- 水素は陽子1個と電子1個からできている。
- 重さは、1.008 g / (6.02 x 1023) = 1.67 x 10-24 g
- 水素の原子核(陽子)の直径は、10-15 m~ 10-14 m
- 電子を含む水素原子(H0)の半径は、約0.1 x 10-9 m= 0.1 nm(ナノメートル) ただし、ボーア(Bohr)の水素原子モデルでは、半径は0.053 x 10-9 m= 0.053 nm 。電子の広がりを持つので、水素原子の直径の決め方にはいろいろある。
- 電子を2個もつ水素化物イオン(H-)の半径は、約0.2 x 10-9 m。2個の電子同士の反発のため、半径が大きくなる。
- H0とH-の電子の広がり(原子核を原点とした分布)を見ると、1個目の電子の広がりはほとんど同じだが、2個目の電子の分布が大きく広がっていることがわかる。
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スィソペディアは、一家に1枚 水素 ポスターの深読みサイトです。
水素に関する情報を追加していきます。
水素のキホン
水素の原子の構造
水素の同位体
- 原子核を構成する陽子の数が同じだが、中性子の数が異なる各種を同位体と呼ぶ。
- 水素の場合には、中性子が0個の軽水素(プロチウム)、中性子が1個の重水素(デュウテリウム)、中性子が2個の三重水素(トリチウム)の3つの同位体が存在する。(いずれも、陽子は1個、電子は1個)。
- 水素の同位体としてみなされるものとして、電子と陽電子からなるポジトロニウム、電子とミュオンからなるミュオニウムがある。軽水素に対する質量は、ポジトロニウムが920分の1、ミュオニウムが9分の1である。
「新・元素と周期律」井口洋夫、井口眞 裳華房
水素イオン(H+)
- pHは、水溶液の水素イオンの濃度を表す指標。水溶液中の水素イオンの濃度は非常に小さな値であり、酸や塩基を加えた時の濃度の変化も大きいので、「水素イオンのモル濃度の逆数の常用対数」で表す方法が、1908年、デンマークの生化学者、セーレンセンによって提唱された。
- 現在、pHは、水素イオンのモル濃度ではなく、水素イオンの「活量」で定義されている。しかし、希薄溶液では活量と濃度は近い値を示すので、「水素イオン濃度」としても実質上問題ない。他にいろいろな物質が溶けている場合、水素イオンの活動が邪魔されるので、活量は濃度より小さい値になる。
- 水H2Oはほんのわずか解離して、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-を生じている。水素イオン濃度 [H+]と水酸化物イオン濃度 [OH-]は等しく、25℃では1.0 × 10-7 mol/L。上の定義より、このときのpHは7となる。
- [H+]と[OH-]の積を「水のイオン積」と呼び、温度一定であれば一定の値を示す。25℃では水のイオン積は 1 × 10-14 である。この値は、水に酸や塩基を加えても一定である。つまり、酸を加えてH+の量が10倍になれば、OH-の量は1/10になる。
- 水素イオン濃度 [H+]と水酸化物イオン濃度 [OH-]の濃度が等しい溶液を「中性」と呼ぶ。[H+]が大きければ酸性、[OH-]が大きければアルカリ性。25℃では中性はpH=7であり、このときの水素イオン濃度は1 × 10-7 [mol/L](0.0000001 mol/L)。酸性の溶液は水素イオン濃度が大きく、pH=3では [H+] = 1 × 10-3 [mol/L] (0.001 mol/L)。
- 水の解離は吸熱反応なので、温度を上げると解離が進む方向に平衡が移動する。したがって、温度が上がると水のイオン積は大きくなり、pHの値は小さくなる。50℃では、中性のpHは約6.5。反対に温度が下がるとpHは大きくなり、0℃では中性は約7.5。50℃と0℃ではpHが1違うので、水素イオンの濃度は50℃では0℃の10倍多いことになるが、どちらも「中性」(=[H+]と[OH-]が等しい)である。
水素原子から電子を1個取ったらどうなるか…。もともと陽子1個、電子1個(軽水素の場合)の水素は、電子1個が奪われることによって陽子1個となってしまいます。これってイオンと言っていいのでしょうか?それとも粒子?
