加速器には、粒子を加速するための装置が不可欠です。 SuperKEKB加速器では、大電力の電磁場(周波数509 MHz=UHF帯)を加速空洞と呼ばれる装置に投入することで高電界を生み出し、粒子加速に応用しています。
このコースでは、午前・午後で異なるテーマの実習に挑戦し、SuperKEKB加速器の粒子加速装置について包括的に体験していただきます。午前は「粒子を加速する高電界の生成技術」というテーマで、実際の加速空洞を見学し、シミュレーションやネットワークアナライザを使ったARES空洞の特性測定などを体験します。
午後は「加速エネルギーを発生・伝送する技術」と題し、加速空洞へ供給する大電力高周波の発生および伝送に関する装置について、実際に行う仕事のひとつを体験します。
加速器は非常に多くの機器によって構成されています。例えば、周長3 kmのSuperKEKB加速器は約1万台の機器によって構成されています。私たちは日常生活で照明やテレビ、エアコンなど多くの機器をスイッチやリモコンで操作しています。しかし、多数の機器で構成される加速器をスイッチやリモコンだけで操作することは難しいでしょう。そのため、多くの機器へ瞬時に指令を伝え、測定データを受け取るための制御システムが必要になります。KEKではこのような制御システムを「多数のコンピュータ」と「EPICSと呼ばれるソフトウェア」を用いて構築しています。
本コースでは、SuperKEKB加速器を例にして、加速器の制御システムについて説明します。また、実習を通してEPICSを使った制御システムを体験してもらいます。
電磁石と電磁石電源は、加速器を構成する主要要素の一つです。荷電粒子を輸送・蓄積したり、ビームの品質を高めたりする役割を担っています。放射光源用蓄積リング(PFリング)は、40年もの間、安定して光(放射光)を供給し続けている加速器です。また、陽電子ダンピングリング(DR)は、衝突型加速器として世界最高の性能を記録したKEKBの性能を更に超えるSuperKEKBのために、陽電子の品質を高める(エミッタンスを小さくする)ことを目的とした加速器です。
本コースでは、最初に電磁石や電磁石電源について説明し、その後大小様々な電磁石電源が並ぶDR電源棟を見学します。また、実習では実際の加速器で使用している電磁石を用いて、電磁石の磁場を実際に測定しながら、電磁石の基本的な特性や電磁石電源の制御方法、電磁石を正確な位置に据え付けるための精密アラインメント技術について、幅広く体験することができます。
電子や陽子などの加速器では長時間安定に運転するために、高エネルギーのビームが通過する金属パイプの中を10-8 Pa程度の超高真空に保つ事が大切です。この超高真空を維持しておかなければ、せっかく打ち込んだ電子ビームが気体分子に散乱され、短時間で失われてしまうからです。放射光光源加速器(PFリング)の真空グループでは、測定機器を含めてこの超高真空を保つため日々真空機器装置の研究開発および技術開発に取り組んでいます。
本コースでは、真空機器の組立て、真空計の選定方法、真空ポンプの選定方法など、加速器における真空技術の基礎として解説します。その後、PFリングで実際に使用している測定機器を使った技術開発の手法について体験していただきます。また、当日はPFリング制御室で加速器運転中の真空機器装置運転状況の確認(見学)もしていただきます。
みなさま「振動」ってどのくらいご存じでしょうか?振動といっても機械振動の事です。手に持ったお茶を運ぶときにコップのお茶がこぼれてしまいませんか?それは手と足の動きが「共振」してたからです。洗濯機が止まるときに大きな振動音を聞いたことがありますか?これも共振によって起こるのです。
また、私たちの住む地球では地球自身が常に振動しています。これを「常時微動」と呼びます。KEKではビーム衝突実験により宇宙・物質・生命の謎を解いています。しかし、装置が揺れていては50ナノメートルのビームは衝突しません。そのため、何が揺れていて、どんな特徴があるかという分析をおこなっています。本コースでは実際に加振テーブル上での共振体験や常時微動の測定をおこない、共振の元である固有振動数について体験すると共に、高精度加速度センサーを用いて地球にはどんな振動が隠れているかということを理論値と比較しながら肌で体験して頂きます。
物質の構成要素である原子核および素粒子をターゲットとする素粒子原子核実験はどのように行われているかご存じでしょうか。実験で発生した物理事象をとらえて、何が起こったのか理解するためにコンピュータによる解析を行うのです。事象をとらえるためには、目となるセンサーで「電気信号を検出」します。そして「検出した信号をコンピュータに送るためにアナログ・デジタル変換」を行い、「コンピュータで解析」を行うという大まかに3つのプロセスが必要となります。これらのプロセスでは各々センサー、エレクトロニクス、データ収集の専用技術が用いられます。これらを総称して私たちは「エレクトロニクスシステム」と呼んでいます。
