J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)では世界最強強度を誇るパルスビーム中性子による中性子実験がおこなわれています。
一般に中性子は物質を透過しやすい一方で、軽元素に対する『反応断面積』が高いことが知られています。この『反応断面積』という概念は放射線と物質の「反応しやすさ」を表しています。したがって、水素やリチウムを含む燃料電池やリチウムイオン電池などの非破壊検査に加え、軽元素を含む機能性材料などの構造解析に利用されています。中性子実験を行うための実験手法や装置は技術職員によって支えられています。
本コースでは、ごく簡単な中性子実験のセットアップを用意し、データ収集から始まる中性子検出の一連の流れを経験し、中性子技術職員として求められる素養の一端を体感します。
加速器中では、陽子ビーム自身は真空に引いた金属管の中を走っているので直接見ることは出来ません。一方でビームを損失無く加速し標的に送りだすためには、ビームがどの様な状態にあるのかを知る事がとても重要です。そのため、加速器にはビームの状態を診断するための様々な測定装置(モニター)が取りつけられています。
これらのモニターはビームの大きさや位置といった情報を必要に応じて測定し、また、リアルタイムで監視しています。
本コースではJ-PARCのメインリング(MR)で使われているモニターについて紹介するとともに、そのモニターの一種である直流電流(ビーム強度)を測定するDC Current Transformer(DCCT)についてモデルを使った測定を体験します。
大強度陽子加速器施設(J-PARC)の メインリング(MR)からニュートリノ実験施設(NU)へ陽子ビームを送る運転では、送り出した時刻を揃えて正確に記録するために、リング中を周回しているビームをいっぺんに取り出す『速い取り出し』が行われます。一度に大強度のビームを取り出すためには特別な電磁石が必要となります。その電磁石がキッカー電磁石とセプタム電磁石です。
これらの電磁石を使ったビームの取り出し技術は常に開発の繰り返しです。J-PARC創設から現在に至るまで様々な問題に直面し、その度に新しい挑戦を行ってきました。
本コースでは電磁石の基礎から取り出し用電磁石の構造、ビームの取り出しに必要な技術を学び、実習では電磁石のモデルを使った磁場測定を体験します。
「午前の部」大強度陽子加速器施設(J-PARC)は、リニアック、RCS、メインリング(MR)の3台の大型粒子加速器からなり、大強度の陽子ビームを用いた多種多様な実験をしています。MRは周長約1600mの周回型加速器であり、陽子ビームは約30万回まわりながら加速されて光速の99.95%まで達し、ニュートリノ実験施設とハドロン実験施設に導かれます。
ニュートリノ振動実験のためには「速い取り出し」ですが、ハドロン実験施設へは『遅い取り出し』と呼ばれるビーム取り出し技術が用いられます。これは素粒子原子核実験においてビーム強度が増えても、時間当たりの反応検出回数を均一にするためにとても難しく重要な技術です。
本コースでは遅いビーム取り出しのため装置の演示と加速器トンネル見学を行います。
「午後の部」大強度陽子加速器は『陽子』を加速して取り出しています。これを一次陽子と呼びます。一次陽子はスイッチヤード(約200m)を通って、ハドロン実験施設の金属標的に当てます。ここで初めてK中間子などの二次粒子を作りだし実験に使用しています。
2020年夏に新たにそのままの一次陽子を使うビームラインが建設されました。私たちは30GeVという高運動量の陽子ビームを直接実験に用いるビームラインという意味をこめて『High-Pビームライン』と呼んでいます。
High-PビームラインではE16実験が行われています。この実験では、加速された陽子を直接、原子核の中に照射して高密度環境下のΦ(ファイ)中間子の質量を観測しようとしています。どんな風にすればそんな実験ができるのか、その秘密を体験します。
J-PARC の大強度陽子ビームの加速器技術は、まだまだ最強の世界を切り開いています。現在の目標はメインリング(MR)で1.3MW ビームの実現です。その一つがMRの大強度ビームをニュートリノビームラインに取り出す高速パルス電磁石群とそのビーム軌道、そしてこのような大強度陽子の空間における精密なプロファイルの測定のための診断装置がテーマとなっています。
ビーム軌道シミュレーションとビームから見た高周波領域のインピーダンスを、ネットワークアナライザを用いた測定の実習を通して、陽子ビームを加速・取り出す装置群の開発に不可欠な技術を実習したいと思います。
この開発の現場で技術者はどのような困難と闘っているのかを体験していただければと思います。