2014年10月16日
1. Uライン
夏期シャットダウン中の作業は順調に進行している。7月に修理を終えた超伝導湾曲ソレノイドについては、引き続いて始まった冷却試験(〜3週間)の結果、初期の性能を回復したことが8月に確認された。
また、懸案であったレーザーについても、7月にはタングステン標的からの水素原子をライマンα光によりイオン化することに成功するとともに、レーザー光強度の確認が行われた結果、主アンプを欠いた現状で約3μJ/pulseの出力が得られていることが確認された。主アンプについては、引き続きアンプ用大型セラミック結晶の品質を最適化する努力が行われており、順調に進めば来年1月に投入される予定となっている。
2. Sライン
第1実験ホールでは、引き続きSライン用のビームライン装置・機器のの設置作業が進んでいる。遮蔽体内上流部と貫通口部分の冷却水配管工事は順調に進み、新たにビームライン電磁石用の冷却水配管についても工事が行われ、ほぼ予定通り完了した。なお、耐圧試験では試験方法を巡って若干の問題が発生したため、改めて試験方法を検討している。
3. Dライン
D1のμSR分光器で問題になっているコイルからの熱によるKalliope検出器のゲイン変動の対策として、Kalliopeモジュールの隙間に挿入する遮熱シールドの検討が行われ、実機の製作に入っている。また、立体角よりも崩壊陽電子空間分布の非対称度をより大きく取れるように試料位置から見た検出器の位置を後退させる改造工事も進んでいる。ビームコリメーターについても、検出器の位置変更に伴いビームライン出口からの分光器の距離が後退したことを受けて改造が行われており、10月上旬までに完成予定である。 また、Dライン用に新調した冷凍機用圧縮機(超伝導ソレノイド電磁石ヘリウム冷凍機システム用)については、9月末までに冷却塔設置と水、電気、ヘリウム配管工事が無事完了している。これを承けて、10月半ばからは運転試験が行われ、順調に行けば月末にも完成検査を受ける予定である。
4. ミュオン回転標的
2014年5月まではミュオンを生成するために固定標的方式を採用していたが、本長期シャットダウンの間に回転標的に移行する事を計画している。また同時に、遠隔操作室内で使用済み標的の高放射化部のみを切り出して、長期保管容器内に格納するコミッショニングを行った。7月22日~25日に切断、格納試験を実施し、引き続き、9月1日~8日にはパワーマニュピレーターによるボルト締結、クレーンによる輸送が遠隔操作で出来る事を確認できた。
7月30日に5年間使用した固定標的を保管庫に移動した。8月1日には回転標的実機をビームラインに設置する準備作業として9台のカメラによって高放射化したビームラインおよび新たに設置する回転標的のビームラインとの干渉を確認した。結果として問題点は無いが確認できた。9月16日には回転標的をビームラインに設置し、引き続いて真空リーク試験、インターロック試験を完了した。
・新学術領域研究「超低速ミュオン顕微鏡」第3回領域会議
9月23日から25日にわたり、東北大WPI-AIMRを会場に表記研究集会が開催され、関連する多数の研究者が参加した。また、これに先立ちプレスクール「異分野理解を深めるために」も開催され、μSR法の初歩や超低速ミュオン生成に関する基本的な物理について、非専門家向けの講演が行われた。
領域会議では、表面・界面物理の理論家である塚田捷氏、およびスピントロニクス材料の研究開発を先導する大野英男氏という当該分野の著名な研究者による招待講演を軸に、10のセッションにまとめられた30件を超える口頭発表、およびポスター発表がなされた。昨年のハドロン事故や超伝導湾曲ソレノイドの故障等、一連の予期しなかったトラブルにより残念ながら超低速ミュオンビーム実験がいまだに開始できない状態が続いているが、それに向けた準備研究の成果や実験提案などについて活発な議論が行われた。また、今年度から新たに加わった公募研究についても、提案者の自己紹介および研究目的の紹介が行われ、計画研究の班員との情報交換を行う有意義な機会となった。