2012年8月3日
1. Uライン
昨年度末に完成した同ビームライン基幹設備の一つである「超伝導湾曲ソレノイド電磁石」(東芝)が7月初めにMLF実験棟第2実験ホールに搬入され、関係者による見学会(図1)が催された後にUライン上への挿入・設置が無事完了した。既設の先頭部分とピローシールで接続され、真空試験、GM冷凍機による現場での冷却試験等が順調に進んでいる。
一方、軸収束超伝導ソレノイド磁石についても、同じく東芝にて完成し、既にMLF実験棟に搬入ずみである。現在静電粒子分離器の部分について第2実験ホールでのコミッショニングが続いているが、他の部分も含め、8月中にUライン上への設置が完了する予定である。
また、超低速ビーム発生装置(高温タングステン標的および真空容器)、および超低速ビーム輸送系については、既に請負業者(日立造船、入江工研)が実施設計を終えており、今年10月末の完成・納入を目指して製作が始まっている。
2. S/Hライン
7月下旬に入り、M2トンネル内機器であるSラインの四重極トリプレット電磁石(SQ456)、およびHラインの先頭大口径ソレノイド電磁石(HS1)と偏向電磁石(HB1)の設置作業が始まった(図2)。最初に行われたSQ456の設置作業はほぼ順調に推移し、予定通り完了した。現在、HB1、HS1と設置作業が進行しており、トンネル内作業の山場を迎えている。
3. Dライン
μSR分光器(DΩ1)は、2008年末の投入以来、陽電子検出系の立体角が前後合わせて8%と小さいことに加え、カウンターの有効計数率が小さい(プラスチックシンチレーターと光電子増倍管を結ぶ光ファイバーでの信号減衰等によると思われる)という問題を抱えたままの運用が続いている。現在、これを改善・強化するためにこの数年来行われてきた陽電子検出システムの開発が最終段階に来ており、従来の光電子増倍管に代えてAPDをベースにした一ユニット32チャンネルのコンパクトなモジュール型陽電子検出器(図3)をDΩ1に実装する準備が進められている。
・2012A期ミュオン共同実験課題実施状況
2012A期ビームタイムは4月1日から11月上旬までとなっており、この間7月初めから10月半ばまでが夏期停止期間となっている。ミュオンではこの停止期間中にUラインの建設、Sライン、HラインのM2トンネル内機器設置など、大量の作業が計画されており、ビーム停止後のクーリングタイムを稼ぐためにMUSEの運転を中性子よりも10日間あまり先行して6月20日朝に停止した。(この時間は装置グループ利用の時間としてあらかじめMLF課題審査部会で認められたものである。) この前半約3ヶ月間中、4月初頭の加速器故障による停止を除いてMUSEの運転は120 kWで順調に行われ、12件の一般課題、および1件のプロジェクト型課題が実施された。
・2012B期ミュオン共同実験課題公募
2012B期の一般課題が5月17日〜6月7日の期間で公募され、ミュオンD1/D2装置については当初27件の応募があった。このうち二件については、課題責任者の所属が大学共同利用の対象とならない民間企業であったことから不受理となっているが、残り25件(うちP型課題希望が1件)のビームタイム要求総数は138.5日と、2012B期に一般課題として配分予定である56日(88日から装置グループ利用、プロジェクト利用、および緊急課題枠を差し引いた日数)の2倍以上と、ビームタイムの不足が2012Aに比べてさらに深刻になっている。これらの一般課題については、現在レフェリーによる評点が終了し、8月8日に開催されるMLFミュオン課題審査部会(同分科会)で審査され、優先順位に従ってビームタイム配分が決まる予定である。なお、2012B期のビームタイムについては、ニュートリノ実験グループからの強い要請もあり、当初の88日から若干(〜10日程度)の増が見込まれていることを付記しておく。