このH+、イオンとして「水素イオン」と呼んだり、粒子として「プロトン」「陽子」と呼んだり、場面によっていろいろです。例えば、ポスターの「水素と生命」の部分にある「プロトンポンプ」。プロトンポンプはイオン勾配を作るためのしくみなので、ここで運ばれているH+は「水素イオン」と呼ぶのが正しいと思うのですが、なぜかプロトンポンプと呼ばれています。まぁ、水素イオンポンプ、という名前より語呂が良いのは確かですが…。
H+は、水溶液中ではH3O+(オキソニウムイオン)の形で存在し、H+そのもの、つまり陽子単独では存在しません。陽子1個の大きさは直径10-15〜10-14 m(水素のキホン参照)。水素原子の1万分の1ぐらいの大きさです。こんな小さなモノがプラスの電荷を持っているので、水分子の酸素の部分を強く引き寄せるのです。こうしてみると、水溶液中では、間違いなく粒子ではなくイオンとしてふるまっていると言えるでしょう。
ところが、H+、他のイオンとはやっぱり少し違っているところがあります。イオンは電荷を持っているので、電子と同じように、電気を流すことができますが、水素イオン=オキソニウムイオンは他のイオンに比べて電気伝導度が異常に高いのです。これは、オキソニウムイオンがそのまま移動するのではなく、ユルユル水素結合でつながっている水(【コラム】ユルいけど強い、DNA の水素結合参照)を介して、プロトンがリレーしていくように移動するからだと言われています。こうしてみると、ちょっと粒子っぽいところもありますね。
完全に粒子としてふるまうH+の例のひとつは、陽子加速器です。ポスターではがん治療を例としてあげましたが、日本には現在陽子加速器を用いたがん治療施設が10ヶ所あります。加速された(=高いエネルギーを持つ)陽子線は、身体の中のある深さのところでそのエネルギーを一気に放出する性質があります。これをうまく利用して、ピンポイントでがん細胞を破壊することができるので、他の臓器への影響が少なく、身体への負担が少ない治療法として注目されています。また、茨城県東海村にはJ-PARCと呼ばれる大強度陽子加速器があります。陽子加速器で加速される陽子は、真空中で、水素ガスから電子をはぎとることによって作っています。
J-PARCでは、陽子を原子核にぶつけて発生した中性子、ミュオン、ニュートリノなどの粒子を使って、物質のミクロな姿を捉える研究をしています。特に中性子ビームは、小さくて捉えるのが難しい水素を見る最先端の手法として注目されています。J-PARCからは、今までに知られていなかった水素の新しい姿が次々と発表されています。
pHは、日本語では「水素イオン濃度」または「水素イオン指数」と言いますが、そのまま「ピーエイチ」と呼ぶのが定着しているので、水素と関係した値だということを普段は思い出さないかもしれません。ミネラルウォーターのボトルにも書いてあるこのpH、学校で習ったと思いますが、覚えていますか?
pHは「水素イオンのモル濃度(正確には活量)の逆数の常用対数」として定義されています。対数は苦手…と思っている人、いませんか?実は対数って、何桁も違う数字を表すにはとても便利なんです。対数のものさしは、一目盛りが10倍、10倍…(逆方向は1/10、1/10…)になっています(下の表参照)。つまりpHが1小さくなる=水素イオンの濃度が1桁小さくなる(1/10になる)、ということなのです。
さて、上の説明で、水H2Oはほんのわずか解離して、H+とOH-を生じている、とありますね。ほんのわずかってどのぐらいでしょうか?純水(25℃)のpH=7というのは、水素イオン濃度が1 × 10-7 [mol/L](0.0000001 mol/L)であるということです。なんだかすごく小さな濃度ですね。
原子でも分子でも、1モルに含まれる個数はアボガドロ数 6 ×1023 個です。したがって、1 ×10-7 mol/L は、水素イオン 6 × 1016 個が水1Lに溶けている状態ですね。それでは1Lの水には水分子が何個あるでしょうか? 重量約1kg、水の分子量を18とすると約 3 ×1025 個の水分子となります。水が解離して水素イオンになっている割合は、
つまり、水分子が10億個あったときに、その中で解離して水素イオンになっているのはたった2個です。日本の人口が1.2億ぐらいなので、日本人を水分子とすると、日本人を全員探してもH+とOH-に解離している人が1人見つかるかどうか…ぐらいの数ですね。本当に「ほんのわずか」なんだ…ということがわかると思います。水素分子(H2)
