ミュオン科学研究系活動報告2014(6~7月)

2014年08月05日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:Uラインから引き出された超伝導湾曲ソレノイドの上流端部。コイルボア中心(画面右下)に見えるのが、破断してなくなっていた金属フォイルを張り替えたもの。 [拡大図(94KB)

 7月の夏期シャットダウン開始と同時に、超伝導湾曲ソレノイドの上流側端部にある破損した熱輻射シールド用金属フォイル窓の修理が行われた。二次ビームライン遮蔽体の移動、第1種放射線管理区域設定、ソレノイド全体の移動台車による実験室側への引き出し、金属フォイル部分の交換(図1)、と作業は順調に進み、7月17日に湾曲ソレノイドは再度定位置に復帰するとともに、22日から冷却試験が始まっている。また、この間大型機器取扱室では大型ゲートバルブ(UGV1)の交換作業も行われた。
 なお、下流側の超低速ミュオンビーム静電輸送系については、引き続き高温タングステン標的から放出されるリチウムイオンを用いた調整が行われており、ミュオニウムイオン化用のレーザーについても出力の増強に向けた調整が進行中である。

 

2. Sライン

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図2:(左)仮置きされたSライン最上流の四重極磁石。(右)上流部冷却水配管工事の様子。 [左:拡大図(115KB) / 右:拡大図(418KB)

 第1実験ホールでは、昨年度補正予算により製作されたSライン用のビームライン装置・機器のの設置作業が進んでおり、仮置きされていた二次ビームライン遮蔽体の移動後、ビームラインの測量とけがきとアンカーボルトの設置作業、遮蔽体内上流部と貫通口部分の冷却水配管工事等が行われた(図2)。また、冷却水配管工事についても仕様がほぼ固まり、7月末に入札公告が行われている。なお、電気工事関係については仕様確定にむけて最終作業が進められている。

 

3. Dライン

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図3:第2ヘリウム圧縮機室に設置が完了した冷凍機用圧縮機。 [拡大図(106KB)

 D1エリアに投入された分光器では、高磁場励磁(>2 kG)に伴い昇温したコイルからの熱によりKalliope検出器のフォトダイオードが影響を受けることが分かり、その対策としてコイルとKalliopeモジュールの隙間に遮熱用の銅板を挿入し、銅板の温度を冷却水で一定に保つ方向での改造が検討されている。また、この改造に際しては、試料位置から見た検出器の位置を後退させることで、立体角を多少犠牲にしても崩壊陽電子空間分布の非対称度をより大きく取ることや、ビームコリメーターの最適化等も同時に行う方向で検討が行われつつある。
 一方、震災復旧補正予算を用いたDライン超伝導ソレノイド電磁石およびヘリウム冷凍機システムの更新の一環として、新たに購入された冷凍機用圧縮機が納入され、第2ヘリウム圧縮機室への据え付けが完了した(図3)。今後の予定としては、8月に新たな冷却塔設置と水、電気、ヘリウム配管工事等を行い、9月には運転試験が行われ、10月の完成検査を目指している。

 

4. ミュオン回転標的

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図4:(左上)セル入域時の装備、(右上)交換装置から切断装置への模擬体の受け渡し試験、(下)保管容器内への格納、切断試験の様子。 [左上:拡大図(49KB) / 右上:拡大図(397KB) / 下:拡大図(102KB)

 

 7月に入り、2008年から使用している固定標的から回転標的への移行作業、および使用済み固定標的をホットセル内で減容のために切断して長期保管容器内に格納する遠隔コミッショニング作業を実施している。6月は標的交換のための準備作業を実施し、7月16日~25日に1回目の遠隔コミッショニング作業を実施した。今回は標的模擬体を切断して容器内に遠隔操作で収納可能か確認した。未経験の作業であるため、ホットセル内に作業員が入域して作業を行うが、既に中性子源の交換作業によってセル内は汚染されており全面マスク、タイベックスーツを着用しての作業となった。結果として回転標的模擬体を問題なく切断、格納出来る事を確認できた。9月2日~8日に固定標的模擬体の切断、格納のための第2回遠隔コミッショニングを予定している。
 回転標的設置のために、7月30日に使用済み固定標的をビームラインより抜き出し、一時保管庫に格納した。使用済み標的は高度に放射化(400mSv/h@20cm)しており、遮蔽機能付き輸送容器キャスクにて作業を行った。事前に、固定標的の健全性をビームラインの12m上流から確認した。また、標的抜き出し作業時にも、監視カメラを増設し、汚染度確認のためのスミヤチェックを実施できるようになった。まお、9月10日よりビームラインへの回転標的設置作業を計画している。

