含んでいます。特に興味深いのが、2次のモーメントとして現れる重力形状因子と呼ばれる量で、その理由はそれが、Jiの角運動量和則を通じて、核子中のクォークやグルオンが運ぶ全角運動量と直接に関係する量であるからです。これらの一般化形状因子は、(時間に関して非局所的な演算子の核子行列要素の知識が必要となるパートン分布と異なり)、局所的な演算子の核子行列要素として与えられる量であるために、既に、格子ゲージ理論の2つのグループによる研究がなされています。一般化形状因子の研究を通じて、2つのグループが到達した共通の結論は、核子中でクォークの軌道角運動量が果たす役割は非常に小さいというものです。これらのグループの数値実験は、パイ中間子の質量が700MeV から 800 MeV のいわゆる heavy pion world でなされたもので、上の結論も、この状況で得られたものであると論文には明示されているのですが、クォークが運ぶ軌道角運動量は小さいというのが格子ゲージ理論の結論であるという(設定状況を忘れた)イメージだけが一人歩きしているのが現実です。現実的なパイ中間子の質量領域で、しかも、ダイナミカルな Nambu-Goldstone励起の影響を取り入れた格子ゲージ理論の計算を遂行するにはいましばらく時間がかかりそうですから、私達は、既に、通常のパートン分布の物理で実績のあるカイラル・クォーク・ソリトン模型 (CQSM) の枠組みで、一般化形状因子のパイ中間子質量依存性を調べてみました。この結果、EMC 実験と矛盾するクォークの縦偏極に対する過大評価が、2つの格子ゲージ理論のグループの得た結論の原因であることがわかりました。実際、CQSM によれば、フレーバー1重項のクォーク・スピン偏極は、パイ中間子の質量に非常に敏感で、QCSMの予言は、カイラル極限では、EMC 実験をほぼ再現し、重いパイ中間子の領域では、格子ゲージ理論の大きな予言に近づくことが確かめられました。更に興味深いのが、今のところ格子ゲージ理論では計算できない一般化パートン分布と、一般化形状因子との直接的関係です。例えば、CQSM では、一般化パートン分布の前方極限である H(x,0,0) + E (x,0,0) という量が既に計算されていますが、ここで注目したいのは、この量の1次のモーメント(x-積分)は核子の磁気能率を与え、2次のモーメント(xの重み付きx-積分)は核子の重力磁気能率(またはクォークの全角運動量)を与えるという事実です。このことから直ちにわかるように、例えば、H(x,0,0) + E(x,0,0)は Feynmann の運動量空間における核子の磁気能率分布を与え、また、x [H(x,0,0 + E(x,0,0)] は、同じ空間におけるクォークの角運動量分布を与えるという解釈が成り立ちます。一般化形状因子に比べて、x-依存性という非自明な情報を含むこれらの分布の、パイ中間子質量への依存性を調べることによって、核子の内部構造の物理に果たすNambu-Goldstone パイ中間子励起の役割を、さらにはっきりと見ることができることを示します。

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