本コースでは宇宙線検出のデモ実験や信号処理・データ収集について体験します。
加速器が成果を上げる陰では様々なインフラが必要となります。超伝導低温工学センターではそのような加速器インフラにおける低温技術を担当しています。主たる業務としては各種施設で用いられる低温寒剤(LN2やLHe)の供給と、その回収-再液化サイクルの管理が挙がります。この中には液化ガスプラントの運転も含まれ、専門の技術職員によってその円滑な運用が日々行われております。
また、研究活動として超伝導電磁石の開発や物性実験が行われますが、それらの計測制御システムの製作なども技術職員の業務に当たります。
いずれも地味な部分の更に縁の下であることは間違いありません。ですが、血液なくして人が動かないように、これらがなければKEKもないものと自負しております。我々超伝導低温工学センター技術部門では、そのような下支えとして辣腕を振るっていただける方を募集しております。
その第一歩として、興味をお持ちいただいた方に各種業務を網羅的にご体験いただけるコースを用意しました。
KEKで使用される実験機器や装置は日々高性能化に向け進歩しています。
機械工学センターでは機構で必要とされる様々な実験機器をものづくりでサポートするために基盤技術となる加工・設計・計測・メカトロニクス、材料などの機械工学分野で技術職員は研究者と一緒に進めています。 世界最先端の実験を支える実験機器ならびに加速器部品などの製作技術の構築や研究開発をおこなっています。
本コースでは実験機器や加速器部品などの製作技術を体験できます。製作現場の見学ならびに機密溶接の基本およびリークチェックなど真空溶接技術の体験を通して、機械工学センターの活動を理解することができます。
物質構造科学研究所には加速器で生み出される「放射光」を用いて物質・生命科学研究を行う為の放射光実験施設があります。材料科学、生命科学、地球惑星科学など様々な分野での実験が実施されています。放射光利用実験では「ビームライン」を用いて、放射光を観測したい物質(試料)まで導き、照射することで実験データを得ます。放射光を正確に試料に照射するためにはマイクロメートルオーダーの位置決め精度が要求されます。また、ビームラインの下流部には温度や圧力など試料環境をコントロールするための装置や、放射光を計測するための検出器、自動計測システムなどが設置され、様々な技術を駆使して物質研究の発展に寄与しています。これらの機器は高度な知識と技術を持った職員が設計から設置、運用までを行っています。
本コースでは、実際のビームラインに触れながら、光学素子のメンテナンスや実験装置の制御などを体験していただき、仕組みについて学ぶことができます。
地球上にあるα・β・γ・中性子線だけが放射線ではありません。高速に加速された陽子や電子、そこから発生する中性子線や制動放射線まで含めると加速器と「放射線」とは極めて深い関係にあります。放射線科学センターは本機構が推進する加速器科学、物理実験等を行う上で基盤となる放射線安全管理と、そのための研究開発を行っています。
本コースでは放射線管理の入門技術として、代表的な放射線検出器であるNaI(Tl)検出器の組み立てと、これを用いた放射線計測の体験をします。
また、人の目では見えない放射線の挙動を、これを可視化できるツールである可搬型γ線イメージング装置やシミュレーション技術を通して体感していただきます。
これらの体験を通して、KEKにおける放射線管理の仕事の具体的なイメージを提供します。
KEK には放射光施設と物理実験施設 (SuperKEKB) があります。電子陽電子入射器棟では、2つの放射光リング(PF、PF-AR)、SuperKEKBの電子・陽電子リングの合わせて、 4つのリングにビームを供給している。KEK電子陽電子入射器は、つくばキャンパス南西部にJ文字型に設置された全長700mの長い線形加速器です。現在、この線形加速器は、下流の円形加速器に電子ビームと陽電子ビームを1秒間に50回(50 Hz)という高速で振り分けて供給しています。この加速器には、電子・陽電子のビームを加速する240台の加速管をはじめ、加速管に高周波電力を供給するクライストロン、ビームを収束・偏向する電磁石、分配されたビームなどが通るビームライン、それらに関する多種多様の電源があります。
本コースでは、これらの一部を見学していただき、また実習で運転管理技術や制御技術を学びながら体験していただきます。