2008年度 技術交流会 要旨
 
(1) セシウム不使用負水素イオン源
池上 清 (加速器)
 J-PARCで使用しているイオン源は、六ホウカランタンフィラメントからの熱電子をアーク放電源とて水素プラズマを生成、そのプラズマをビーム源としたセシウムフリーの大強度負水素イオン源である。J-PARC加速器では共用運転が始まった現在、要求されているビームスペックを遂行しなければならない。今特にイオン源に求められている要求は、ビーム強度増強である。それに向けて我々は、フィラメントの形状や取り付け位置、磁場の強度や分布、プラズマ電極の材質や形状等試行錯誤し日夜テストに励んでいる。
 
(2) 遅い取り出し静電セプタム
新垣 良次 (加速器)
 MRからハドロンホールにビームを取り出す装置として静電セプタムとセプタム電磁石が利用される。最前段に位置する静電セプタムはヨークに張られたリボンとそれと対向する電極との間に高電圧をかけビームを蹴り出す。ビームロスを減らす為にビームから見た実効厚を測定し評価することは重要である。今回レーザー変位計を用いてセプタムの実行厚を測定した。 高電圧エージングを行い、30GeVデザイン値の104kVにおいて、ビーム取り出し時も安定した運転を実現した。
 
(3) 遅い取り出しバンプ電磁石の設計、製作
柳岡 栄一 (加速器)
 3つある主リングの直線部の一つで遅い取り出しが行われる。バンプ電磁石は、その直線部の両端に2台ずつ、計4台設置され、リング全周に設置された8台の六極電磁石による3次共鳴とともにバンプ軌道を作っている。本発表はこの取り出し軌道をつくるバンプ電磁石の設計と1,2月に遅い取り出しを行った中間結果を報告する。
 
(4) F3RP61を利用した組込みEPICS技術の開発と応用
小田切 淳一(加速器)
 EPICSベースのJ-PARC制御システムではフロントエンド計算機(IOC)の下で多数のPLCが使用されるが、IOCとPLCはその役割において重複する部分が多い。そこでLinuxをOSとして搭載するFA-M3 PLCのCPUモジュール(F3RP61)の上で直接EPICSのコアプログラムを実行する組込みEPICS技術を開発し、ソフトウェア開発の効率化を実現した。
 
(5) J-PARC/MLFでのDAQ Middleware
千代 浩司 (素核研)
 DAQ Middlewareは測定器開発室で開発が進められているネットワークベースのデータ収集ソフトウェアでその特徴は柔軟性を持ち、再利用可能なコンポーネントでシステムが構成されていることです。J-PARC/MLFではDAQ Middlewareを用いてデータ収集を行っています。このトークではDAQ Middlewareの開発状況、性能テスト結果、およびJ-PARC/MLFでの運用状況について報告します。
 
(6) J-PARCにおける放射線管理
千田 朝子 (共通 放射線安全S)
 J-PARCでは、原子力機構およびKEKの両機関が放射線に係わる安全管理を行う目的で、放射線管理室が設置されている。放射線管理室の役割および、現状の線量率測定結果などについて発表したいと思う。
 
(7) J-PARC超高分解能粉末中性子回折装置Super HRPDのコミッショニング報告
鳥居 周輝 (物構研 中性子科学研究系)
 2008年5月、MLF物質・生命科学実験施設は、中性子ビームの生成に成功し、超高分解能粉末中性子回折装置Super HRPDを含む5台の装置がfirst-beamを受け入れた。翌6月、Super HRPDは世界最高の分解能Δd/d=0.0353%を記録し、現在は装置コミッショニングを行いながら、昨年12月より開始された共用実験にも対応している。本報告では、装置コミッショニングを中心に、Super HRPDの現状について発表する。
 
(8) T0チョッパーの開発(制御
下ヶ橋 秀典(物構研 中性子科学研究系)
 T0チョッパーとは中性子分光器におけるバックグラウンドノイズを減少させるため、中性子発生時の強烈なビームを遮断し、目的とするエネルギー範囲の中性子郡を明瞭にする装置である。中性子発生と同時刻にビーム孔を鉄材(インコネル)等で塞ぎ、発生時以外はビーム孔を開かなければならない。そのため、遮蔽体をモータで回転させビームとの同期運転制御を行う必要がある。 今回は装置概要、開発手順、制御方法等について紹介する。
 
(9) J-PARCにおける大口径電磁石の三次元磁場計算による詳細設計および最適化
藤森 寛(物構研 ミュオン科学研究系)
 J-PARCの3GeV陽子シンクロトロン(RCS)から物質生命科学研究施設(MLF)に至る約300mのビーム輸送ライン(3NBT)には、14種類108台の電磁石が設置された。これらの電磁石設計にあたり、数百に及ぶ三次元モデルの地道な解析を通して磁場の最適化を行った。 この最適化により、2008年5月30日ファーストビームが3NBTを通りMLFに到達し、J-PARCに初めての中性子を発生するに至った。
 
(10) ハドロンビームラインの建設
山野井 豊(素核研 ハドロン)
 30GeVの陽子ビームは、H21.1.27に加速器よりハドロンビームラインへ輸送されました。ハドロンビームラインはフルビームの750kWの大強度陽子ビームをハンドリングするため、耐放射線性の高い電磁石やモニター機器を開発してきました。また、遠隔から速い保守作業を実現するため重量物の設置装置、電力、冷却水、真空接続技術なども製作してきました。
本発表では、このビームライン要素類と真空接続装置としてのピローシールの開発を紹介します。
 
(11) ハドロン実験施設放射線遮蔽体構築
加藤 洋二(素核研 ハドロン)
 J-PARCハドロン実験施設では750kWの陽子ビームを取扱うため強度の放射線の発生を伴う。このための遮蔽は遮蔽性能を確保しながら保守も可能とする必要があるため一部をブロック構造とし取外し可能なものを用いる。コンクリートブロックは新規製造の他つくばからの輸送により賄い、鋼材は大半をスラブにより賄った。 設置重量1万トンを超える遮蔽体の取り扱い概要を報告します。
 
(12) ESセパレータについて
皆川 道文(素核研 ハドロン)
 一次ビームライン上の生成標的から発生する様々な二次粒子の中から目的とする荷電粒子を選別し、実験エリアに導くために必要な装置であるESセパレータについて紹介します。