大強度陽子加速器施設(J-PARC)のメインリング(周長1568mのシンクロトロン加速器)で30GeVまで加速された陽子ビームを実験で利用するには、加速器からビームを取り出す必要があります。特にニュートリノ実験では、その反応の少なさから最高のビーム出力を期待されています。これに応えるため、ビーム取出しの機器を2021年度にアップグレードしています。最高強度ビーム取出しの現状を紹介すると共に、技術職員として貢献した作業の一つであるビーム軌道計算を体験していただきます。
J-PARCは、リニアック、RCS、メインリング(MR)の3台の大型粒子加速器からなり、大強度の陽子ビームを用いた多種多様な実験をしています。MRは周長約1600mの周回型加速器であり、陽子ビームは約30万回まわりながら加速されて光速の99.95%まで達し、ニュートリノ実験施設とハドロン実験施設に導かれます。
ニュートリノ振動実験のためには「速い取り出し」ですが、ハドロン実験施設へは『遅い取り出し』と呼ばれるビーム取り出し技術が用いられます。これは素粒子原子核実験においてビーム強度が増えても、時間当たりの反応検出回数を均一にするためにとても難しく重要な技術です。
MRを周回する陽子ビームをハドロン実験施設へ安定的に取り出すためにさまざまな工夫がされています。今回は周回ビームをゆっくりと取り出すために使用される機器のうち主に静電セプタムの紹介とレーザー変位計を用いた測定を実際に体験していただきます。
J-PARCは"大強度陽子加速器"、「陽子」を加速して取り出しています。これを一次陽子と呼びます。加速された一次陽子はスイッチヤード(約200m)を通って、ハドロン実験室の金属標的に当て、K中間子などの二次粒子を作り実験に使用しています。
お馴染みのパイ中間子はアップクォークとダウンクォークからなりますが、K中間子はストレンジクォーク(Sか反S)を持つ特異な中間子になります。そのK中間子を選別するためには静電セパレータと呼ばれる装置をもちいます。どのように欲しい粒子を選ぶのか紹介します。
そして、毎秒およそ106 個超のK中間子ビームが生成され、電磁石群をもちいて分光器としてのスペクトロメータが形つくられています。そこではどのように未知の粒子の質量を知ることができるか、その秘密を体験します。
茨城県東海村のJ-PARCの一部である物質・生命科学実験施設では、3GeVまで加速して、光の速度の97%にまで加速されたシンクロトロン(RCS : Rapid-Cycling Synchrotron)の陽子をグラファイト製の標的に衝突させて核反応を起こしミュオンを生成し、様々な実験に利用されています。このミュオン生成標的は、高温・高線量・真空という過酷な環境に長時間耐えながら世界最高強度のパルスミュオンを生成させる必要があり、回転機構や伝熱構造などに多くの工夫が施されています。
本コースでは、主に標的試験機を用いてミュオン生成標的の機構やモニタリングシステムの開発・保守を体験し、素粒子生成について理解を深めることを目的とします。