素粒子原子核研究所では、物質を構成する素粒子や原子核、それらに働く力の性質を明らかにすることで、私たちを取り巻く宇宙を支配している法則の解明など『根源的な謎』に挑む研究所です。そこでは新しい技術を導入した実験手法やそれに伴う観測装置の開発が不可欠です。実験装置を完成させるために技術職員は自身の技術やアイデアを駆使してプロジェクトを支えています。
本コースでは「クライオジェニック・グループ」「メカニカルエンジニアリング・グループ」「エレクトロニクス・グループ」についてインターンシップのために用意した体験実習では無く、現在行っている業務をできるだけライブで体験出来るような形にしたいと思っています。
KEK電子陽電子入射器は、つくばキャンパス南西部にJ文字型に設置された全長700mの長い線形加速器です。現在、この線形加速器は下流の円形加速器(SuperKEKB、PF、PF-AR)に電子ビームと陽電子ビームを50 Hzという高速で振り分けて供給しています。この加速器には、電子・陽電子のビームを加速する240台の加速管をはじめ、加速管に高周波電力を供給するクライストロン、ビームを収束・偏向する電磁石、分配されたビームなどが通るビームライン、それらに関する多種多様の電源があります。
本コースでは、これらを見学していただき、また実習で運転管理技術や制御技術を学びながら体験していただきます。
計算科学センターでは、本機構が行う様々な実験・研究のデータを解析・蓄積するための計算資源と大容量ストレージを提供している。更に機構内外のネットワーク基盤をインフラとし、データを扱う上での情報セキュリティ保全に努め、様々な情報基盤の運用を行なっている。これらの情報サービスの多くはLinux OSで構築している。
本コースでは、仮想化ソフトウェアを使用してPC上にLinux OSの仮想マシンを構築し、Webサーバーなどのインストールや簡単なプログラムを動かすことで、計算科学センターでどのように情報サービスを提供しているかを体験いただく。
電磁石と電磁石電源は、加速器を構成する主要要素の一つです。40年もの間安定した運転を続けている放射光源用蓄積リング(PFリング)と、世界最高のルミノシティーを記録した衝突型加速器(KEKB)の性能を更に超えるSuperKEKBのために、陽電子の品質を高める(エミッタンスを小さくする)ことを目的とするダンピングリング(DR)で実際に使用している、電磁石や電磁石電源について学習します。
実習では、実際の電磁石を磁場測定しながら、電磁石の基本的特性、電磁石電源の制御方法、電磁石の精密アラインメントについて学ぶことができます。
KEKで使用される実験機器や装置は日々高性能化に向け進歩しています。機械工学センターの技術職員は、基盤技術となる加工、設計、計測、 メカトロニクス、材料など機械工学分野で研究者と一緒になって、『世界最先端の実験を支える』実験機器や加速器部品など、製作技術の構築や研究開発をおこなっています。
本コースでは実験機器や加速器部品などの製作技術を体験することで、機械工学センターの活動と技術を理解することができます。
「午前の部」加速器には、超伝導を利用した装置が多く用いられています。また、現在主に使用されている超伝導材料は液体ヘリウムでの冷却が必須になります。超伝導低温工学センターでは2台の大型ヘリウム液化冷凍機を中心とする高圧ガス機器を保有し、超伝導の加速器実験用電磁石の開発と、機構内の極低温実験のための液体ヘリウム製造・供給を行っています。センターの技術職員はその日常的な管理・運用から安全管理・機能改善のための装置改修・開発など、設備に関わる殆どを担当しています。
本コースでは、当センターのヘリウム液化設備について説明し、設備管理に係る作業の一端を体験していただきます。
「午後の部」放射線科学センターは本機構が推進する加速器科学、物理実験等を行う上で基盤となる放射線安全管理など行っています。加速器から発生する放射線を24時間集中監視するために監視システムや最先端の加速器技術に見合った放射線管理技術のための研究・開発を行っています。
本コースではKEKつくばキャンパスで使用している最先端の放射線測定機器である『γ線イメージング検出器』を用いて、普段は目に見えない放射能の分布を視覚的にとらえるという測定体験を行います。
加速器には当然、粒子を加速する装置が必要です。この加速装置とは何か、どのように粒子にエネルギーを与えるのか、という基礎を知って頂きます。加速空洞とそれを駆動させるための装置である大電力高周波源について、実際に行われる仕事の一つを経験していただきます。
本コースは「粒子を加速する高電界の生成技術」「加速エネルギーを発生・伝送する技術」のテーマで、SuperKEKB加速器の装置(周波数509 MHz=UHF帯電磁波)を題材にして、実際の装置の見学・シミュレーション体験・測定体験をして頂き、これらを通して加速器開発において実際に行う仕事の一つを経験していただきます。
真空技術の分野では「大気圧よりも圧力の低い状態」は「真空」と定義します。例えば、どの家庭にもある真空掃除機。この場合の「真空」はエベレスト頂上と同じ圧力(約30kPa)で十分です。しかしSuperKEKB加速器では地球の赤道上空の高度約35,786km上の静止衛星が飛んでいる場所と同じ圧力約10-8 Pa(0.00000001Pa)になっています。
私たちが居る地上で、どうやってそんな圧力を実現しているのでしょうか? 本コースでは真空科学の基礎と加速器における真空システムや装置を解説します。その後、実際に機器を組み立てて宇宙空間の圧力作りにチャレンジしていただきます。
電子や陽子の加速器では、高エネルギーのビームが通過する金属パイプの中を10-8 Pa程度の超高真空に保っています。 実に大気圧の10兆分の1の圧力です。この超高真空を維持しておかなければ、せっかく打ち込んだビームが気体分子に散乱されて短時間で失われてしまうからです。 すなわち、加速器を長時間安定に運転するには、良好な超高真空を実現し、常に正確な状況を把握しておくことが大切です。
加速器ではこの極めて低い圧力を精度よく測定するために電離真空計を用いています。本コースでは、その真空計の動作原理や特徴を学び、実習として実際にフォトンファクトリーで採用している熱陰極電離真空計の校正方法を習得します。
KEKにおいて加速器や加速器からのビームを使用するためのビームラインでは、コンピュータによる制御・計測が不可欠といえます。
加速器やビームラインの制御を行う際、KEKでは規模や状況に合わせて制御用ソフトウエアの使い分けが行われていますが、今回は放射光実験施設[1]のビームラインで使用されているSTARS[2]と呼ばれるソフトウエアにフォーカスします。そして、実際にSTARSを使用してモーターの駆動やデータ取得を体験、更に、機能追加のためのソフトウエア作成を通じて、制御・計測システム構築業務の一部を体験していただきます。
[1] https://www2.kek.jp/imss/pf/
[2] https://stars.kek.jp