2007年度 技術交流会 要旨
 
[1] J-PARCにおけるヘリウム供給・回収システム
飯田真久(共通・低温)
 超伝導低温工学センターでは、つくばキャンパス全域にヘリウムガス回収設備を配し、低温実験のための液体ヘリウム供給および蒸発ガスの回収、再液化を行っています。
 東海キャンパスにおいても、物質生命棟他における低温実験の要請から、液体ヘリウム供給および蒸発ガス回収システムが必要とされており、現在そのための設備等の設計、整備を行っています。
 ここでは、東海キャンパスにおける液体ヘリウムの供給方法、ヘリウムガス回収ステーションを含むガス回収設備について、その計画と整備中の設備について紹介します。
 
[2] STF棟における超伝導加速空洞表面処理に関わる施設建設
舟橋義聖(共通・機工)
 機械工学センターでは、加速器研究施設と共同でILC(国際リニアコライダー)計画に必要な種々の装置開発に携わってきた。リニアコライダー開発に必要な種々の試験設備の内、STF棟に設備される超伝導加速空洞の組立に必要なISO規格のCLASS4とCLASS6のクリーンルームの設置と空洞内表面の処理設備として1. 電解研磨設備、2.洗滌設備、3.化学処理設備、の建設を担当している。このように機械工学センターの設備している工作機械を使用した加工作業とは異なる加速器開発現場に設備構築する作業を行なっている。この一連の作業内容の記録写真を中心に提示し平成18年度建設、19年度立ち上げ中のクリーンルーム及び電解研磨設備について紹介をする。
 
[3] 電解研磨設備の概要と安全性
沢辺元明(共通・放射線)
 ILC加速器(国際リニアコライダー)は、世界の研究者がその実現に向かって努力、研究されている夢の加速器である。このILC加速器計画の加速器には超電導方式が採用され、高エネルギー加速器研究機構(KEK)においても超電導加速器空洞の開発、実用化をめざし空洞の性能向上に鋭意取り組んでいる。
 超電導加速器空洞の性能は内面研磨状態に大きく依存するといわれている。その研磨方式には、電解研磨法(EP)と化学研磨法(CP)が研究されている。
 本設備はこれらの2方法をILC空洞に適応するため、超電導RF試験開発施設(略:STF棟)に第一期工事として平成18年度に電解研磨設備が先行して設備された。この設備は将来の工業化を目的とし、自動化を実践するモデルとしたものである。
 私はこの設備の担当者として本技術交流会において以下の内容につい て発表を行う。
1.電解研磨設備の概要  2.電解研磨設備の法規制  3.電解研磨設備建設にあたって  4.環境への安全性  5.作業ならびに作業環境の安全性
 
[4] 電子系加速器における放射線測定と空間線量率抑制
高橋一智(共通・放射線)
 KEKの放射線管理室が行っている放射線管理業務は多岐に渡るが、主要な業務のひとつとして加速器周辺の放射線空間線量率測定がある。
 空間線量率測定は、作業者の被ばく量が放射線障害防止法の定める制限値を超えないよう管理するために行うのが主な目的である。また、加速器周辺における空間線量率分布は、ビームロスの状況を示す重要な情報であり、加速器側に情報のフィードバックをすることでビーム状態が良くなり、結果として空間線量率を低く抑えることが出来る。
 本発表ではKEKで第4区域と呼ばれる電子陽電子加速器と放射光科学研究施設で行っている空間線量率測定について各測定の目的と方法、結果について述べる。
 
[5] 電子陽電子加速器の入射部とKEKB電子銃の放電対策
池田光男(加速器・第三)
 現在、電子陽電子加速器はKEKBリング(HER/LER)、PFリング及び、PF-ARリングにビームを供給しています。そのビーム発生源となる電子銃と周辺機器について紹介したいと思います。
 
[6] 直流高圧電源の故障と対策
本間博幸(加速器・第三)
 KEKB電子陽電子入射器マイクロ波源では、低電力クライストロンに30kVのパルス電 圧を印加するため、30kV,20mA出力の直流高圧電源を合計8台使用している。昨年度、 この電源で5回故障 が起きた。低電力クライストロン1台で8台の大電力クライストロンにマイク ロ波を供給するため、入射器運転への影響は大きい。
 交流会では、この故障に関する原因の推定、対策、最近の状況について 報告する。
 
[7] Spam/ウィルス対策を強化した電子メールシステムの構築と運用
押久保智子(共通・計算)
 電子メールは、機構における研究、業務を行なう上で必要不可欠なものとなっており、24時間365日、安全で安定した運用を求められている。
 日常生活環境でのインターネットやモバイル端末の普及により電子メール環境は、公告メールなどのいわゆる迷惑(Spam)メールが増加し、社会的問題を引き起こしている。平成14年の特定電子メール法の成立、平成17年の対応強化の法改正により一時的にSpamメールは減少したかのように思われるが、昨今は法をすり抜け、海外から発信をする巧妙かつ悪質化したSpamメールが増加の一途をたどっている。機構の研究、業務を行なう上でも無視できない状況となっていた。
 2005年度の共通情報計算機システムのリプレースにあたり、その一部である電子メールシステムを、安定無停止運用とSpam/ウィルス対策の強化に重点を置き、構築した。今交流会では、2005年12月22日に導入した電子メールシステムの構築と日々の運用を、Spam/ウィルス対策を主眼として述べる。
 
[8] 研究・業務を支えるTV会議
中村貞次(共通・計算)
 KEKでは今から16年前の1992年に日米CDF実験のコラボレーションミィーティングにTV会議を介した打ち合わせを日米間で初めて行った。当時はデジタル網のISDN(Integrated Service Digital Network)を使い128Kbpsで映像及び音声の交換を相互に行っていたが、徐々にBELLE、ALTAS実験その他の共同研究プロジェクトも利用するようになり、KEKでは3地点以上が同時にTV会議が行えるように多地点会議制御装置(MCU=Multi-point Control Unit)のサービスを開始した。
 TV会議の利用は増え続ける一方でISDN通信費の増大が懸念され、2002年6月よりTCP/IPベースのTV会議サービスを開始し、約3年の移行期間を経て2005年8月には完全にTCP/IPベースに移行した。これにより通信費の削減と会議レベルを向上することが出来た。
 本発表では、KEKでのTV会議の歴史や苦労話し等、現在行っているサービスと今後のTV会議サービス展開について紹介する。
 
[9] PFリングにおける電磁石制御用GUIの開発
長橋進也(物構研・放射光)
 PFリングは、挿入光源ビームラインの拡充を図るため、2005年に約半年間かけて既存の直線部を長くし、また新たに4本の短い直線部を作り出す改造(PF直線部増強)を行った。
 PF直線部増強では、1980年代に製作された直線部の四極電磁石を全て、磁石長を短くしてもボア径を小さくすることによって磁場勾配が十分得られるものへと変更した。また、合わせて電源も大幅に増強した。これらの制御系はワークステーションを基にしたものを使用していたが、制御の利便性と各種制御プログラム開発を容易かつ短時間に実現するために、既に多くの研究機関で実績のあるEPICS(Experimental Physics and Industrial Control System)へと変更した。これに伴うGUIの開発には、dm2k、Python/Tk、SAD/Tkを使用した。
 本発表では、PF直線部増強の概要と電磁石電源制御系更新に伴うGUIの開発について紹介する。