News Asian Accelerator Plaza 日本語

大亜湾のニュートリノ観測装置、データ取得を開始

中国科学院高能物理研究所(IHEP)
ニュートリノ観測装置

ニュートリノの謎の解明を目指した大亜湾(Daya Bay)原子炉ニュートリノ実験は,最初に完成した2台の装置を使って,中国広東核電集団公司の原子炉から到来する反ニュートリノ(ニュートリノの反粒子)の反応を捕らえ,データ収集を開始しました。

ニュートリノ振動の振る舞いは3つの「混合角」で記述されますが,このうち最も決定精度の悪いのが第3の混合角θ13です。大亜湾国際共同実験では,反ニュートリノが電子型から他の型へ変化する現象を捕らえてθ13を決定します。この度の実験開始によりその第一歩を踏み出しました。この研究は宇宙に反物質が存在しないことを理解するための重要な手がかりとなるでしょう。

大亜湾原子炉ニュートリノ実験装置は、香港から約55kmにある世界最大級の原子炉,大亜湾・嶺澳原子力発電所,に近いことからθ13を精度良く決めるのに適しています。最終的には8台の装置が,近隣の山の地下の3つの実験ホール内に配置されます。大亜湾から約300mに建設された第1実験ホールの装置がこの度観測を始めました。第2実験ホールは嶺澳(Ling Ao)原子炉から約500mに位置し、今秋稼働予定です。一番遠い第3実験ホールは、原子炉から約2kmに位置し、2012年夏にデータ収集を開始する予定です。

本実験では、原子炉で生成される大量の電子型反ニュートリノの「消失」を測定します。原子炉の近くに設置した装置を使って原子炉での発生量を測定し、遠方の装置では,予想される到達量からどのくらい減少しているかを測定します。原子炉から到来する反ニュートリノが円筒型の装置を満たす液体シンチレータと反応すると僅かな光が発生します。装置の壁一面に取り付けられた光電子増倍管がこの光を捕らえます。 反ニュートリノの反応は極めてまれにしか起こりません。原子炉では一日に千兆個のさらに百万倍もの反ニュートリノが生成されますが,このうち原子炉に近い実験ホールに設置された2台の観測装置で検出されるのはたったの1000個ほどです。原子炉から離れた実験ホールで観測される数は更に少なく,一日に数百程度です。原子炉から近い装置と遠い装置で観測される反ニュートリノの数とエネルギー分布の違いθ13の値を求めます。

実験ホールを山の地下に建設するのは宇宙線のミューオンを遮蔽するためです。装置全体は水で満たされたプールの中に沈められ,周囲の岩からの放射線を遮蔽します。このように遮蔽をしてもエネルギーの高い宇宙線は装置を貫通します。こうした宇宙線はプールの壁に取り付けられた光電子増倍管やプールの天井に設置された「ミューオン検出器」で捉えられるので,原子炉からの反ニュートリノと区別することが出来ます。全部で8台の観測装置が稼働して2〜3年間データを取るとθ13の値を目標の1%の精度で決めることが出来ます。

本実験は、中国と米国を中心としたロシア、チェコ、香港、台湾による国際プロジェクトです。中国のプロジェクトマネージャーとして、中国科学院高能物理研究所の王貽芳(Yifang Wang)教授を、米国のプロジェクトマネージャーとして米エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所のBill Edwards教授を、、また、ブルックヘブン国立研究所のSteve Kettle教授を主任研究者として、研究が進められています。

ニュートリノ
物質を構成する最小の単位である素粒子の一つで、クォークや電子の100万分の1以下の質量しかもたず、電気的に中性という性質を持つ。ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3種類がある。これらニュートリノの種類が周期的に変化する現象をニュートリノ振動とよぶ。 ニュートリノ振動が生じるためには、電子型、ミュー型、タウ型といった状態が、決まった質量を持つ状態の重ね合わせになっていることが必要である。この重ね合わせの係数の大きさを表すパラメータを「混合角」とよび、これも3種類あると考えられている。 現在まで2種類のニュートリノ振動が確認されており、3種類のニュートリノ混合角のうち、2種類がすでに測定されている。唯一まだ測定値が得られずに残された混合角をθ13とよぶ。