ミュオン科学研究系活動報告2014-2015(12~1月)

2015年02月09日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Dライン

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図1:ミュオンビームプロファイルの位置依存性。D1分光器の試料位置をz=0としてある。 [拡大図(586KB)

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図2:D1分光器に導入された遮熱シールド。 [拡大図(98KB)

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図2:D2実験エリアに設置されたミュオンX線非破壊元素分析用チェンバー。 [拡大図(258KB)

 2014年2月にD1実験エリアに導入した新分光器に合わせたビームコリメータを製作し、イメージインテンシファイアを用いたビームプロファイルモニタでビーム形状を観測した。コリメータ内部構造の改善により、従来のコリメータより平行度の高いミュオンビームが取り出せることが分かり(図1)、直径が数mm程度の微小試料測定への道筋が見えて来た。
 新分光器で用いられているピクセル分割型アバランシェ光ダイオードは、増幅率の温度依存性が大きいという問題点があり、検出器周りの温度安定性の改善が必要とされていた。そこで、電磁石ボアと検出器の間に遮熱シールドを導入した(図2)。検出器位置での温度上昇が導入前の10℃から2℃程度まで抑えられた。
 D2実験エリアでは、S1型課題(課題責任者:三宅康博)による負ミュオン捕獲特性X線を用いた非破壊元素分析法の開発が進んでいる。複数のゲルマニウム検出器を用いることで、X線の立体角を稼ぐとともに1パルスあたり複数イベントの測定を可能にし、迅速な測定を行うことを目指しており、そのための試料チェンバーが製作導入された(図3)。さらに、共同利用に使いやすいユーザーインタフェースの開発に加え、低い運動量を持つ負ミュオンビームの安定性を上げることにより、微小試料や積層構造の特定の層の元素分析が可能になりつつある。前者は、はやぶさ2試料等のようなごく微量試料の測定、後者はリチウム電池などの積層構造の研究を対象としている。
 なお、ビーム停止期間中であった1月16日15時頃に、D2エリア脇のセプタム電磁石電源において火災事故が発生した。詳細については事故報告書(第1報)を参照されたい。この事故を承けて、現在ミュオンセクションではJ-PARCセンターおよび物構研の協力・指導の下で原因究明と対策を講じつつあるが、これに加えてセクション内でも再生タスクフォースを立ち上げ、再発防止に向けた取り組みを行っている。

 

2. Sライン

 Sラインでは引き続き新設ビームラインの調整作業が進行している。12月からは冷却水運転が開始され、各電磁石の冷却水インターロック接点信号の動作確認が行われた。一部、接点の設定に甘いものがあったため、1月初頭のビー運転停止期間中に天井遮蔽を移動し、電磁石側の接点の設定について再調整が行われた。また、これにあわせてDCセパレータのケーブル接続も確認したところ、遮蔽体内の高周波トランス接続に不具合が見つかったため、これについても修復作業が行われている。
 パルス電場キッカーについては、遠隔操作部分の試験、手直しをおこない、EPICS側からの操作が問題ないことが確認された。
 なお、DCセパレータについては高電圧印加試験を開始し、徐々に印加電圧を上げつつ150 kVに到達したところであるが、第2実験ホールのセプタム電源火災が発生したため試験を中断している。また、電磁石電源の実負荷通電試験を1/19から予定していたが、こちらについても試験は中止された。

 

3. Uライン

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図4:ミュオニウムのレーザーイオン化実験の様子。 [拡大図(479KB)

 大強度表面ミュオンビームラインでは、超伝導湾曲ソレノイドの冷却が完了し、昨年12月のビームタイム中、安定的に励磁状態を維持した。静電セパレータについては、ビームを入射させた状態でのエイジングを進め、アルゴンガスを導入して±350 kVまでの印加に成功している。また、電圧の自動立ち上げプログラムの構築が進められている。
 共鳴イオン化用レーザーについても、ライマンαを生成してミュオニウムチェンバーに入射するに至った。12月20日からレーザーイオン化したミュオンの引き出し試験を行ったが、静電レンズ系電源の1つに故障があり成功しなかった(図4)。レーザーイオン化した水素の引き出しには成功し、イオン化の波長依存性などを測定した。1月には、ライマンαの安定性向上の為、クリプトンガスセルをアクリル製からガラス製へと交換した。また、最終アンプの結晶の製作が進められている。
 μSRスペクトロメータ関連では、高電圧の表示装置などの安全機器の整備が進められ、コイルへの電源からの配線・冷却水の配管を行った。また、μSRチェンバーのベーキングを準備しているところである。
 なお、故障のあった静電レンズ系についてはその後電源の交換が完了し、ビームを待っている状態である。

