ミュオン科学研究系活動報告2013(2~3月)

2013年04月03日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:MLF第2実験室のレーザーハット内に搬入された大強度ライマンα光レーザー発生装置。 [拡大図(168KB)


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図2:Uライン下流の実験エリアの様子。右側の遮蔽体は高温タングステン標的を囲うもので、コの字に見えているのがそこから超低速ミュオンを引き出す静電光学系。その右に見えるのが、分光器等を載せる高圧ケージの架台床面部。 [拡大図(784KB)


 Uライン下流では、ミュオン生成標的からUラインを経由して引き出された大強度の低速ミュオン(〜4 MeV)を、超高真空中で高温(〜2000 K)に熱したタングステン箔に照射し、タングステン表面から真空中に放出された熱エネルギーのミュオニウム (Mu:μ+-)をパルス状レーザー(1s-2p-非束縛状態に相当するエネルギー)で共鳴イオン化することで、高輝度の超低速μ+を得る。この過程で鍵を握る大強度レーザーについては、当初の予定から準備が大幅に遅れていたが、3月半ばになってようやく理研でのテストが終わり、システム全体が物質生命科学実験棟内に搬入されるとともに、発振に向けて調整が始まった(図1)。同レーザーシステムは新学術領域「超低速ミュオン顕微鏡」A04班(班長:岩崎雅彦)が担当しており、今後は同班の博士研究員2名が東海に常駐して最終調整に当たる予定である。
 一方、共鳴イオン化されて生成される超低速ミュオンを30 keVに加速し、実験エリアまで輸送する「超低速ミュオンビーム輸送系」、および同ビームを用いてミュオン・スピン回転実験を行う分光器についても装置の製作・納入がほぼ完了し、4月末にかけて設置作業が進行している(図2)。

 

 

2. Sライン

 H24年度補正予算により、Sラインの第1分岐までの予算が措置された。これを受けて、ビームラインと実験エリア、電源ヤードなどの付帯設備の検討が急ピッチで進められている。図3に最近の検討状況を示す(フロアプラン、および3Dイメージ図)。現在、5月にも予定されている放射線申請に向けて、主要スペックの最終調整が行われている。

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図3:MLF第1実験ホールのビームラインレイアウト(右)。3Dイメージ(左)ではビームラインの遮蔽体に加え、電源ヤード、測定キャビンなどの配置が示されている。 [左:拡大図(156KB) / 右:拡大図(94KB)


◤ 大学共同利用

・共同利用実験実施状況

 MLFは順調に稼働しており、Dラインにおいても年度末までに2012B期21件の一般課題、および1件のプロジェクト課題をほぼ予定通り実施することができた。また、1月に審査が行われた2013A期の実験課題については、2月13日に開催されたMLF施設利用委員会において審査結果が了承され、J-PARCセンターから関係する各機関へ報告が行われるとともに、物構研運営会議でも採択課題を大学共同利用実験課題として受け入れることが了承されている。
 なお、4月1日からは2013A期実験が開始され、ほぼ切れ目なしに7月末までビームが供給される予定であり、その後半年間の長期シャットダウンとなる。

◤ イベント・会議

1. ミュオン科学諮問委員会(MuSAC)・ミュオン諮問委員会(MAC)

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図3:(上)MuSAC/MACのメンバーとMUSE関係者。(下)委員会の様子。 [上:拡大図(123KB) / 下:拡大図(98KB)

 

 第11回(物構研主催となってからは第4回)となるミュオン科学諮問委員会Muon Science Advisory Committee (MuSAC)が2月22日, 23日と2日間にわたりKEK東海キャンパスで開催された。この委員会では、物質構造科学研究所長からの諮問を受けてMUSE での研究活動、大学共同利用、施設運営などについて毎年評価するとともに、今後ミュオン科学が目指すべき方向についての助言・勧告が行われる。さらに、上記を踏まえてのMUSE施設の運転・維持管理などについては、J-PARCセンター長からの諮問を受けたミュオン諮問委員会(Muon Advisory Committee, MAC)が助言・勧告を行うが、両委員会を同一メンバーで合同開催することで、より実効性のある諮問委員会としての役割を果たしている。今回は、前任委員の任期満了に伴いメンバーを半数以上入れ替えた新しい委員構成の下で開催され、様々な諮問内容について検討が行われた(図4)。
 初日は、今回の諮問内容が山田物構研所長、および池田J-PARCセンター長からMuSAC、MACそれぞれに対して提示されるとともに、施設や装置開発を中心としたセッションが行われた。まず、池田センター長からJ-PARC全体について、および新井でビジョン長から物質・生命科学実験施設(MLF)の現状報告が行われた後、研究主幹からMUSEとそこで行われている大学共同利用研究について現況が報告された。続いて、M2トンネル内の整備、ミュオン生成標的開発、Uラインの建設、DラインμSR分光器の高度化を中心に、この1年間の進展についての報告がなされた。また、将来計画であるSラインとHラインについても、現在の検討状況が報告された。
 二日目はMUSEでの研究活動の審査評価が中心に行われ、現在実施中のプロジェクト型課題、S型課題各1件の報告、一次採択段階のS型課題2件および2012年度に新たに提案されたS型課題2件についての各実験課題責任者からの現状報告が行われた。
 当日最後にはMuSAC/MAC委員長から答申の要約が提示されるとともに、最終報告書が5月中に物構研所長宛に提出される予定である。

 

2. 物構研サイエンスフェスタ・MSLシンポジウム

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図4:物構研サイエンスフェスタ第2日に行われたMSLシンポジウムの会場風景。 [拡大図(610KB)


 表記会議が2013年3月14日〜15日につくば国際会議場を会場にして開催された。「サイエンスフェスタ」と銘打たれたこのイベントは、昨年度まで個別に開催されていた物構研シンポジウム、および研究施設毎のシンポジウムや研究会といった物構研関連の研究集会を出来るだけ合体させ、一時に(同時並行も含め)同じ場所で開催することで、会議運営に伴う事務・経費の節減を行うとともに、物構研の活動に関わる研究者が一堂に会することで、参加者には放射光・中性子・ミュオン各コミュニティーの境界を越えた交流を促す、という一石二鳥を狙った初めての試みであった。幸い、参加者の評判は概ね大変好評であり、今年度以降もこの形式での開催が継続される予定である。
 サイエンスフェスタでは、同時並行開催のミュオン利用者向け研究会として「MSLシンポジウム」が企画され(図5)、補正予算により一部の建設が始まるSライン、および今後の概算要求が予定されているHラインそれぞれで展開されるサイエンスを再確認するとともに、特にSラインについては計画されている4つのビームエリアを具体的にどのように活用すべきかについて、利用者も交えた活発な意見交換が行われた。

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