ミュオン科学研究系活動報告2014(4~5月)

2014年06月16日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:超伝導湾曲ソレノイド内部下流からファイバースコープで見た上流端部の様子。本来はフォイル窓に隠れて見えないはずの隣接するビームダクト下流端部(左上)が映っており、周りに破断したフォイルが見える。 [拡大図(565KB)

 前回に報告した超伝導湾曲ソレノイドのトラブル(超伝導コイル先端部の冷却不足)については、その後下流側からソレノイド内部をファイバースコープで観察した結果、上流側端部に設置されていた熱輻射シールド用金属フォイル窓が破損していることが明になった(図1)。破損の時期や原因は調査中であるが、これによりソレノイド上流端部が室温からの熱輻射に晒され、冷却能力を上回る熱侵入が起きていたと推測される。フォイル窓を交換するためにはソレノイド全体を移動台車にて実験室側に引き出す必要があり、修理作業は夏期シャットダウン中にしか行うことが出来ないことが明確になった。従って、超低速ミュオンビーム生成実験は夏期シャットダウン終了後(11月)以降にずれ込む予定である。
 なお、下流側の超低速ミュオンビーム発生装置の準備はほぼ順調に進んでおり、静電輸送系については高温タングステン標的から放出されるリチウムイオン(不純物として存在)を用いた調整が順調に進んでいる。さらに、ミュオニウムイオン化用のレーザーについても、すでにMLFに持ち込まれた装置によるライマンα光の発生に成功しており、今後他の波長の光も含めレーザー出力の増強に向けた調整が進む予定である。

 

2. Sライン

 昨年度補正予算によるビームライン装置・機器の製作を受けて、夏期シャットダウン中に予定されているこれらの設置作業、および必要となる冷却水・電気等インフラの工事について検討が進められている。

 

3. Dライン

 D1エリアでは、2014A期に入ってからも分光器のコミッショニングが装置グループ利用の時間を割いて断続的に行われており、得られるμSR時間スペクトルの歪みも改善しつつある一方、高磁場励磁に伴い昇温したコイルからの熱によりKalliope検出器のゲインが影響を受けることが分かり、対策が検討されている。また、震災復旧補正予算を用いた超伝導ソレノイド電磁石およびヘリウム冷凍機システムについても実施設計が最終段階に入っている。

 

4. ミュオン回転標的

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図2:ミュオン標的移送用キャスク(左)、およびCTモニタ(右)。 [左:拡大図(565KB) / 右:拡大図(418KB)

 回転標的については2014年9月の実機導入に向けて準備作業を継続しており、2013年12月に完了することが出来なかった項目中で陽子ビーム運転を継続しながら実施できる作業を行っている。現行のミュオン標的は陽子ビームライン脇の一時保管庫内の真空容器内に保管される。一時保管庫内には固定標的2機と回転標的2機を格納することが出来る。使用済みの放射化標的を格納する際にはキャスクを用いて遠隔操作で吊り上げ、吊り下げを行う必要がある。実際にキャスクを用いて回転標的、固定標的を格納するコミッショニング作業を6月中に実施する予定である。そのための準備作業として、測量作業およびキャスクの定期点検を実施した。また、2013年度内に納入されたCTおよびプロファイルモニタを組み立て、標的用一時保管庫に隣接するモニタ用保管庫に格納した。図2にキャスクおよびCTモニタを示す。

 

 

◤ 大学共同利用

・2014A期共同利用実験実施状況

 当該期に採択となった課題は26件(うち1件はP型)、予備採択となった課題は6件であった。採択課題については4月14日から始まったビームタイムで概ね順調に実施されており、5月末迄に10件の課題が実施された。

 

・S1/S2型課題の公募

 先の物構研ミュオンPACにおいて導入されたS1/S2型課題について、2014B期の共同利用課題公募が行われており、6月13日に〆切られる予定である。

 

◤ イベント・会議

・第5回ミュオン共同利用成果報告会

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図3:成果報告会の様子。 [左:拡大図(786KB) / 右:拡大図(823KB)

 5月26日、J-PARC MUSE成果報告会がKEK東海キャンパスにて開催された。 これはJ-PARCミュオン科学研究施設で2013年度に実施された大学共同利用実験について、実験者がデータの解析方法や結果の解釈などをインフォーマルに情報交換するための研究会で、今回が5回目となる。 ミュオンを用いた研究の幅広さを反映し、普段顔を合わせることの少ない異分野の研究者が集まる交流の場ともなっている。
 最初に施設側から、建設が進められている超低速ミュオンビームライン(Uライン)、低速ミュオンビームライン(Sライン)の進捗状況と、 今後建設が計画されている高速ミュオンビームライン(Hライン)についての現状が報告された。
 報告会では「1.ミュオン基礎物理・技術開発」、「2.非破壊元素分析・物理化学」、「3.強相関電子系」、「4.材料科学・水素関連欠陥」の4つのセッションに分かれ、最初のセッションでは、Hラインで提案されているミュオン・電子転換実験用の検出器開発、 ミュオニウム(ミュオンが電子を束縛した水素原子のような状態)の精密測定のための検出器開発、超低速ミュオニウム発生用の標的材料開発など、技術開発に関わる実験についての報告が中心に発表された。
 引き続くセッション2では、ガラス封入した状態の隕石模擬物質の非破壊元素分析実験などが報告され、セッション3、4ではミュオン・スピン回転法を利用した銅酸化物超伝導体、遷移金属磁性体の研究、 さらにはミュオニウムが水素のように振る舞う性質を利用した導電性セメント中の水素状態の分析、水素吸蔵化合物中の水素の動きを観る研究などが発表された。
 2013年度は、J-PARCハドロンホールの事故の影響により、MLFでの実験件数は大幅に減少したが、この成果報告会は前年度と変わらず多くのユーザーが集まり、盛会となった。 来年度には、稼働するビームラインも増える予定のため、ユーザー数、サイエンスともに更なる広がりが期待される。

 

 

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