 

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図5:左からビームラインから撮影した固定標的、キャスクによる抜き出し作業、固定標的のスミヤ作業の写真。 [左:拡大図(66KB) / 中:拡大図(45KB) / 右:拡大図(307KB)

 

◤ 大学共同利用

・2014A期共同利用実験実施状況

 当該期に採択となった課題は26件(うち1件はP型)、予備採択となった課題は6件であった。採択課題については4月14日から始まったビームタイムで概ね順調に実施されており、夏期シャットダウン前の4月末迄に16件の課題が実施された。また、ミュオンでは初めて緊急課題が1件認められ(2.5日)、6月初頭にD1装置で実施されている。なお、採択課題中2件については、実験条件の都合により実施が見送られている。

 

・2014A期共同利用実験実施状況

 ミュオン共同利用一般課題については、6月13日〆切で公募が行われた結果、46件(Q1分科18件、Q2分科28件)の応募があった(うち3件はP型)。これらについては、7月28日に開催されたMLFミュオン課題審査部会、および物構研ミュオンPACとの合同分科会において審査が行われた。また、物構研PACから付託された1件のS2型課題についても、該当するQ2分科会において事前評価を踏まえての審査が行われた。
 課題審査部会では、評点による順位に従ってビームタイムを与えると上位半数の課題飲み採択となることから、前回と同じく傾斜配分により下位の課題のビームタイムをさらに削減することとし、調整の結果1件のS2型課題を含む23件の一般課題、および3件のP型課題を採択、15課題を予備採択とすることとした

 

・S1/S2型課題の公募

 一般課題と同時に公募されたS1/S2型課題(2014B期)についても、前回までのミュオンPACで一次採択となっているS課題の中から二次採択申請が1件、さらにS1、S2型課題それぞれに新規の応募が1件づつあった。
 二次採択申請課題については、7月18日に開催されたMLFミュオン装置部会・物構研ミュオンPAC合同の実験技術評価分科会においてヒアリングが行われた結果、一部条件付きで二次採択を勧告するとの結論が得られた。評価結果については主査(旭委員)によるとりまとめが行われ、7月28日に開催された物構研ミュオンPACにおいて本評価結果に基づく審議が行われた結果、二次採択が認められた。
 新規課題については、それぞれ4名の匿名レフェリーによる事前評価が行われ、S1型課題については7月28日に開催されたミュオンPACにおいて実験責任者(代理)からのヒアリングが行われ、その結果および事前評価結果による審議が行われた結果、一次採択となった。一方、S2型課題については、前述のように該当するQ2合同分科会において事前評価に基づいた審査が行われ、一般課題とともにMLFミュオン課題審査部会においてその結果が審議され、採択となっている。

 

◤ イベント・会議

・第13回ミュオンスピン回転・緩和・共鳴国際会議

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図5:組織委員の一人であるC. Bernhard氏からポスター賞を受ける山内氏。 [拡大図(1000KB)

 6月2日から6日にわたり、スイスのグリンデルバルトにおいて表記国際会議が開催され、国内からも多数の研究者が出席した。この会議は3年に1度開催されており、μSRに関心を持つ研究者の国際的なフォーラムとして40年近い歴史を誇る。また、第10回からはYamazaki Prize(山崎賞)を制定し、μSRを活用して功績を挙げた研究者の顕彰も行っている。今回はイタリア・パルマ大学のRoberto de Renzi氏が同賞を受賞した
 会議では、μSR以外の分野から著名な研究者を招待講演者として迎えるとともに、関連するテーマごとに最近の研究成果を中心にした講演プログラムが組まれていた。開催地の事情もあり、口頭発表はややヨーロッパの研究者に偏る感もあったが、銅酸化物・鉄系超伝導体の電子状態から始まって、化合物磁性、マルチフェロイックな物性、高分子のダイナミクス、さらには半導体中の水素関連物性と、多岐なテーマにわたり活発な質疑応答が繰り広げられた。また、会議最終日にはポスター賞の発表が行われ、KEK物構研からは山内一宏氏が受賞した(図5)。
 なお、次回(2017年)については、日本中間子科学会による誘致を受ける形で、日本国内での開催が決まっている。

 

 

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