ミュオン科学研究系活動報告2014(10~11月)

2014年12月01日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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図1:東海1号館に搬入されたPLD成膜装置。 [拡大図(45KB)

 Uラインの湾曲ソレノイドについては、GM冷凍機のHe圧縮機用の冷却水の運転が再開した10月初めより、断熱フォイル補修作業後としては2度目の冷却試験を開始した。ほぼ予定通り冷却が完了し、超伝導コイルの温度も5 K以下まで冷却された。収束ソレノイド系では、ブロッカーユニットの超伝導ソレノイドの冷却中、温度カーブに異常が出たため予備機と交換した。その後の再冷却では全台に異常はなく、冷却が完了している。また、11月の陽子ビーム運転再開後には、表面ミュオンの輸送に必要な電流値に設定して励磁・安定度の試験が行なわれ、その後も問題なく運転が継続している。表面ミュオンビームの輸送も正常に行われていることが確認されている。なお、ミュオニウムイオン化用レーザーについては、引き続きライマンα線を出すための調整が続行中である。
 一方、超低速ミュオンビームラインでは、真空ベーキングを4つの部分に分けて行い、10-7-10-8 Paの真空度を達成している。現在、Liイオンによる調整を兼ねて、W標的による内部ベーキングを実施している。μSRスペクトロメータ関連では、試料に磁場を印加するためのコイルの電源を高電圧ステージ上に設置し、配線作業を行った。また、試料冷却のための冷凍機の試験を行い、5 Kまで冷却できることを確認した。さらに、真空中での試料受け渡し機構の試験を行い、ほぼ問題がないことを確認した。なお、科研費により調達したパルスレーザー蒸着(PLD)成膜装置が東海1号館に納入され、実験用の薄膜試料製作に向けた準備も始まっている(図1)。

 

2. Sライン

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図2:11月7日にSラインで行われた施設検査の様子。 [拡大図(258KB)

 9月5日に発生したSライン冷却水配管耐圧試験を原因とした30系冷却水漏水事象の再発防止対策、施設側既存配管の健全性確認について、MLFディビジョン内の配管系安全検討委員会において10月16日, 10月20日に報告・検討をおこなった。検討内容についてMLFディビジョン長の了承を得たのち、10月28日から30系冷却水運転(新規配管系統を含む)を開始した。
 冷却水の運転中断に伴い延期していた機器調整作業についても、その後急ピッチで進められた。さらに、ビームブロッカー、ゲートバルブ等の動作確認、真空試験といった最終確認作業を終えて、10月31日にはすべての遮蔽を復旧し、夏期シャットダウン開始以降に続いてきたビームライン建設工事も無事完了した。
 引き続き11月4日には自主検査を行い、同7日の施設検査(図2)を受けてSラインのビーム利用が正式に認められることとなった。現在、ビームライン各機器の調整作業が進行中である。

 

3. Dライン

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図3:セラミックダクトを用いたキッカー真空層の絶縁の様子。 [拡大図(369KB)

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図4:D1分光器に設置された希釈冷凍機の心臓部。 [拡大図(225KB)

 Dライン用の冷凍機用圧縮機(超伝導ソレノイド電磁石ヘリウム冷凍機システム用)については、10月半ばから試験運転が行われ、予定の冷却能力を持つことが確認された。また10月27日には完成検査を受け、月末からは共同利用に向けた連続運転を開始した。一方、現在Dラインではミュオンビームを単バンチ化するキッカーが稼働しており、μSR実験においては極めて有効に利用されている。しかしながら、負ミュオンを用いたミュオニックX線の測定においては、キッカーに由来するノイズが分解能を下げている状況である。そこで夏季シャットダウン中に、接地線の強化、およびキッカー真空層の上下流にセラミックダクトを挿入してビームライン本体から絶縁化するなどの対策を講じた(図3)。この結果、グランドからのノイズは大幅に低減したことが確認された。
 また、μSR実験においては極低温実験の需要が多いことから、D1エリアにおいて希釈冷凍機の整備を進め、2014B期よりD1エリアに新型希釈冷凍機を導入、運用開始した(図4)。本冷凍機は液体ヘリウムを用いることなく全自動冷却が可能なもので、これにより低温実験の効率の大幅な向上が見込まれる。

 

4. ミュオン回転標的

 従来の固定標的より長寿命化することを目指し、11月4日より回転標的による陽子ビーム運転を開始した。利用運転開始に先立ち、陽子ビーム強度470 kW(フルビーム時は1 MW)で1.5時間の大強度試験を行った。回転標的構成機器の温度が静定するまでには至らなかったが、問題なく運転できることを確認できた。その後、利用運転のために300 kW連続運転を開始した。回転標的運転時には、回転用サーボモータートルク、回転速度、真空度、冷却水流量、冷却水温度、ビームロスなどを監視している。軸受が損耗するとモータートルクは上昇するが、1か月間の運転では変化は観測されていない。回転体の温度を直接、観測することは困難なため、黒鉛標的および回転シャフトからの熱輻射によって加熱される熱絶縁された熱電対の温度上昇を監視している(図5)。想定通りの有意な温度上昇が観測されており、今後、運転を継続しながら信頼度の向上を図る。現在の黒鉛の温度は解析結果から400℃程度、回転シャフト温度は70℃と予測している(図6)。
 標的周辺では、機器の放射化が進んでおり、定期保守時の被ばく量低減のための局所遮蔽の設計、製作が進んでいる(図7)。回転標的予備機、使用済み標的の中放射下部の長期保管容器の製作が進められている。

 

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図5:熱絶縁された熱電対による回転シャフトの温度計測。 [拡大図(70KB)

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図6:黒鉛標的の温度計測。 [拡大図(45KB)

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図7:標的周辺の局所遮蔽体の設計(3D-CADによる)。 [拡大図(49KB)

 

 

◤ 大学共同利用

・2015A期共同利用実験課題公募

 ミュオン共同利用一般課題については、11月7日〆切で公募が行われた結果、40件(Q1分科16件、Q2分科24件)の応募があった。これらについては、来年1月16日に開催されるMLFミュオン課題審査部会、および物構研ミュオンPACとの合同分科会において審査が行われる予定である。

 

・S1/S2型課題の公募

 一般課題と同時に公募されたS1/S2型課題についても、前回までのミュオンPACで一次採択となっているS1課題の中から二次採択申請が3件、継続課題についての研究計画調書およびビームタイム申請が3件あった。また、継続中のS2型課題についても1件の研究計画書およびビームタイム申請を受理している。これらのうち、二次採択申請課題については12月15日に予定されているMLFミュオン装置部会、および実験技術評価分科会(物構研・MLF合同)で評価が行われ、その結果を基に来年1月15日に開催される物構研ミュオンPACにおいて審査が行われる予定である。また、研究計画調書についてもミュオンPACにおいて審査が行われる。

 

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