- 常温常圧では無色・無味・無臭の気体。
- 分子式H2、分子量は2.0158。
- 最も軽い気体で、比重は0.0695(空気を1とする)。したがって、拡散速度が速い。
- 拡散速度が速いため、地表近くにはほとんど存在しない。
- 常圧では融点 -259.1℃、沸点 -252.9℃。液化するにはマイナス250℃以下にする必要がある。
オルトとパラ
水素分子は、水素原子2つからなり、水素原子核(陽子)のスピンが互いに逆向きなものをパラ、平行なものをオルトという。
常温の水素ガスの状態では、オルト75%、パラ25%の割合で混合している。パラの基底状態のほうが、オルトの基底状態よりもエネルギー的に安定であるため、水素ガスを低温で液化すると、オルトがパラにゆっくり変換し、オルト0.2%、パラ99.8%になる。オルトがパラに変換する際に発生する熱により、液化した水素が蒸発してしまうため、液化水素として長期貯蔵するためには、あらかじめ触媒や磁性体を使って、パラが95%以上になるようにする必要がある。そのため、ロケット燃料などで使われる液体水素は、製造過程で触媒を用いてオルト・パラ転換をしている。
- 原子核のスピン=原子核の回転
- オルトは、原子核のスピンが同じ方向を向いている水素分子。つまり、原子核の回転方向が同じ。
- パラは、原子核のスピンが逆方向を向いている水素分子。つまり、原子核の回転方向が逆。
- 水素分子のオルトとパラは、1927年に予想され、1929年にボンホーファー(Bonhoffer)とハーテック(Hartec)により実証された。
水素って燃えやすい?爆発する?水素が「危険」であるというイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
「燃える」とはどういうことでしょうか。科学的に言うと、燃焼とは光や熱を出しながら激しく酸素を反応する酸化反応のことを言います。気体が燃えるとき、ゆらゆらとゆらめく炎を出しながら燃える光景は、誰もが見たことがあるでしょう。また、さらに急激に酸化反応が起こり、圧力の上昇が起これば「爆発」となります。
水素は空気に4%混ざるだけで燃えるようになるので、燃えやすい気体であるというのは間違いではありません。しかし、燃えるためには酸素が必要なので、あまり濃度が高くなると(75%以上)、逆に酸素が足りなくなって燃えなくなります。したがって、タンクの中の純粋な水素ガスが燃えることはありません。
また、水素は小さい分子なので、タンクから漏れやすい気体ではあります。しかし、その軽さゆえに空気中ではすぐに拡散するので、濃度がすぐに薄まり、一時的に燃えたとしても長くは燃え続けられません。実際に自動車事故を想定した実験では、縦に長い炎で燃えて、すぐ消えることが確認されています。それに比べてガソリン自動車の事故では、炎は横に燃え広がり、なかなか消えません。
年配の方は、1937年に起こった飛行船ヒンデンブルク号の爆発事故のイメージで、水素は爆発しやすい、危険なイメージがあるかもしれません。事故当時は、水素ガスの引火による爆発と言われてきましたが、その後の調査により、飛行船の外皮の塗料が燃えたという説が有力になっています。最近では、東日本大震災に伴って起こった福島第一原子力発電所の事故での水素爆発がありますが、これは、原子炉建屋という外から遮断された空間の中に水素が溜まったことによって起こったもので、屋外やそれに近い空間では水素は溜まることはありません。
自動車メーカーは、水素自動車が事故を起こした場合を想定して、さまざまな安全対策を施しています。例えば、火災が起きて水素タンクの温度が上がった場合、爆発しないように弁が開いて水素を放出します。このとき、空気と混ざるので炎が出ますが、すぐに燃え尽きるので、爆発に比べると危険度が小さくなります。水素社会では、水素の性質をよく知って、安全に扱う工夫をすることも重要な課題になります。
水素と生命
ポスターでは、その「ほどよいユルさが生命をつないでいる」と表現した水素結合。DNAの複製や転写といった過程では、二重らせんがほどけたり、また相手とくっついたりを繰り返します。確かに水素結合は、分子を作る共有結合に比べて1/10程度の強さの比較的弱い(=ユルい)結合ですが、ユルいながらも特異性の強い結合でもあるんです。