 

4. ミュオン生成標的

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図5:昨年夏行われた遠隔コミッショニングの様子。 [拡大図(389KB)

 昨年9月に固定標的に代えて導入した黒鉛回転標的による300 kW陽子ビームを用いた利用運転が順調に継続している。1月12日には大強度試験として400 kWによる1時間の連続運転を行い、安定した運転が可能であることが確認された。軸受劣化を示す指標であるモーター電流の上昇も観測されていない。
 現在、万一に備えて回転標的予備機を製作中であり、今年度中に納入予定である。昨年夏期には使用済み標的を放射化機器取扱室内において遠隔操作で切断して格納するコミッショニングを実施したが(図5)、引き続き高放射化部を切断した残りの標的ロッド部(中放射下部)を格納できる長期保管容器を設計・製作している。また、標的直下流には標的で散乱した陽子ビームを整形するスクレーパが設置されているが、今後ビーム強度が上昇した際に、ビーム条件によってビームロスが上昇する可能性が前述の大強度試験において確認された。そのため、高いビームロスに耐えることのできる新スクレーパの設計、製作を開始した。
 回転標的は既にビームラインで稼働中だが、これを安全な状態で継続的に運転できるように周辺機器の開発を予定している。なお、これまでMLF第一実験ホールに設置していた回転標的加熱試験機については、ヘンデル棟大実験室に移設した。

 

 

◤ 大学共同利用

・2015A期共同利用実験一般課題の審査

 ミュオン共同利用一般課題については、応募があった40件(Q1分科16件、Q2分科24件)の課題について、1月16日に開催された物構研ミュオンPAC・MLFミュオン課題審査部会合同で開催された分科会、および部会において審査が行われた。その結果、両分科合わせて29件の課題が採択、10件が補欠採択、1件が不採択となった。なお、今回も要求ビームタイムの合計(131日)が当初予定された利用日数(56日)を大幅に上回っており、最終的な採択課題の決定に当たっては、前回に引き続き1課題あたりのビームタイムを(評点による優先度を考慮しつつ)削減することで採択課題数を増やす措置が講じられた。また、利用日数についても課題責任者の了解を得て装置グループ課題、およびS1型課題より計8日を移行して64日としたことを付記する。
 上記審査結果は1月27日に開催されたMLF施設利用委員会で了承されており、まもなく課題責任者へ通知される予定である。

 

・S1/S2型課題

 MLFミュオン装置部会、および実験技術評価分科会(物構研・MLF合同)が昨年12月15日に開催され、先に二次採択申請が行われたS1型課題3件について課題責任者からのヒアリングによる評価が行われた。その結果、1件について二次採択を勧告、1件について二次採択保留を勧告、1件について一次審査への差し戻しを勧告するという評価を得た。
 さらに、物構研ミュオンPACが1月15日に開催され、前述の実験技術評価分科会からの評価報告を承けてのS1型課題の審査、および継続課題3件についての研究計画調書およびビームタイム申請についての審査が行われた。前者については、主査からの評価報告に基づいて審議の結果、分科会の勧告をPACの結論とするとともに、差し戻しを受けた課題については、研究の具体的な目的とそのために必要な技術開発の目標を明確にした申請書を再提出するよう、課題責任者に要求することとした。
 なお、研究計画書および後半期のビームタイム申請を受理した継続中のS2型課題1件については、これを了承した上でMLFミュオン課題審査部会に回付し、一般課題と同等の扱いでビームタイムの割り当てが行われている。

 

◤ イベント・会議

・第2回MLFスクール

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図6:MLFスクールでのミュオンの実習風景。 [拡大図(279KB)

 第2回MLFスクールが昨年12月16日~19日の日程で開催された。このスクールは、中性子・ミュオンの利用に興味を持つ学生や若手研究者を対象とした講習会であり、次世代の研究者育成につなげようという意図の下に行われている。今回は大学院生を中心に、中国、韓国、モンゴルからも含めて23名の参加があり(うちミュオン利用には6名)、D1実験装置によるミュオンスピン回転法についての講習が行われた。(図6)

 

 

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