ミュオン科学研究系活動報告2013(8~9月)

2013年10月08日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:理研で準備中のメインアンプ用Nd:YGAGセラミック結晶。 [拡大図(631KB)

 物質生命科学実験棟では、5月末のハドロンホール事故を承けて中止していた諸工事を徐々に再開しつつあり、Uライン下流でも超低速ミュオンビーム発生装置の一部をなす静電光学系やμSR分光器の設置作業を進めている。ミュオニウム共鳴イオン化用大強度レーザーシステムについては理研での調整がほぼ順調に進んでおり、最終段の増幅器(メインアンプ)以外については準備を終えている。最終段についてはその主要部品であるNd:YGAG セラミックレーザー媒質(特許出願中)が9月に納入されており、12月までに最終調整を終えた後に再度J-PARCに持ち込まれる予定である。

 

2. Sライン

 H24年度補正予算により措置されたSラインの第1分岐までの建設については、電源ヤードの工事が始まっている。ただし、開始後間もなく、第1実験ホール北側壁にアンカーボルトを敷設する作業中に、ボルト用に空けようとした穴が壁面を貫通し、反対側の2Fホット空調機械室(第1種管理区域)との間の気密が破れるという事故が9月27日に発生した。幸いこの事故に伴う怪我人の発生や放射性物質の汚染は起きておらず大事には至っていないが、この事態を承けて工事は一旦中止となっており、原因調査と対策が講じられつつある。

 

3. Dライン

 Dラインでは、ハドロンホール事故を受けて中断していたDΩ1分光器の全面更新計画について、事故前の予定通り新型検出器Kalliopeによる高密度陽電子検出系を装備した分光器を2013B期に登場させるべく準備をすすめることを再確認している。また、これに合わせて希釈冷凍機も新規に導入する計画も順調に進んでおり、冷凍機本体は12月中に納入される予定である。
 なお、最近になって、超伝導ソレノイド系のヘリウム冷凍機について管理上の問題があることが明らかとなり、超伝導工学センター(J-PARC低温セクション)と共同で安全の強化に向けてJ-PARCセンターとも協力しながら管理体制の再構築を行っている。

 

4. ミュオン回転標的

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図2:回転標的レビュー委員会において実機の様子をMLF大型機器取扱室で見学する委員。 [拡大図(266KB)

 陽子ビームの大強度化に対応して研究開発が進んでいるミュオン回転標的について、実機によるオフラインでのコミッショニングがほぼ完了したことを承けて、8月末に試験結果の報告会、さらに9月19日には外部の有識者によるレビュー委員会が開催され、現行デザインの回転標的を陽子ビームラインに導入するかどうかについて、技術的な検討が行われた。
 今回のレビューは、実機投入前の実質的な検討会という位置づけで今年度当初から計画されていたものであるが、5月末のハドロンホールでの事故を承けてJ-PARC内でも機器の安全評価や管理についての体制が見直される事態となったことから、委員の中立性・客観性を担保するために人選を一部変更するなどし、暫定的にJ-PARCセンター長の下に位置づけられた第三者委員会という形での開催となった。なお、委員長には東北大学金属材料研究所の栗下裕明教授にお引き受け頂いた。
 レビュー委員会では、回転標的軸受けの潤滑剤の選択やその耐放射線性、メンテナンス時における被爆低減化、現行の固定標的の寿命評価と交換シナリオなどについて突っ込んだ議論がおこなわれ、最終判断に向けての貴重な助言が得られた。

 

◤ 大学共同利用

・2013B期一般課題

 32件という過去最多数の課題を受理したD1/D2実験装置の2013B期課題については、9月末までにレフェリーによる評価作業が無事終了した。現在業務ディビジョンを中心に評価結果のとりまとめ、およびプロジェクト利用、装置グループ利用についての希望ビームタイム調査もほぼ完了しており、来る10月7日に開催されるミュオン課題審査部会・分科会で審査が行われる予定である。

 

・2014期S型課題

 ミュオンS型課題の公募は例年通り10月から開始される予定であり、KEK共同利用支援室で準備が進行している。

 

◤ イベント・会議

・超低速ミュオン顕微鏡国際シンポジウム(USM2013)

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図3:USM2013での集合写真(上)、および会場風景(下)。 [上:拡大図(262KB) / 下:拡大図(356KB)

 Uラインで準備中の超低速ミュオンに関する表記会合が、8月9日〜12日の日程で松江コンベンションビューローにて開催された(図3)。ハドロンホール事故の影響もあり、残念ながら超低速ミュオンのファーストビームを祝しての開催という目論見は外れたものの、10カ国から121人の参加者を得て盛会の裡に閉幕した。
 シンポジウム初日には、超低速ミュオン発生の端緒となる研究を行った永嶺謙忠氏(KEK名誉教授)による基調講演が行われ、引き続き超低速ビーム関連の技術開発および関連する基礎物理に関する招待講演が行われた。また、初日最後の磁性のセッションでは関連する新学術領域研究として、「トポロジカル量子現象」について領域代表である前野悦輝氏から研究の進展状況についての紹介が行われた。2日目からは触媒、イオン拡散、超伝導、スピントロニクス、さらには水素と生命科学などの多彩なテーマのセッションで招待講演と関連する口頭発表が行われ、活発な質疑応答が行われた。
 なお、エクスカージョンでは会議参加者の多くが丁度60年ぶりの大遷宮で注目を集めている出雲大社を訪れ、猛暑の中外国からの参加者も神道を中心とした日本文化の一端に触れる機会となった。

 

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