水素結合の特徴は「方向性があること」。一般的に、有機分子中の酸素や窒素は「ちょっとだけマイナス」の性質を持っています。そしてちょっとだけマイナスの酸素や窒素と結合している水素は「ちょっとだけプラス」になっています。分子では、いろいろな原子が電子を共有しているのですが(まさに共有結合ですね)、原子によって電子を引きつける力=電気陰性度が違うので、電荷の偏り(極性)ができてしまうのです。つまり、水素原子の中で一番プラスが強いのは、酸素や窒素と逆方向の部分です。
DNAの塩基対を見てみましょう。A-Tでは2本の、G-Cでは3本の水素結合が同じ向きに一直線になっています。これは、一番強い結合ができる方向です。正しい相手とペアを組んだ時に、複数の水素結合によって強く結合するため、DNAは複製や転写といった過程で正しい相手を選ぶことができるのです。また、生理的な条件では簡単にほどけたりしません。
ちなみに温度を上げて分子のエネルギーを増して行くと、DNAの水素結合は切れて二重らせんがほどけます。これをDNAの変性と言います。変性、というと、もう性質が変わってしまって元に戻らないようなイメージがありますが、温度を下げていくと、ペア同士が再び結合します。これを繰り返して、DNAを人工的に複製する方法がPCR(Polymerase Chain Reaction)法で、わずかなDNAを増幅させることができます。この方法の鍵となったのが、好熱菌のDNAポリメラーゼ。温度を上げても失活しないDNA合成酵素がPCR法を可能にしています。
PCR法は、絶滅した動物からのDNAを取り出して進化を研究したり、犯罪捜査や親子鑑定などに使われるDNA鑑定、医療診断等にも幅広く使われています。PCR法を可能にしたのも、DNAの水素結合がユルいけど強い、つまり、好熱菌のDNAポリメラーゼが働く範囲の温度でくっついたり、ほどけたりする「ほどよいユルさ」のおかげとも言えますね。
さて、生命の2/3を占めている水分子。水分子内でも電荷の偏りがあります(極性分子と言います)。どこがプラスでどこがマイナスかは、もうお分かりですよね。そのため、水分子はお互いに水素結合を作っています。このため水は、同じぐらいの分子量のメタンやアンモニアなどに比べて、融点も沸点も異常に高いのです。水が常温で液体なのはあたりまえのように感じるかもしれませんが、これも水素のおかげだったのですね。ただし、液体の水の水素結合は、方向がバラバラなので、DNAの水素結合ほどは強くはなく、ホントにユルユルの結合です。
水素を見る
物質中の水素
原子、分子レベルで物質の構造を調べるには、中性子や放射光(X線)といった、加速器から作られる量子ビームが有効。
例えば右図のように、有機化合物(クロコン酸)を放射光で検出して、マキシマムエントロピー法(MEM)で描いた場合、全部で陽子142個と電子142個から構成される。
この中にある水素は、陽子1個、電子1個しか持たないため、見つけるのは難しい。
水素を使った医療診断(MRI)
MRI(Magnetic Resonance Imaging)は、核磁気共鳴の状態、しいては体内の水素原子核の空間分布の状態を画像化して示す手法である。
水素は、水(H2O)に必ずふくまれており、体の中の水素の核磁気共鳴状態を調べることにより、そのプロトン原子の周りの状態(組織)の情報を得て、診断が可能になるものである。
骨や歯の主成分はリン酸カルシウムの一種のヒドロキシアパタイト (Ca5(PO4)3(OH))。水素がほとんど入っていないので、MRI画像には骨や歯はほとんど写らない(頭部MRIで頭の周りに白く写っているのは、頭蓋骨ではなくて皮下組織である)。
これに対して、レントゲンやX線CTなどのX線を利用した画像では、原子番号の比較的大きなCaやPがX線をよく吸収するので、骨や歯がはっきりと写る。
水素脆性
- 水素は材料への侵入・透過により材料の劣化(水素脆性)を起こす。
- 金属材料のみならず、がスボンベのシール材でも水素脆性が起きることが知られている。
- 水素脆性は、ppm程度のわずかな量の水素で起きるため、防ぐことが難しい。
- 金属材料の水素脆性機構は水素ガス圧説、格子脆化説、吸着説、水素化物説、水素助長局所塑性説、マルテンサイト変態促進説等々があり、統一的な水素脆性機構はないと考えられている。
- 水素脆性による材料の水素エネルギー社会の実現にに向けた課題の一つ。
水素をエネルギーに
ロケット
人工衛星などの打ち上げに利用されているH-ⅡAロケットは液体水素(H2)を燃料に、液体酸素と混合、燃焼させて推進力を得ている。打ち上げ時に立ち上る大量の白い煙は、この燃焼により生じた水滴(H2O)。 このロケットの頭文字のHは水素を意味するHydrogenに由来する。